DM ゼミ 要旨 2007


04/26 (木曜) 13:30- 15:30   南部 慎吾

タイトル:

GPSネットワークを用いた大規模伝播性電離圏擾乱の研究

要旨:

地球の高度約80 kmから約700 kmまでは電離圏と呼ばれ電子とイオンからなるプラズマが存在する。電離圏の電子密度分布は層構造をなし、中緯度域では主に太陽放射と中性大気の密度によって決定されるが、中性大気風や磁気嵐によって電子密度分布は変化することが知られている。

水平方向に1000 km以上の規模を持つ電子密度分布の擾乱が伝播する現象を、大規模伝播性電離圏擾乱(Large-Scale Traveling Ionospheric Disturbances:LSTIDs)という。この現象の原因はオーロラ電流のジュール加熱などにより発生する大気重力波だと考えられている[Hines (1960)]。レーダーやGPSによるLSTIDsの観測が行われているが、未だに発生機構、伝播機構は解明されていない。

本研究ではLSTIDsの発生機構を解明すべく、この現象の出現の特徴を、GPS Earth Observation Network(GEONET)を用いて作られた電離圏の全電子数擾乱の水平分布図を用いて、2003年8月10日から2004年5月31日までに日本の上空に出現した29例のLSTIDsの解析を行った。

9例の内25例でその水平伝播速度及び伝播方向を、27例で周期を求めた。平均速度は磁気嵐発生時が 633 m/s、静穏時が 367 m/s、全体で511 m/s であり、24例が赤道方向に伝播した。平均周期は78分であった。またLSTIDsが発生した時刻での地磁気の様子を Dst index 及び、AE index を用いて調べた。その結果磁気嵐が発生した期間に16例出現し、これまで考えられていた磁気擾乱時に発生するという特徴が確かめられた。AE index の変動時刻及び観測された伝播速度、方角からLSTIDsの発生地点を推定したところ極域に集中していた。この結果は、オーロラ電流の発達によってLSTIDsが発生するという生成機構を示唆するものである。

参考文献 Hines, C. O.,(1960),Internal atomospheric gravity waves at ionospheric heights, Can. J. Phys.Lett.,38,1441-1481.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0426/pub


05/10 (木) 13:30- 15:30   光田 千紘

タイトル:

放射加熱によって調節された二酸化炭素氷雲の散乱温室効果と古火星の温暖化

要旨:

地形学的証拠から初期 (38 億年前) の火星は液体の水が地表面で安定に存 在できるほど温暖であったと推測されており, そのメカニズムとして高圧の CO2 大気の存在とその対流圏上部に形成される CO2 氷雲による散乱温室効 果が提案されている. 従来の研究では, 散乱温室効果は雲粒径, 雲の光学的 厚さ及び雲の形成高度に依存することが示されている. 一方でこれら雲パラ メタの物理的制約はあまり行われていない. 雲層では湿潤対流が活発に生じており, 雲パラメタを直接見積もるためには 大気の運動を解く必要があると一般的に考えられている. しかし, 古火星大 気では凝結成分が主成分であることにより, 湿潤対流が励起されない可能性 がある. 例えば, 凝結によって減少した CO2 ガスが周囲からすばやく再供 給され, 放射冷却を潜熱加熱で打ち消すほどの大気凝結が生じ続けるかもし れない. その場合, 雲層の気温は CO2 凝結温度に保たれ, 大気は中立成層 を維持するため, 鉛直混合は駆動されない. さらに放射冷却によって成長し た雲相が正味放射加熱をうける効果があれば, 雲層は放射平衡となるように 自律的に粒径を調節し, 系は平衡状態へと収束するだろう. この場合, CO2 降雨や降雪なしに雲の構造が決まることになる. そこで本研究では一次元放射対流平衡モデルを構築し, 放射平衡及び CO2 気固平衡を満たす雲の鉛直構造とその温室効果の見積りを行った. 結果、大 気圧 3 気圧以上, 凝結核混合比 105 - 107 kg-1 の場合, 暗い太陽の下で 地表面温度は H2O の融点を超える程の強い温室効果が生じることがわかっ た. また地表面温度の強い凝結核混合比依存性を考慮すると, 温暖湿潤気候 の一時性を説明できるかもしれない. CO2 氷雲の散乱温室効果が古火星気候 へ与える影響をより詳細に見積もる為には, 凝結核の供給消失過程を検討す る必要がある.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0510/pub/


05/17 (木) 13:30- 15:30   山下 達也

タイトル:

Korteweg-de Vries 方程式に関する考察 - soliton を中心として -

要旨:

Korteweg-de Vries 方程式(以下 KdV 方程式)は重力場中の水面波を記述す ることを目的として 1895 年に Korteweg, de Vries によって導出された. KdV 方程式は一般に解くのが難しいとされる非線形偏微分方程式であるが, ありがたいことに我々はその解を解析的に求めることができる.Korteweg, de Vries は KdV 方程式を導出した論文の中で,KdV 方程式が楕円関数によ って特徴付けられる周期的な解と,双曲線関数によって特徴付けられる孤立 波解の 2 種類の解を持つことを示している.しかし,Korteweg, de Vries が示した孤立波解は不完全なものであり,KdV 方程式の孤立波が持つ興味深 い特性はこの時点では十分に明らかにされなかった. その後 KdV 方程式の研究は目覚しい発展を遂げることはなかったが,1965 年 Zabusky, Kruskal は KdV 方程式に関する数値実験を行い,複数の孤立 波が互いに衝突するとき,その前後で孤立波の形状が変化しないこと,そし て非線形相互作用によって孤立波の位相が若干ずれることを発見した. Zabusky, Kruskal は KdV 方程式に従う孤立波の衝突の様子が粒子の振る舞 いに類似していることに因んで,これらの孤立波を soliton と名付けた. Zabusky, Kruskal の発見の後,soliton の研究は急速に進み,1967 年, Gardner et al. は任意の個数の soliton の時間発展を記述する解を求める 方法(逆散乱法)を発見した.これにより soliton の衝突時における粒子的 特性を解析的に議論できるようになった.このようにKdV 方程式および soliton の研究は,数値計算的手法と解析的手法が互いに相補し合って成功 を収めた研究の代表例と言うことができるだろう. 今回の発表では Korteweg, de Vries が示した KdV 方程式の周期解,孤立 波解の導出法を説明し,Gardner et al. が確立した逆散乱法の要点につい て述べ,逆散乱法によって得られた解についての考察を行なう.また,時間 が許せば KdV 方程式に関するいくつかの数値計算例を示したいと考えてい る.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0517/pub/


06/07 (木) 13:30- 15:30   小松 研吾

タイトル:

放射線帯 radial diffusion モデルで用いられる拡散係数についての 考察

要旨:

地磁気の活動に伴う放射線帯粒子フラックスの時間的・空間的な変動 に関して, これまでに多くの研究がなされてきたが, 未だその定量的な 詳細については理解が不十分である.

放射線帯の基本的な構造は radial diffusion モデルによって再現す ることができる [Lyons and Thorne, 1973]. 放射線帯粒子は主にプラズ マシートから地球方向への流入によって供給され, 拡散の強さとピッチ 角散乱による粒子の消失のバランスによってフラックスの大きさと分布 が決まる. Radial diffusion は磁気圏内に生じる電磁場の振動によって 引き起こされるが, その振動の起源の詳細は明らかになっていない.

Brautigam and Albert [2000] は経験的に得られた拡散係数を用いて 磁気嵐時の radial diffusion シミュレーションを外帯について行っ た. その結果, 彼らはエネルギーの高い (>700MeV/G) 粒子では, 位相空 間密度が負の勾配を持って (地球から外側へ向けて減少して) いるとい う観測結果を再現できず, 外帯ピーク位置に内部加熱源が必要であると 主張した.

一方, この拡散係数をスロット・内帯領域に外挿するとスロット領 域が形成されず地球近傍でのフラックスが異常に大きくなってしま う. これはスロット領域より内側においてはこの拡散係数が過大である ことを意味している.

そこで本研究では, スロット・内帯領域を再現可能であるような, 外帯領域に対してスロット・内帯領域で拡散係数が急激に減少している ような拡散係数を考え, シミュレーションを行った. その結果, 内部加 熱源なしに負の勾配を持った位相空間密度分布を再現できる可能性があ ることがわかった.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0607/pub/


06/14 (木) 13:30- 15:30   福井 隆

タイトル:

原始惑星系円盤の力学・組成進化シミュレーション

要旨:

惑星系の母胎である原始惑星系円盤の力学的進化については, 降着 円盤理論および天文観測の両面から相補的な研究が行われてきた. 現状では異常粘性の起源などについて問題が残されているものの, 惑星形成の初期条件として円盤のガス面密度, 温度分布などの決定 機構が明らかになりつつある.

一方で, 惑星形成論以外の研究分野---例えば地球型惑星の熱史, 大気組成進化, さらには生存可能条件の探索, etc.---においては, ガス面密度や温度分布といった円盤の大局的構造のみならず, minor 成分である H2O やダストの酸化還元状態・軽元素含有量の初期分布 などが本質的な関心事となりつつある. このような原始惑星系円盤 の組成的進化を明らかにする為には, 降着円盤理論や天文観測に加え, 円盤過程の直接の生成物として現在唯一手に出来るコンドライトの 組成や組織の分析, という 3 方面からの相補的研究を行わなくては ならない.

本発表では, この要請に答えんが為現在構築中の原始惑星系円盤内 における物質輸送モデルの思想と理論的基礎について紹介する. もしかしたら予察的な結果も紹介出来るかもしれない.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0614/pub/


06/21 (木) 13:30- 15:30   岩堀 智子

タイトル:

要旨:

水星は太陽系で一番内側にある惑星である. 太陽に近いために探査や地上観測が困難であり, 詳細なデータは少ない. 例えば, 探査機による調査は 1970 年代に Mariner10 のフライバイが行われたのみであリ, 表面の撮像データも全球の 45 % 程度しか得られていない. このように水星には限られた情報しかないが, これらの情報を内部構造や形成過程を理解するための手がかりとすることは 可能である.

その一つとして水星の固有磁場の存在に着目する. 固有磁場を持つということは流体核が存在し, ダイナモが駆動されていることを示唆する. 本発表では, 地球などにくらべて小型で冷却しやすいはずの水星に 流体核が現在まで存在できるのかという観点から, 以下の熱史研究を 紹介する.

まず, 代表的な熱史モデルを提示した Stevenson et al.(1983) を 紹介する. これは惑星の核・マントルの平均温度と内核半径の時間変化の 定式化を行ったものである. 次に, 水星の組成を考慮して熱史を計算した 広瀬 (2007,修士論文) を紹介する. これは他研究から示唆される 還元的な組成を仮定して水星の熱史を計算したものである. 最後に, 熱史モデル中のマントル対流の扱いと, 境界条件の設定に ついて今後の課題を述べる.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0621/pub/


06/26 (火) 14:45- 16:15   大石 尊久

タイトル:

公共天文台を利用したトランジット法による太陽系外惑星の観測

要旨:

太陽系外惑星の発見方法にはドップラー偏移法とトランジット法という 方法がある.ドップラー偏移法は,恒星光のスペクトルを観測し吸収線の 変動を調べることで,惑星引力による恒星のふらつきを検出する方法であ る.対しトランジット法は,恒星の等級変化を観測し,惑星が恒星前面を 通過する現象を検出する方法である.ドップラー偏移法では分光計や大口 径の望遠鏡が必要となるのに対し,トランジット法では口径数十 cm 程度 の望遠鏡でも観測が可能である.

そのため本研究では,観測時間を確保しやすい公共天文台である名寄市 立木原天文台の望遠鏡を利用し,トランジット法での観測体制を確立させた. 今後は系外惑星の探索へと発展させていく予定である.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0626/pub/


10/06 (曜) 14:00- 16:00   森川 靖大

タイトル:

可変性と可読性を考慮した大気大循環モデルの設計と実装実験: 物理過程交換のためのプログラム設計

要旨:

可読性と可変性に優れたソースコードを持つ大気大循環モデル (GCM) の姿を模索するべく, プログラム設計および実装実験を行っ た. プログラムの改良や変更が容易で, 系の設定や物理過程の変更 が容易に行える GCM の存在は, 素過程の様相が未知であるさまざま な惑星大気の循環構造の考察を行い比較惑星科学的考察を進める上 で非常に有用である. これまでに, FORTRAN 77 基盤であった AGCM5 (SWAMP Project, 1998) を参考に, データ入出力ライブラリ gt4f90io の整備 (DM ゼミ, 2006-07-13), 変数命名規則などのコー ディングルールの制定 (DM ゼミ, 2007-01-11), ドキュメント自動 生成ライブラリ RDoc の機能強化 (DM ゼミ, 2006-02-15) などを行っ てきた.

今回は, 主に物理過程の変更を容易にすべく行った, モジュール設 計に関しての試みを紹介する. これまでの FORTRAN77 基盤, もしく はその基盤を強く継承しているモデルでは, 格子点情報や物理定数 といったモデル設定のパラメータをあるファイルで一括管理し, 個々 の演算ルーチンはそのファイルを参照することでパラメータを読み こむ. この方法はモデルの構造があまり変更されない場合にはパラ メータの管理を容易とする. しかし物理過程などモデルを構成する プログラムの変更が頻繁に行われる場合, この方法はプログラムの 変更を面倒なものにし, パラメータの管理自体もまた煩雑になって しまう. 今回行った試みでは, プログラム群をモジュールごとに管 理するとともに, それらモジュールに初期設定のためのサブルーチ ンを用意し, 演算などに必要なパラメータは全てこの初期設定サブ ルーチンに与えるようプログラムを実装した. この方法によりモジュー ル単位でのプログラムの交換や変更が容易になることが期待される. また, プログラムの品質を保つ上で重要なテストプログラムをモジュー ル単位で整備することが容易となることも期待される.

現在, これらの試みの実装実験として dcpam (Dennou Club Planetary Atmospheric Model) のバージョン 4 を開発, 整備中で あり, 上記の手法で力学過程の実装を行った. 今後はまず AGCM5 に 実装されていたような比較的簡単な物理過程を実装しつつ, 地球や 火星, 金星, そして木星の大気を念頭においた基礎実験を行い, 可 変性と可読性の検証を行っていく予定である.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0629/pub (HTML)

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0629/pub/hokudai-dm_dcpam_ver4.pdf (PDF)


07/05 (木)15:30- 17:30   江藤 航一

タイトル:

QuikSCAT 海上風データでみるカムチャツカ半島東岸のバリア風

要旨:

海上風は洋上の大気下層の運動を考える上で重要な要素のひとつであ  る.地球観測衛星 QuikSCAT に搭載されたマイクロ波散乱計 SeaWinds はマイクロ波を海面に向けて照射し,海面からの散乱波強度から海上 風ベクトルを観測することができ,定点観測に比べ,洋上における時 間・空間密度の高い均一な観測データを得ることができる.

バリア風は境界層内の風が壁となる山脈に阻まれて迂回し,山脈に沿 って吹く地形によって力学的に強制されて起きる局地風であり,高緯  度の山脈でしばしば発生する.本研究ではカムチャツカ半島の東岸で  発生したバリア風の時間的・空間的分布を QuikSCAT 海上風データを  元に調査した.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0705/pub


07/05 (木)15:00- 17:00   土屋 貴志

タイトル:

大気大循環モデルを用いた大気の運動と力学の考察

要旨:

乱流は大気や海洋などの流れに大きな影響を与えていると考えられ ている。それは乱流が持つ様々な特徴、つまり強い非線形を持つ こと、非定常な運動であること、大きな輸送能力を持つこと、 大きなエネルギー拡散性を伴うなどに起因している。

このような理由から乱流を理解することは大気の運動や力学を理解 する上で非常に重要である。しかし乱流はその強い非線形性を持つ という特徴のため、解析的に解くことが非常に困難である。 そのため、計算機による数値シミュレーションは乱流を理解する ための有効的な解決策であると考えられ、これまで様々な 数値シミュレーションが行われてきた。

本発表では、私がこれまでに行ってきたベータ平面上の2次元乱流 の数値計算、DCPAMを用いた熱源応答問題などを紹介する。また、 現在行っている2層乱流モデルの数値計算も少し触れたいと思う。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0712/pub


07/19 (木) 13:30-15:30   西村 理恵

タイトル:

五大湖周辺で発生した降雪現象の事例解析 -Lake-Effect Stormとの関連性-

要旨:

冬季の五大湖周辺は、限られた範囲で多いときに2-3mの降雪が発生 する。原因として挙げられるのが、Lake-EffectStormである。

Lake-EffectStormは、冷たい空気が暖かい湖面上を流れることで 発生する。冬の日本海でも同様に発生し、日本海側に雪を降らせる。 要因・成因として、大気の不安定度・吹送距離・風の鉛直シアー・ 総観場などがあげられる。

本研究では、2006/2と2007/1の事例についてLake-Effectとの 関連性を基に、客観解析値、モデル、航空機・地上・衛星観測データを 用いて解析を行っていく。

今回は、Lake-EffectStormの紹介と研究についての概要・進捗を 発表する。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2007/0719/pub


最終更新日: 2007/07/20 西村 理恵