DM ゼミ 要旨 2008


05/08 (木曜) 13:30- 15:30   徳永 義哉

タイトル:

木星大気の放射対流平衡モデル

要旨:

惑星大気の様子を探るにはモデルを作成することが有効である. 直接,惑星全体を観測するのは困難であるからである.  

今回は木星と土星の大気の温度分布を放射平衡モデルを用いて 計算した, Appleby and Hogan (1984) のモデルをレビューする. この論文では,観測から得られた大気組成をもとに,木星の大気の 温度分布を算出している. そのモデルから得られた温度分布は,ヴォイジャーの観測から 得られた温度分布と良く一致した. また,大気中のエアロゾルが加熱や冷却に働くことを示した.

この Appeby and Hogan (1984) のモデルの定式化を解説し, より現実に近いモデルを作成するための足掛かりとする.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/0508/pub


05/15 (木) 13:30- 15:30   吉田 健悟

タイトル:

高高度放電発光現象と地球ガンマ線の発生過程 - 観測の現状と将来計画 -

要旨:

1989 年に発見された高高度放電発光現象は、90 年代に勢力的に地上 光学観測が行われ、様々な発生形態が確認されている。さらに 2004 年には観測衛星が 1 機打ち上げられ観測が行われている。そして現 在、高高度放電発光現象は雷放電により引き起こされることが明らか になっている。しかし、その発生メカニズムには有力な候補が 2 つ あるも、説明できない観測事例もあり発生メカニズムの解明には至っ ていない。

一方、地球ガンマ線は 1994 年に偶然発見され、雷放電との相関が 指摘されている。しかし、相関がない事例も観測されており、その相 関が疑問視されている。

現在、高高度放電発光現象と地球ガンマ線の研究の発展のために世界 で 4 つのミッションが進行中である。

本発表では、高高度放電発光現象と地球ガンマ線の発生メカニズム、 及びこれまでの観測の一部を簡単に紹介しつつ、現在進行中の将来 ミッションを紹介する。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/0515/pub/


06/05 (木曜) 13:30- 15:30   南部 慎吾

タイトル:

リチウム放出実験による熱圏電離圏結合過程の研究 -WIND-キャンペーン

要旨:

熱圏大気と電離圏プラズマの基本的な相互作用は光化学反応と 衝突による運動量輸送である.熱圏大気と電離圏プラズマは強 く結合していることを最近のモデリングや観測は示している. CHAMP衛星は,熱圏大気密度異常帯の構造や中低緯度領域全体の 熱圏大気が東方向にスーパーローテーションし,磁気赤道で熱圏 風は最大風速となっていることを明らかにした.熱圏大気の運動 は昼夜間対流が基本である.地球熱圏大気は地球の自転や磁場の 存在をなぜ知っているのか.この物理過程が未だ理解されていな いのは,大気重力波を含む熱圏大気観測や磁力線を介した異なる 領域間での大気・プラズマ結合の観測が十分でないことにある. この結合過程を解明するためにロケット実験(WIND: Wind measurement for Ionized and Neutral atmospheric Dynamics study) を実施した.リチウム放出機器,プラズマと電磁場測定器を搭載した S-520-23号機を,2007年9月2日19:20に内之浦から打ち上げた. E領域は日陰であるがF領域は日照である.ガス化したリチウムを高度 150-300kmに放出し,670nm太陽光の共鳴散乱光を4地点(内之浦,宮 崎,潮岬,奄美大島)から同時に観測した.リチウム雲の運動と広が りから,熱圏大気の風や温度等を推定した.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/0605/pub/


06/26 (木曜) 13:00- 15:00   山下 達也

タイトル:

大気主成分の凝結を考慮した 3 次元火星対流モデルの構築に向けて

要旨:

現在の火星は寒冷で, その大気は極めて希薄である. 然しながら, 地形学的な証拠から 38 億年以上前の火星は H2O が液体で存在で きるほど温暖であったことが知られている. 液体の H2O が存在す る為には, 75 K という強い温室効果が必要であり, 厚い大気によ る温室効果の寄与だけではこれを説明できないと言われている( Kasting,1991). 初期火星の温暖化メカニズムの解明は惑星科学の 重大な問題の一つとなっている. 近年, 光田(2007)は CO2 氷雲の 散乱温室効果に着目し, CO2 氷雲内で対流が起こらないという仮 定の下で放射対流平衡モデルで計算を行い, 条件によっては強い 温室効果を説明できることを示した. しかし地球の対流性雲に関 する知見で考えると, 光田(2007)が想定した雲内部で対流が駆動 されないという状況は極めて特異的であり, その妥当性が疑われ る. 北守(2006)は火星大気の特徴である大気主成分(CO2)の凝結を考慮 した 2 次元対流モデルを構築し, 火星の湿潤対流に関する計算を 行った. その結果, 生成された CO2 氷雲内部での鉛直対流が地球 の対流雲に比べて弱いことが明らかになった. この結果は光田( 2007)の仮定に一筋の光明を与える結果と言えよう. また北守(2006)は惑星流体力学分野で今まで扱われることの無か った主成分凝結系の対流構造を探る端緒となったと言う意味でも 重要な研究であると言えよう. そこで今回は北守(2006)のレビューを行い, 3 次元主成分凝結系 対流モデルの構築への道を探る.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/0626/pub/


07/10 (木曜) 10:00- 12:00   岩堀 智子

タイトル:

水星の熱進化 : 磁場および地形に対する組成の影響

要旨:

1970 年代に行われた Mariner10 のフライバイ観測から, 水星には 固有磁場や逆断層地形があることが知られている. これらは流体核 ダイナモや過去の全球収縮を示唆している. ただし, Mariner10 で 得られたデータは水星の半球分に限られており, 今後 MESSENGER や BepiColombo で全球の詳細な観測が行われる.

これらの探査では磁場, 地形, 表面組成などが観測されるが, それ らの情報を熱史と対応づけることで, 水星の内部構造や進化過程に 制約を与えることが期待される. これまで Stevenson et al. 1983 などで熱史計算が行われてきたが, パラメータである放射性熱源の 量や核に含まれる軽元素の量, マントル粘性率などについてはさら なる検討が必要である. これらのパラメータを総合して観測情報と の対応を検討することで, 内部構造や進化過程について多重に制約 を与えることができるかもしれない.

本発表では一次元熱収支モデルを用いて計算した水星内部の温度進 化と, それにともなう固体内核成長や体積変化について, パラメー タスタディの結果を紹介する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/0710/pub/


07/31 (曜) 13:00- 15:00   Shane Martin

タイトル:

海王星ダイナミックな磁気圏に関する数学的モデルを作る方法 (Neptunes dynamic magnetic field and methods used to model it)

要旨:

Compared to the other planets and objects in our solar system Neptune has not been studied in any great detail. This is mostly due to the scarce data available for modelling and investigation. In fact the only in situ data that we have was collected by the voyager 2 space craft on its fly by of Neptune in 1989. The results showed that Neptune has a magnetic field similar to that of Uranus and very different than the more familiar magnetic field configurations of Jupiter, Saturn and Earth. Neptune's magnetic field can be modelled as an offset, tilted dipole at distances greater than about 4 Neptunian radii (RN). The dipole is offset from the planets core by 0.55RN and the magnetic axis is tilted at 47° from the rotation axis of the planet. Combining this with the planets 29.6° tilt of the equator to the solar plane results in rapid diurnal changes in the magnetosphere, and thus a great environment to study magnetosphere plasma under circumstances not found anywhere else in the solar system.

Voyager made its closest approach to Neptune on August 25, 1989, and reached an altitude of 4,950 kilometers, the closest Voyager 2 came to any planet on its journy. This close pass of the northern rotational pole yielded more detailed magnetic data that revealed unexpectedly high quadrapole and octopole moments of Neptune magnetosphere. These higher order moments cannot be ignored when investigating magnetosphere close to the surface, and have lead to the most accurate model possible with the available data, called the O8 model (J.Conner ney and H. Acuna 1991).

My aim is to investigate how this dynamic and unique magnetosphere interacts with the solar wind in its various configurations by adapting simulations already succsessfull in modeling Earth and other planets. With the steady flow of solar wind and Neptunes rapidly changing magnetosphere I think it will be interesting to see if any regular or long-lived features in the plasma environment unique to Neptune can be discovered.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/0731/pub


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10/16 (木曜) 13:30- 15:30   福井 隆

タイトル:

ダスト落下を考慮した原始惑星系円盤の固体面密度分布の進化

要旨:

従来, 観測される原始惑星系円盤外縁領域におけるダスト 面密度分布は, 微小なダストがガスの粘性降着に乗って移流 し再配置された結果として解釈されてきた. しかしこの解釈 が正しいとすると, 惑星が形成される円盤内側領域には, 現在の太陽系惑星中の固体総質量に比べ著しく少量のダスト しか存在しないことになる.

本研究では, 従来のモデルで考慮されていなかったダストの 衝突合体および成長限界, ガス抵抗による動径落下も考慮し, ダスト面密度分布の進化を解析した. 動径落下速度に強く 影響するダストサイズは, ガス乱流によって誘起されるダスト 間の衝突速度と, ダスト模擬物質に対し実験的に求められて いる合体可能な最大衝突速度との関係から決定されるとする モデル化を行った.

その結果, ダストの典型的サイズは円盤の各領域で mm ~ cm 程度に調節され, その動径落下速度は円盤の外側ほど大きくなる. そのため, はじめ外側にあったダストが内側のものに追い付き ながら落下していくことになり, 円盤内側領域では外縁領域に 比べ固体濃度が著しく上昇する解が得られる. これは, 外縁領域 の観測結果と矛盾せずに, 内側領域に惑星形成に必要な量の ダストが存在しうることを示す.

このような固体面密度分布の進化の描像は, ダスト層の重力 不安定による微惑星形成に有利なだけでなく,始源的隕石物質 から示唆される内側円盤領域の揮発性成分の濃集や前駆体ダスト のサイズとも調和的である.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/1016/


10/29 (水曜) 10:00- 12:00   岩堀 智子

タイトル:

水星の熱進化 : 組成の違いによる多様性

要旨:

水星には固有磁場, 高い平均密度, 全球収縮を示唆する逆断層地形 などの特徴があることが知られており, これらは水星の起源や進化 過程を知る手がかりとなる. 水星の探査は Mariner10 以降約 30 年間にわたって行われていなかったが, 2008 年になってMESSENGER がフライバイを行ったほか, BepiColombo 計画も進められている. これらの探査では磁場, 地形, 表面組成などが観測されるが, それ らの情報を熱史と対応づけることで, 水星の内部構造や進化過程に 制約を与えることが期待される.

本発表では, 放射性熱源の分布, マントル粘性率, 核の硫黄濃度の 三つのパラメータに着目して行った熱史計算について紹介し, これ らの違いが核の固化状態や地形におよぼす影響について述べる.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/1029/pub/


11/13 (木) 12:50- 14:30   森川 靖大

タイトル:

惑星大気大循環モデルの設計と開発 - 階層モデル群のためのソフトウェア基盤整備 -

要旨:

数値モデルは地球大気における気象予報や気候変動予測だけでなく, 火星や金星などの観測が困難な大気の様相を推測するために用いら れてきた. 本研究の狙いは, 惑星大気について多様なパラメタ値(惑 星半径, 日射放射量, 軌道要素, 大気成分, 大気量など) を組み合 わせた数値実験を行うための数値モデルを提供することである. こ のような数値実験により, 惑星大気構造の多様性をパラメタ空間に 位置づけ, その普遍性や特殊性を考察することが可能となることが 期待される. このような実験を行う上では, 大気にまつわる様々な モデルから得られる多種多様なデータを相互比較する必要がある. しかしながら, 複雑化したモデルの掌握や多様多種な大量のデータ の扱いには非常に多くの手間と時間が必要であり, 自在に実験を行 うことは現実的には困難である.

この問題を解決し, 自在に実験を行うためには, 計算する支配方程 式系を容易に掌握できる可読性を有し, また同時に入出力データは 手軽に比較・解析可能な構造を持つ数値モデルを階層的に整備する ことが必要となる. 今回の発表では, そのためのソフトウェア基盤 整備として開発したデータ入出力ライブラリと解説文書自動生成ツー ルについて紹介する. 大気にまつわる種々のモデルに対して共通の インターフェースを提供し, また自己記述的データを入出力可能な ライブラリを開発することで, データの相互参照を容易となること が期待される. 複雑化するモデルの内容を把握する上では解説文書 による補助が非常に大きな役割を果たすが, これを全て手動で整備 することは大きな負担となる. 本研究で開発した解説文書自動生成 ツールにより, ソースコードと解説文書を一元管理することが可能 となり, モデル掌握を容易とすることが期待される. これらソフト ウェア基盤を実装した大気大循環モデル DCPAM を実装中であり, 上 記基盤についての検証を行っている.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/1113/pub


11/27 (木) 13:30- 15:30   山下 達也

タイトル:

大気主成分の凝結を考慮した二次元雲対流モデルによる火星大気の数値計算

要旨:

約 38 億年前の火星の気候は液体の H2O が存在できるほど温暖であっ たことが地形や鉱物などによって示唆されている. 温度に換算すると 75 K という強い温室効果が存在していたことになる. そのメカニズム として厚い CO2 大気による温室効果が提案されたが(Pollack et al., 1987), これだけでは十分強い温室効果が得られないことが理論的に示 された(Kasting, 1991). その後第 2 のメカニズムとして CO2 の氷雲 による散乱温室効果が提案され(Forget and Pierrehumbert, 1997), これら 2 つのプロセスの寄与により初期火星の温暖気候は説明できる という主張が光田(2007)によって提唱された. しかし散乱温室効果は 雲粒半径や雲量などに強く依存する為, 初期火星でどの程度現実的で あったのかについては良く分かっていない.

本研究では CO2 氷雲の生成要因として対流に着目し, 大気主成分が凝 結する際の雲と流れ場の構造を理解するべく, 2 次元雲対流モデル deepconv/arare 火星版の開発に努めてきた. 今回, deepconv/arare を用いて以下の 2 つの数値実験を行なった.

    (1) 主成分凝結を伴う対流の平衡状態はどのようになるのかを探る数 値実験

    (2) 過飽和が許容される場合の対流と雲の描像を得る数値実験

しかし現状において, 凝結対流の平衡状態は得られるに至ってはおら ず, 一方過飽和の計算についても数値誤差の取扱いの困難さに阻まれ て雲対流の描像を得るには至っていない. そこで今回の発表では主成 分凝結対流の描像について現在知り得る範囲で語り, また主成分凝結 対流の取扱いの難しさ(についての愚痴)と課題について述べる.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/1127/pub


12/04 (木) 13:30- 15:30   南部 慎吾

タイトル:

WIND キャンペーンのリチウム画像を用いたデータ解析

要旨:

熱圏電離圏結合の解明を目指したロケット実験 (WIND: Wind measurement for Ionized and Neutral atmospheric Dynamics study)が 2007 年 9 月 2 日 に実施された. ロケットは内之浦より打ち上げられ高度 300 - 150 km の 大気へガス化したリチウムを放出した. リチウムの 670 nm 太陽光の共鳴散乱光を地上4地点より観測した. 今回の発表では, リチウム雲の広がりから熱圏大気の物理量を 推定するために考えている方法を紹介する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/1204/pub


01/22 (木) 13:30- 15:30   徳永 義哉

タイトル:

木星を想定した放射モデル

要旨:

木星大気の温度構造を知るために放射モデルを作成する.

放射は対流とともに惑星大気の熱輸送に大きな寄与をもたらしている. 惑星 大気の温度構造を解明するには,放射と対流の両面からアプローチをしてゆく 必要がある. そこで大気大循環モデルに組込み可能な放射モデルを作成し,よ り現実に近いモデルを構築するのがねらいである.

今回の発表では惑星の中でも我々にとってもっとも身近なガス惑星である木星 をターゲットにして,木星大気を想定した放射モデルについて述べる.放射モデ ルは現在作成中であるが, 簡単なテスト計算を行ったのでそれについてすこし 触れる.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/0122/


03/17 (火) 16:00- 18:00   吉田 健悟

タイトル:

TARANIS 衛星搭載のフォトメータの開発

要旨:

高高度放電発光現象は、雷雲上空で発生し、スプライト、エルブス、ブルージェットなど多様な発光形態を持ち、継続時間が数 ms から 数 100 ms という過渡的な発光現象である。地上観測と理論的研究により、スプライトの発生を説明する準静電場理論が明らかとなったが、準静電場理論だけでは説明できない観測事例も存在する。例えば、親となる雷放電から水平位置が最大で 50 km 程度ずれて発生する点や、数 ms から 最大数 100 ms の遅延時間をおいて発生する点などである。この問題の解決策として、雷放電の水平電流とスプライトの水平構造が注目されているが、未だ、これらの観測はできていない。これらの問題を解決するために、衛星軌道上からの天底観測が必要である。また、現在は、台湾の FORMOSAT-2 衛星を始めとして、地球大気の影響を減らし、全球的かつ継続的な観測を行うため衛星軌道上からの観測が主流になりつつあり、複数のミッションが進行中である。我々のグループは、その中の一つである、フランス国立宇宙研究センター (CNES) 主導の TARANIS ミッションに参加しており、その TARANIS 衛星に搭載するフォトメータの開発を担当している。

本発表では、スプライトを中心としてミッションに至った科学的経緯、及び TARANIS ミッションの紹介、フォトメータの開発の話を主に発表する予定である。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2008/0317/


最終更新日: 2009/02/03 徳永 義哉