探査・観測セミナー要旨 2010

タイトル(記入例)

MM/DD 10:30--12:00 名前

要旨

後期

土星 E リングにおけるダスト-プラズマ相互作用

10/27 10:30--12:00 堺

土星内部磁気圏は濃くて冷たいプラズマ多く含んでいる. このプラズマは土星周辺のリングや衛星を期限としている. 探査機カッシーニの調査で, 衛星エンセラダスがその南極から水蒸気や氷粒子を放出している(プリューム)ことが明らかになった. このプリュームが E リングダストやプラズマトーラスの主要な起源の 1 つとして考えられている. E リングはサブミクロンサイズの非常に小さいダストから構成されており, それらは負に帯電している. カッシーニに搭載されている Radio and Plasma Wave Science (RPWS) の観測から, E リング領域ではナノメータサイズの粒子が多く存在しており, それらが E リング領域に存在するプラズマと相互作用していることが明らかになった. この結果は, 新たに作られた低エネルギー (< 10 eV) イオンがダストポテンシャル内に捉われることにより, 共回転速度より遅く, むしろケプラー速度で動き, その他のプラズマは共回転速度で動いていることを提案している.

我々は, 土星内部磁気圏でのダスト-プラズマ相互作用を理解するために, RPWS Langmuir Probe (LP) のデータを調査した. LP では低エネルギーイオンの特性が調査でき, 今回は低エネルギーイオン速度の解析を行った. その結果, プラズマディスク中でのイオン速度は, 土星からの距離に比例したトレンドが得られ, イオン速度は ~5 Rs まででは共回転速度よりも 50 % 程度遅く, 土星から離れるにつれて共回転速度に近づく傾向にあることを明らかにした. また我々は, イオン速度のモデリングを行った. モデルはイオン, 電子, 荷電ダストの 3 流体 MHD 方程式を用いた. 計算を行ったところ, 観測と同様にイオン速度が共回転速度よりも遅くなるという結果が得られた. これは, イオン-ダストの衝突周波数がイオンサイクロトロン周波数を超えるため, イオンがダストにドラッグされることによるものと考えられる.

本発表ではこれらの結果を含めた, E リング中でのダスト-プラズマ相互作用の重要性について発表する.

ステレオトラッキングによる金星雲高度の推定

11/10 10:30--12:00 武

金星を紫外光で撮影した時に写る雲の高さ(雲頂高度)は約 70 kmであると言われてきた. また, Venus Express 搭載カメラによる赤外域のスペクトルを用いた解析により, 金星の雲頂高度は低中緯度で 74±1 kmであり 極域では 63-69 kmに下がることが示された(Ignatiev et al., 2009). しかし, 鉛直温度プロファイルなどの仮定なしに金星の雲頂高度を見積もった研究はこれまでされてこなかった. 本研究では, ステレオ視の原理を用いることにより, 完全に幾何学的な方法によって雲高度を推定する手法を提案してきた. 本発表では, この手法を Venus Express 搭載の Venus Monitoring Camera による紫外画像に適用し, その精度について考察した結果を示す. その結果, 雲高度の絶対値は探査機の位置・姿勢情報に大きく左右されるため(ex. 1 pixelあたり15km程度), その精度の情報がない現時点では絶対値についての議論はできないことがわかった. また推定結果に見られた平均値からの大きなばらつきに関しては, カメラの解像度と撮像の位置関係から理論的に算出できる限界値を用いて, 1 pixel 以内のずれとしてよく説明できることが分かった. この結果を用いて, あかつき搭載カメラによる同解析と, あかつき・Venus Express 共同観測における本手法の可能性について議論する.

磁気赤道で強く吹く熱圏大気東西風

11/17 10:30--12:00 近藤

人工衛星による観測から熱圏大気東西風は地理赤道ではなく磁気赤道で強く吹くことが明らかになっている。 この原因としてイオンとの衝突による効果(イオンドラッグ)が先行研究によって示唆されているが、 データの不足により、より詳細な議論や定量的な議論は行われていない。 そこで今回、NCAR TIEGCM(Thermosphere-Ionosphere-Electrodynamics General Circulation Model) モデルを用いて、 この熱圏大気東西風の特徴を決める要素を調べた。 その結果、磁気赤道で強く吹く東西風は示唆通りイオンドラッグによって形成されることが判明した。 東西風が磁気赤道で強く吹く領域では電子密度に EIA (Equatorial Ionization Anomaly) 構造が見られ、 高緯度側に比べイオンドラッグの効果が小さくなる磁気赤道域では、東西風は強く吹きやすくなると考えられる。 また、EIA 構造が最も発達する高度約300km-400kmにおいて東西風は磁気赤道上で最も強くなり、この領域よりも高高度では、 下層域との粘性により磁気赤道上で強く吹くという結果が得られた。 これらの結果は DE-2 衛星や CHAMP 衛星により観測された東西風の結果と一致する。 これより、熱圏大気東西風は EIA 構造が最も顕著となる高度 300km-400km でイオンドラッグの効果により磁気赤道上で強く吹くようになり、それよりも高高度では、粘性の効果を受け磁気赤道上で強く吹くという過程が示唆される。 本講演では、TIEGCM シミュレーションの結果を見せるとともにこの過程をお話する。

VLF帯電磁場計測に基づいたアジア域における落雷活動モニタリング手法の確立

12/22 10:30--12:00 山下(幸)

大気電気学分野における主要な研究項目の一つとして、従来からその存在が予想されてきたグローバル・サーキット (Global electric circuit)という概念が挙げられる。 同回路は大気圏、電離圏、磁気圏に及ぶ電気回路を指す。 大地−電離圏下部間には常時300kV 程度の電位差あり、 その電位差を維持するための電流駆動源として全球の雷雲活動が想定されている。 雷雲下の電流を運ぶものとして帯電降雨粒子や落雷による電荷移動が考えられているが、 観測的見地からそれらの寄与を評価した報告は未だない。
本研究の目的は、既に構築されているELF帯磁場計測ネットワークに加えてアジアVLF帯電磁場計測ネットワークの構築を行い、 アジア海洋大陸域における落雷活動によるグローバル・サーキットへの寄与を定量的に評価する事にある。 ELF/VLF帯電磁場計測の併用には、従来研究においては殆ど行われてこなかった広範囲における小規模落雷の位置・電気的特性の導出を可能にする有用な手段であると考えられる。 落雷活動の大部分を占めると考えられる小規模落雷の活動を含めた落雷活動の把握は、 落雷によるグローバル・サーキットへの寄与を定量的に評価する上で必要不可欠と考えられる。
今回の発表では、アジアVLF帯電磁場観測ネットワークのデータに適用するために開発した方位推定法と到来時間差法を相補的に用いた位置推定法の詳細、 同位置推定法の精度評価の結果、そして新規開発したVLF帯電磁場データに基づく電気的特性の導出法の詳細について報告する。 加えて、博士論文のまとめ方について今後の方針を議論する予定である。

土星衛星タイタンの大気のイオンの高度分布に関する研究

01/12 10:00--10:45 中岡

土星探査機カッシーニによりタイタンの大気の分子量の高度分布を得られ, 高度 1200 km (電離圏) 付近において急激に分子量が増加し, 60-70に達するが, 具体的にどのようなイオンによるものかは詳しく解明されていない.
本研究ではタイタンの光化学反応モデル (Vledmir. A et al.,2009) を用いて数値計算を行いタイタン大気のイオン組成の高度分布を求め観測結果と比較した結果, 主要イオンのピークの高度がカッシーニの観測結果と近い結果になった. しかし高度 1200 km における分子量は 30-40 になった.
今回の発表では太陽の時間変化による位置, 分子衝突を考慮しておらず, 将来的には考慮する予定である.

DEMETERによる電離層の電子温度-電子密度分布について

01/12 11:00--12:45 林(健)

地震電磁気観測と地球電磁環境観測を目的としたフランスの人工衛星 DEMETER のデータを使用し、 高度700km付近の電離層の 電子密度-電子温度の分布と、その数値の時間や季節による変動の仕方についての不自然な点について考察する。 データを使用した2006年から 2009年は太陽活動の極小期であるため、静かな電離層の状態を知ることができる。

雷放電に伴う高高度発光現象が極域電離圏及び磁気圏に及ぼす影響

01/19 10:00--10:45 島

スプライト、エルブスといった雷雲活動に伴う過渡発光現象が発見されてから20余年、 その分類と発生メカニズム解明の研究が進められてきた。 エルブスに焦点をあてた研究から、その元となる雷放電が電離圏の電気伝導度を局所的に変動させている事が示唆されているが、 この電気伝導度と変化によって電離圏・磁気圏の電流系がどのような影響を受けるかについての研究や、 スプライトの電流とオーロラの電流系そのものとの結合を観測した報告はなされていない。 本研究ではその両者の結合を明らかにするために、スプライトとオーロラの電流系に焦点をあて、 北欧スウェーデンのエスレンジにてビデオ撮影による過渡発光現象のサーベイと、 極域における雷雲-地上間放電の特性の調査を行った。 結果ビデオ画像から落雷の検出はできなかったが、雷放電の調査からは期間中スカンジナビア半島で起こった落雷13イベントが、 全てスプライトを引き起こすと言われる正極性落雷であったことが分かった。 今後の計画として期間中の雷放電の具体的な規模を調査し、また電離圏の電子密度の調査、オーロラの出現位置推定を行っていく。

金星探査機あかつきから得られた金星雲頂部紫外画像の分析

01/19 11:00--11:45 濱本

日本初の金星探査機あかつきは昨年12月金星周回軌道投入に失敗したが、 あかつきに搭載されていた紫外撮像カメラUVIは波長283nm・ 365nmでの金星雲頂部の直接撮像に成功した。 金星の雲頂部は可視光で見ると平滑であるのに対し、紫外波長では紫外波長吸収物質の散乱光により Y字構造に代表される模様が見える。 今回使用された2つの波長はそれぞれ二酸化硫黄(283nm)、未知紫外吸収物質(365nm)の紫外吸収領域である。

本発表では今回撮像された365nmと283nmの二枚の画像を分析・比較し金星雲頂部の紫外波長吸収物質について考察する。

観測ロケット搭載マグネシウムイオンイメージャで観測されたスポラディック E 層の水平構造

03/02 10:30--12:00 栗原

地球の中緯度電離圏に突発的に発生し、テレビ・ラジオ放送に対する電波障害の原因となるスポラディック E(Es) 層は、 水平方向に一様ではないと推測されているが、その水平構造の成因については複数の説があり、未だに結論が出ていない。 そこで観測ロケットに搭載した紫外イメージャーを用いて、Es 層中のマグネシウムイオンの2次元水平構造を世界で初めて観測した。 その結果、観測されたEs層の水平構造のスケールと方向の特徴が、提案されている理論のうちの一つと一致することが示された。

参考文献: Kurihara, J., et al. (2010), Horizontal structure of sporadic E layer observed with a rocket‐borne magnesium ion imager, J. Geophys. Res., 115, A12318, doi:10.1029/2009JA014926.

あかつき中間赤外カメラ(LIR)の軌道上観測

03/09 10:30--12:00 福原

あかつきの金星軌道投入は5年後に延期されたが、 打ち上げから半年間のあいだ、LIRは地球の撮像と深宇宙の撮像、さらには金星の撮像に成功している。 地上試験ではできなかった輝度温度導出の手法開発を、軌道上で得た深宇宙画像を用いて行い、 地球撮像画像に適用して検証を行った。 金星画像からは夜面雲頂温度の構造を抽出することに成功した。 これらのLIRの観測データの解析状況の現状を概説する。

JEM-GLIMSミッション:国際宇宙ステーションからのスプライト観測計画の科学目標と現状

03/16 10:30--12:00 佐藤

高度400kmを飛行する国際宇宙ステーション(ISS)から雷放電と高高度放電発光現象を観測するミッション JEM-GLIMS)が進行している. 高高度放電発光現象の中でも特にスプライトについて,なぜ雷雲地上間放電頂上からの位置ずれが生じるのか, 形態の違いは何によるのか,なぜ低い電荷モーメントでも発生しうるのか,空間発生分布は何が決めているのか等の, 「発生条件」に関連する基礎的な問題が発見以来これまで未解決のままである.JEM-GLIMSミッションでは, これらの未解決問題を解明することが最大の目的であり,そのためにCMOSカメラ(LSI),フォトメタ(PH), VLFレシーバ(VLFR),VHF干渉計(VITF)を搭載し,ISSからの天底観測を行う予定である. JEM-GLIMSが目指す科学目標と期待される成果について紹介すると共に,2012年1月打ち上げに向けた準備状況を報告する.

大気プラズマ結合について

03/30 10:30--11:15 渡部

太陽からの極紫外線放射やX線放射は熱圏大気を光電離し,電離度が10-4 程度のイオンと電子からなるプラズマが生成される.プラズマと熱圏大気の間の運動量輸送や光化学反応は, 熱圏電離圏の構造と大気プラズマの運動に大きな影響を与える. 現在までの研究成果と今後の研究計画について報告する.

超小型衛星のポテンシャルと北大の役割

03/30 11:15--12:00 高橋

従来の衛星に加え、近年では100kg以下の超小型衛星が世界的に注目されている。 日本でも50kgクラスの衛星をひとつの標準として、いくつかのプロジェクトが進んでいる。 超小型衛星は、短期間に低予算で開発・製作できるため、先端技術の応用や、 複数機による連携観測、個々のニーズに対応した運用等、大型の衛星にはないメリットがある。 そうした特徴を活かすための鍵は、衛星を目的を意識したひとつのミッションとしてデザインし、 運用までつなげることである。北大はミッションペイロード、特に光学的なリモセンの開発力が非常に高いということに加え、 理学以外にも森林、森林火災、水産、農学等、多彩なフィールドの研究者が数多くおり、 超小型衛星ミッションを推進するのに最も適した場所である。 発表では、国内外における北大の果たすべき役割について議論する。

前期

スプライトヘイローの発光強度と、それを誘起した雷の電荷モーメントとの関係

05/12 10:30--12:00 中條

本発表では嘉瀬さんのされた解析結果について述べる。 スプライトは雷放電に伴って発生し、中間圏高度で観測される過渡的な発光現象である。1989年に初めて観測されてから多くの精力的な研究が行われてきた。例えば、スプライトの形状にはスプライトストリーマーと呼ばれるものや、スプライトヘイローと呼ばれるものがあることが知られている。スプライトの発光量に関しては、地上観測では大気の吸収・散乱の揺らぎが大きいために、定量的に求めることは難しかったが、2004年にFORMOSA-2 衛星が台湾から打ち上げられ、それに搭載された観測器ISUALによって宇宙からの光学観測が可能になった。現在、スプライトの発生メカニズムを説明するうえで有力な説に、準静電場(QE)モデルがある。これは、落雷によって生成された準静電場によってスプライトが発生するというもので、落雷の電荷モーメントと生成される準静電場は比例関係にある。これよりスプライトの発光量は落雷の電荷モーメントに相関を持つと推測される。吉田(2007年、修士論文)は、14個のスプライトストリーマーの発光エネルギーと、それを誘起した落雷の電荷モーメントとの相関関係を調べ、それらの間に高い正の相関関係(相関係数 = 0.93)があることを示した。しかし、スプライトヘイローに関してはいまだわかっていなかった。

本発表では、2004年の7月から、2005年の10月までのスプライトヘイロー12イベントに対して、その発光エネルギーと、それを誘起した落雷の電荷モーメントとの相関関係を調べた結果を述べる。なお、ヘイローの発光強度はISUAL観測器のアレイフォトメーター(AP)から導出し、落雷の電荷モーメントはELF磁場観測ネットワークのデータから求めた。

その結果、12イベントのうち11イベントのスプライトヘイローの発光エネルギーと、それを誘起した落雷の電荷モーメントとの間には正の相関関係(相関係数 = 0.76)があることがわかった。これは準静電場モデルと定性的に矛盾のない結果といえる。

DE-2 衛星による低緯度熱圏大気・プラズマの観測

06/02 10:30--12:00 近藤

熱圏大気と電離圏プラズマ間の相互作用は,大気とプラズマの運動を 理解する上で非常に重要である.近年の研究により熱圏大気の東西風は 地理赤道ではなく磁気赤道上で強いことが明らかになった.東西風が磁気 赤道上で強いときには,赤道電子密度異常帯(EIA)が発達する.また東西 プラズマドリフト速度は夕方の時間のみ高度方向に大きな速度勾配を, 緯度方向には EIA のようなドリフト速度の異常領域を形成することが報告 されている.我々は夕方の熱圏大気と電離圏プラズマ間の相互作用を理解する ために DE-2 衛星が測定した熱圏大気東西風,電離圏プラズマ東西ドリフト 速度,プラズマ密度等を調べた.
その結果,東西ドリフト速度は 18MLT-21MLT で,磁力線に沿って速度が上昇 する領域を形成することを示している.東西ドリフトは電離圏 F 層下部で 緯度方向に速度異常領域を形成し, F 層上部では高度に対しほぼ一定の ドリフト速度となる.熱圏大気の東西風は 200km-600km において全ての高度で 磁気赤道上で強い. F 層付近とその下部領域で,東西風の速度構造は EIA の 構造とよく対応している.EIAがよく発達する夕方(18MLT-21MLT)で最も顕著に 見られる.18MLT-21MLT は F 層ダイナモが発達し,電離圏の構造が大きく 変化する時間帯である.したがって,我々の結果は夕方の熱圏大気風が F 層 ダイナモの影響を強く受けていることを示唆している.
今回は DE-2 衛星で測定された熱圏大気東西風,東西プラズマドリフト, 電子密度等のデータから,夕方の熱圏大気と電離圏プラズマの相互作用について 議論する.

土星内部磁気圏のイオンモデリング

06/09 10:30--12:00 堺

土星内部磁気圏はディスク状の, 濃くて冷たいプラズマから構成されている. このプラズマは, 土星近傍に存在する衛星やリングを起源としており (Moncuquet et al.,  2005; Persoon et al., 2005; Wahlund et al., 2005; Sittler et al., 2006), 土星磁気圏を広く満たしている. 中でも, 衛星エンセラダスはその南極から大量の水を噴出していることが Cassini によって確認されており (Porco et al., 2006), 土星磁気圏プラズマの主要な起源の一つとして考えられている. 最近の Cassini/RPWS (Radio and Plasma Wave Science) の観測から, 微小な荷電ダスト粒子が多く存在する土星 E リングでは低エネルギー (数eV) イオン速度が共回転速度よりずっと遅く, むしろケプラー速度に近いことが明らかになった. この事は, 荷電ダストとプラズマの相互作用 (ダスティプラズマ)の存在を示唆している (Wahlund et al., 2009).
本研究では, RPWS/LP (Langmuir Probe) のデータを用いて, 土星内部磁気圏 (3 - 11 Rs) における低エネルギーイオン速度の統計的な解析を行った. その結果, 土星からの距離に比例したイオン速度のトレンドが得られ, イオン速度は共回転速度よりも 50% 以上遅いことが明らかになった.
また本研究では, 荷電ダストとプラズマの相互作用を調べるために, イオン, 電子, ダストの 3 流体 MHD 方程式からなるモデリングを行った. 計算結果は, RPWS/LP 観測と同様にイオン速度が共回転速度よりも遅くなることを示している. これは, イオンがダストにドラッグされることに起因している.

本発表では, RPWS/LP での観測結果とイオンモデリングを比較し, 土星内部磁気圏ではどのような条件でダスト-プラズマ相互作用が生じるかについて考察する.

ステレオトラッキングによる金星雲高度の推定

07/14 10:00--11:30 武

金星探査機による紫外画像に写った雲の模様を追跡することにより, 風速を求める研究は広く行われてきた(ex. Rossow et al., 1990; Markiewicz et al., 2007). これらの研究の多くは金星を比較的遠くから写した画像を用い, 雲の高度としてある一定値(約 70 km)を仮定した上で全球的な流れを導くことを目的としていたため, 個々の雲の高さとメソスケールの流れの様子についてはわかっていなかった.

本研究では, 個々の雲の高さとメソスケールの風速を求める方法として, 複数の画像を用いたステレオマッチングの可能性を検討している. これは, 2枚以上の画像を用いた三角測量の原理により, 被写体の奥行き方向の位置を求めるものである. ここではまず, Venus Express およびPlanet-C/あかつきの軌道とその搭載カメラによって得られる画像を模擬的に生成することで,高度方向の精度を見積もった. その結果, 理想的な条件下では Venus Express において, その軌道の近金点付近で撮像した画像を用いることにより, ±1 km 以下の精度で高度を求められることがわかった.

本発表では, 実際に Venus Express / VMCによる画像を用いて行った解析結果を, 理想的な条件の下で推定された雲高度と比較し, その問題点と今後の解析の方向性について述べる.

F3C衛星が観測した赤道電離圏電子密度

08/11 11:15--12:00 林(史)

高度100km付近の熱圏では、太陽からの極紫外線放射やX線放射により大気が光電離して電子とイオンからなるプラズマを生成される。 また電子とイオンの質量の違いなどから高度100kmから120kmの領域では電場が生じており、 赤道帯では電離圏プラズマはこの電場とのドリフトにより高高度まで上昇し、その後重力によって磁力線に沿って下降する。 この結果電子密度の大きい/小さい領域が形成されることがわかっており、これが赤道電子密度異常帯(EIA)と呼ばれる。

C.H.Linらの論文Plausible effect of atmospheric tides on the equatorial ionosphere observed by the FORMOSAT-3/COSMIC :Three-dimensional electron density structures (2007)では、2006年に打ち上げられた衛星: FORMOSAT-3/COSMIC(F3/C) による電子数の観測データよりEIAの様子を分析している。 この論文で彼らは電子密度の高くなっている地域が軽度方向にも断続的に存在していることに注目し、 これがTIMED衛星が観測した大気光の強い領域と一致していると論じている。 また、高度150kmから450kmの間で電子密度が変化しており、電子密度の高い領域が確認できるのは250km以上であることも示している。
本発表では、C.H.Linらの論文のレビューを中心に、実際にF3/Cの観測データから得られた図も用いて電離圏の電子密度について考察する。

カッシーニによるタイタンの電離圏観測

09/13 10:30--11:15 中岡

土星探査機カッシーニはタイタンの電離圏を観測した. 今回紹介する論文 J.-E.Wahlund,Cassini Measurements of Cold Plasma in the Ionosphere of Titan,2005 より,カッシーニの二度の flyby によって,タイタン電離圏 の温度, 数密度, イオン速度等をそれぞれ二つのデータを得た. さらにそれ らの高度分布図も描かれ, 低高度には原子量の重いイオンの存在も示してい る. またタイタンには土星磁気により質量負荷(Mass Loading)がおこる領域 があり質量負荷領域の中で土星磁気と電離圏の相互作用の説明を行う. 得ら れたデータからタイタンのモデルを作成しタイタンの周りの環境を視覚化し て説明する.

太陽風プラズマと地球磁気圏の相互作用

09/13 11:15--12:00 林(健)

オーロラの源である太陽風プラズマが太陽風と磁気圏の境に存在するMagnetopauseをどのように通ってくるのか、 というのを考察する。太陽風プラズマはジャイロ運動しながら磁力線上に凍結しているが、 磁力線は Magnetopause の境の接線に沿って存在しているため、本来は Magnetopauseを貫いてこれないものである。 本発表では、太陽風プラズマがどのようなメカニズムで Magnetopause を超えて磁気圏にやってくるのかについて説明する。

高高度発光現象の発生メカニズム

09/15 10:30--11:15 島

高高度発光現象(TLE)の1つ、スプライトのモデリングには広く、凖静電場モデルが使われているが、 いくつかの問題点がある。TLEの発生メカニズムについてのモデリングを行った論文、Victor P. Pasko, Theoretical Modering of Sprites andJets, 2006 より、TLEの観測的特徴と過去の実験・理論研究に照らし合わせて、 TLE発光メカニズムの解釈と分類を行う。 また、凖静電場モデルの問題点とTLE理論の未解決分野についても説明する.

金星紫外画像の雲トラッキングによる金星雲頂部速度場の研究

09/15 11:15--12:00 濱本

欧州宇宙機構(EuropeanSpaceAgency)の金星探査機VenusExpress搭載観測機器「VenusMonitoringCamera」の紫外画像に関する研究論文(Markiewicz et al.,2007)の中で、紫外画像に写った雲を追跡すること(雲トラッキング)で雲の速度場を出す研究が行われている。こういった大気の動きに関する研究は金星のスーパーローテーションのメカニズムを解明する上で非常に重要である。

本発表では金星のスーパーローテーションのメカニズムと、スーパーローテーションを解明する上での雲トラッキングの重要性を論文の紹介を通して説明する。またそこから自分の卒業研究である金星探査機あかつきの画像解析に向けての課題を考察する。

国内VLF観測システムの現状と今後の展望

09/22 10:30--12:00 柳

雷は電磁気現象と同時に気象現象でもある。 1990年代後半までは、雷は大気電気の現象としての見方が強かったが、 近年ではハリケーンの風速と雷の発生数を比較した研究や、上部対流圏水蒸気量と雷の磁場強度の変動を比較した研究等、 気象パラメータと雷活動を比較した報告が増えている。 この様に、最近では雷を気象予測に利用しようという試みが増えている。 今回、我々は雷を利用して降水量のリアルタイム予測を大目標とした研究の第一歩として国内に独自の雷観測システムを展開中である。 観測の手法としては、雷放電から放射される電磁波を観測する。 雷放電から放射される電磁波は、数Hzから数MHzという非常に広い周波数帯域にわたる。 中でもELF(3Hz - 3kHz)帯やVLF(3 - 30kHz)帯の電磁波は、雷放電の放電時定数がELF、 VLF帯の周期に等しいこともあって特に強いエネルギーをもち、かつ、 高い電気伝導度を有する地表面と電離圏下部で反射し、その導波管を長距離伝搬することができる。 これらの特徴を利用し、我々は雷放電により放射されるVLF帯の電磁波を連続的に観測するために、 東西、南北の水平二成分の磁場ループアンテナと、鉛直1成分のダイポール電場アンテナで構成される受信器を製作した。 また、A/D変換器とGPS受信器を搭載したPCで構成される、データレコーディングシステムを構築した。 これらのシステムにより、VLF帯電磁波の波形データを16bitの分解能で、また、20us の時間分解能で取得することが可能である。 今回の発表では、国内に展開中のVLF観測システムの現状と今後の展望について発表する。

ELF/VLF帯電磁場観測に基づいた落雷分布モニタリング手法の開発

09/29 10:30--12:00 山下 (幸)

広範囲における落雷活動モニタリングに行う上での有用な手法として、落雷から放射される ELF帯(3kHz以下)・VLF帯(3-30kHz)における電磁場観測が広く用いられている。 その利点として、第1は非常に低い伝搬減衰により少数の観測点(N>1)で数千キロスケールの範囲における落雷の位置評定が可能である事、 第2は取得された電磁場波形の解析により個々の落雷の電気的特性(極性、ピーク電流、電気的エネルギー)の導出が可能である事が挙げられる。
落雷の位置評定と共に電気エネルギーの導出を行う目的の一つとして、大気電気学分野においてその存在が予想されてきた Global electric circuit(GEC)という概念が挙げられる。 同回路は大気圏、電離圏、磁気圏に及ぶ電気回路を指す。 大地−電離圏下部間には常時300kV 程度の電位差あり、 その電位差を維持するための電流駆動源として全球の雷雲活動が想定されている。 雷雲下の電流を運ぶものとして帯電降雨粒子や落雷、コロナ放電による電荷移動が考えられているが、 実験的見地からそれらの電荷キャリアの寄与を評価した例はない。 ELF帯とVLF帯における電磁場観測の同時観測に基づく落雷活動モニタリングは、 落雷による電荷移動の定量的評価を可能にするものとして期待される。
本研究グループでは南極・日本・スウェーデンにおいてELF帯磁場観測網を、台湾、タイ、インドネシアにおいてはVLF帯電磁場観測網を展開している。 現在、GECにおける雷雲活動の定量的評価を目標とし、ELF/VLF帯電磁場観測による従来観測では得られなかった小規模落雷 (|Qdl|<470[C-km])のモニタリング手法確立を進めている。 今回の発表では、2003年8月から2004年7月に取得されたELF帯磁場観測データを用いた全球巨大雷(Qdl>950[C-km]) 分布の解析結果を示すと共に、2010年8月末より稼働を開始したアジアVLF電磁場観測ネットワークの初期解析結果について報告する。

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更新 : 堺正太朗 2010/01/22