MM/DD 10:30--12:00 名前
要旨
04/12 10:00--11:00 西山 尚典(東北大学)
太陽表面から吹きつける高速のプラズマ流「太陽風」は時に地球磁気圏の尾部側より磁気圏内に侵入し、その荷電粒子は磁気圏内の様々なスケールの電 磁場のもと地球近傍へと輸送、加熱される。これらの粒子の一部が超高層大気に降下し、その場の原子・分子を衝突によって励起させ発光に至らせるの がオーロラの本質である。中でも「脈動オーロラ」は、2,3秒から20秒程度の明滅周期を持ち、10-200km四方の空間スケールで出現する小 規模なオーロラであり、古くより地上光学観測を中心に研究が進められてきた。近年では、地上と衛星の同時観測によって複数の降下電子の生成機構が 提唱されているが[Sato et al.,2004;Nishimura et al., 2010; Liang et al., 2010]、こういった観測の事例は本質的に数が限られるため、統計的な検証が行われていないのが現状である。 本研究の目的は、低高度でのオーロラ撮像と降下電子計測が単独で行える「れいめい衛星」の観測データから、脈動オーロラの生成機構に対し統計的な 観測事実に基づいて解明することである。解析には2005/12-2008/03の全29例の画像-粒子同時観測データを用い、観測された降下電 子のエネルギー・時間平面内の特徴を粒子軌道計算によって再現することに成功した。その結果、whistler modewaveと呼ばれるプラズマ波動による電子軌道の散乱が有力な生成機構であることが示唆された。 本発表では上記の研究結果に加えて、2010/11-2011/03にかけてアラスカ州フェアバンクスで行ったオーロラ地上複合観測と東北大の宇 宙惑星グループの紹介も行う予定である。
04/12 11:00--12:00 北見 拓也(東北大学)
私たちは惑星大気の連続観測を行うため、1〜5μmに感度を持つ256x256ピクセルのInSbセンサを取り付けた赤外撮像装置の開発を行なっ ている。近赤外波長には多くの放射・吸収帯が存在しており、惑星大気の赤外地上観測は、大気の力学的・化学的プロセスを理解する上で、効果的な観 測手法である。 しかし、赤外観測装置は開発の困難性から装置数が限られており、また装置を搭載する大型望遠鏡のマシンタイムの制限もあり、これまでの惑星の赤外 連続観測例は限られている。私たちは、長期観測データを取得し現象の時間変動を明らかにするという観点からマシンタイムに縛られない連続観測を行 うため、本装置を開発している。特に木星H3+オーロラの太陽風応答を統計的に研究することを目標としている。 本発表では検出器を制御している電気回路に着目し、概要と被災前までの動作確認の結果について報告する。電気回路の要求は以下にまとめた。 [1] 検出器の読み込み、ピクセル指定を行うクロック信号の生成 [2] 上記のクロック信号を検出器の要求に合った電圧へ変換 [3] 検出器を駆動する定電圧(バイアス電圧)の生成 [4] 出力信号の増幅、A/D変換 [1]の要求を満たすためにFPGA(Field-Programmable GateArray)を用いたデジタル回路を用いている。[2][3][4]の要求はアナログ回路を作成し満たしている。本装置は東北大学所有の福島県飯 舘村にある観測所の60cm望遠鏡に取り付け、木星H3+オーロラ活動を観測する予定である。
04/19 10:30--12:00 中岡 啓
土星探査機カッシーニは2004年10月に初めてタイタンをフライバイし、ラングミュアプローブを用いてイオン分子量のデータを得た。イオン分子量は高度1200㎞−高度1800㎞で20−40amu だったが、1200km付近では60amuを超える領域も存在した。カッシーニは2004年の10月のフライバイから現在まで、40回以上タイタンをフライバイしたが、観測から具体的なイオン組成は詳しく理解されていない。 我々は光化学モデルを用いて、高度分布と日変化を求めるイオン数密度モデルを構築した。その結果、主要イオン種はHCNH+、C2H5+、CH5+となった。観測結果も主要イオン種が同じという点で一致している. また夜側の低高度にイオンがほとんど存在しない'イオンホール'がモデルから確認できる。イオンホールには太陽風が入り込みやすくなり、周囲より温度が高くなる。 今後は高度による温度変化や、昼と夜の大気数密度差を考慮して計算をする。
06/16 10:30--12:00 林 健太
上層電離層低緯度の電子温度(Te) と電子密度(Ne) の相互関係はモデリングと衛星観測で比較した. 観測では日中の上層電離層低緯度においてTe とNe の間に正, または負の関係が表れた. この現象は赤道電離異常と関係がある. この電子温度と電子密度の分布の発生仮定を理解するには, 観測と物理モデリングや国際標準電離層モデルといった経験的なモデルと比較する必要がある.
06/21 10:30--12:00 島 侑奈
エルブスとは, 雷放電に伴って起こる高高度過渡発光現象の一つである. 高度約90 kmの電離圏下部で, 水平方向約300-600 kmの広がりを持ち, パンケーキ状に発光する. またその発光継続時間は約0.1 msで, 約2 msの間に光速を越えるような位相速度で全体に広がる, 極めて高速な現象である. これまでは, 鉛直方向に並んだマルチャノードフォトメーターを用いた観測[Fukunishi et al., 1996]や, 垂直方向に視野を持つフォトメーターを用いた観測[Barrington-Leigh et al., 2001]によってエルブス発光の時間・空間的変化を観ていたが, その構造の変化を二次元画像によって捉えられたものはなかった. 今回NHKの協力のもとで高度約13 kmを飛行するジェット航空機から, 世界で初めて高速度カメラでのエルブスの撮像に成功した.今回,約1時間撮像を行い, 21イベントの過渡発光現象を捉えた. そのうち, 初期解析の段階で少なくとも3 イベントのエルブスが検出されている
07/19 9:30--10:15 Nicole Kelley(University of California)
Terrestrial Gamma-ray Flashes (TGFs) are short bursts of gamma-rays lasting on the order of a few milliseconds that have been observed in thunderstorms. The correlation between TGFs and lightning is still poorly understood. In addition to TGFs, there are several other types of high-energy radiation associated with lightning. I am interested in the types that appear to be most closely related to TGFs. These include x-ray surges and stepped leaders. My current research at the University of California, Santa Cruz is with the Airborne Detector for Energetic Lightning Emission (ADELE). It is a mobile array of gamma and x-ray detectors meant to study radiation created in thunderstorms. During my summer research at Hokkaido University, I hope to study the connection between previously observed TGFs from the NASA satellite called the Reuven Ramaty High Energy Solar Spectroscopic Imager (RHESSI) and lightning generated radio-emission (sferics) seen from the Global ELF Observation Network (GEON) in an effort to find correlation between lightning charge-current and TGF production. I will also collaborate with Japanese efforts to observe precipitation of relativistic electrons from Earth??s radiation belts from aboard a balloon. This collaboration would involve developing a modified ADELE design and laying the ground-work for a future international collaboration between groups.
07/19 10:30--12:00 濱本 昂
土星大気表層では可視光領域において白いストーム(積乱雲)が定期的に出現している。その中でも巨大なストームは大白班(Grate White Spots)と呼ばれており、約30年に1度の割合で発生している。また、この大白班は土星対流圏の水の対流により引き起こされていると考えられ ている。土星対流圏下部(気圧2bar以上)は未だに観測されておらず、この領域の現象を反影していると考えられる大白班の成因を理解することは 土星大気の気象現象を理解する上で重要である。これまでには地上望遠鏡で大白班を観測し複数の波長での反射強度の情報から放射伝達方程式を用いて雲の高度を求める研究が行われてきた。しかし観 測波長の数が少ないことから、放射伝達方程式を解く際に仮定する雲モデルの制約を多くもうける必要がでてしまう。 2010年12月、土星北半球に白い点として出現したストームは一週間で東西方向の長さが約8000kmにまるまで成長し、現在土星の30〜 45°Nを一周している。現在もストームの白い雲が残っており、土星の北半球中緯度に帯状の模様を形成している。 本研究では、土星大気の可視-近赤外の多波長での反射強度の情報から放射伝達計算によりストームの雲構造を推定することを目標としている。 そのため2011年5月上旬と下旬に、名寄にある1.6m北海道大学理学院付属望遠鏡(通称:ピリカ望遠鏡)と多波長分光撮像機(MSI)を用い て土星大気のメタンの吸収帯を中心とする土星ストームの多波長分光撮像を行った。 今回の発表では土星ストームに関する研究背景と今回の観測の概要、初期解析結果について報告する。
07/26 10:30--12:00 三宮 佑介
雷放電は主に積乱雲から発生し、積乱雲の形成もまた、赤道域の収束帯で活発である。[Eldo E. Avila et al., 2010]では、陸上の雷放電と積乱雲の相関係数が北半球と南半球でそれぞれ0.8と0.6として、2つの関係を述べている。 本研究では、雷放電データとして、現在我々が運用しているGEON(Global ELF Observation Network)からの落雷データを使用し、気象データとして、気象庁と(財)電力中央研究所が共同で実施したJRA25プロジェクトによる再解析データとOLR(Outgoing Longwave Radiation)データの2つの気象データを使用した。GEONデータより落雷活動はアフリカ、東南アジア、太平洋の中央、アメリカの赤道域で活発であることがわかった[Yamashita, 2011]。 本研究の目的は、この落雷活動が活発な地域と気象データを検証し、落雷と積乱雲の繋がりとその構造を明らかにしていくことである。 今回の発表では、研究の背景と現在までの解析状況を報告する。
08/02 10:30--12:00 堺 正太朗
Cassini に搭載された粒子観測機による数百 eV 程度のイオン観測では, 土星内部磁気圏のプラズマ速度が 5 Rs 以内で共回転速度に近く,7 Rs 以内で 共回転速度の 70--80% まで減少することが示された [Wilson et al., 2008, 2009].一方で,Cassini Radio and Plasma Wave Science (RPWS)/Langmuir Probe (LP) の観測からは E リング領域でケプラー速度近くまで遅くなることを示した [Wahlund et al., 2005, 2009].土星 E リングはサブミクロンサイズの小さなダスト粒子から構成されている.これらのダストは 7 Rs 以内で負に帯電しており,プラズマディスク中での電気力学に寄与していると考えられている.E リングダストの主な供給源である衛星 Enceladus 周辺では,電子密度がイオン密度よりも極端に少なくなっており,イオン速度がケプラー速度程度まで減少していることが明らかになった [Shafiq et al., 2011; Morooka et al.,submitted].また,近年の Cassini Plasma Spectrometer (CAPS) ではイオン速度が共回転速度の 50--80% であることを観測した [Thomsen et al., 2010].また我々は LP を用いてイオン速度の統計的な解析を行い,5 Rs で共回転速度の約 60% 程度,7 Rs より遠い位置ではイオン速度が増加・散乱することを明らかにした.これはサブミクロンサイズの負に帯電した E リングダストがプラズマディスク中のプラズマダイナミクスに大きく寄与していることを示唆している. そこで我々は,これらの物理を理解するためにモデル計算を行った.本計算ではイオン-ダスト衝突とマスローディングの影響を調査するために,ダストを含んだ 3 流体 MHD 方程式を用いた.このモデルではイオン-ダスト衝突周波数がイオンサイクロトロン周波数とマスローディング項がイオンサイクロトロン周波数同程度の時,共回転電場を減少させイオン速度を遅くする効果を含んでいる.また,イオン-ダスト衝突とマスローディングによって内部磁気圏に電流が生成され,磁気圏電場を形成する (電離圏-磁気圏結合).電離圏-磁気圏結合に基づいた磁気圏電場は共回転電場を小さくし,イオン速度を減少させる. 本発表では共回転速度遅延の原因は,内部磁気圏でのダスト-プラズマ相互作用を介した電離圏-磁気圏結合によることを明らかにし,更に土星系でのダスト-プラズマ相互作用の重要性について議論する.
09/02 9:00--9:45 古田 裕規
高度90km以上, 300km以下では, 気球では高すぎて, 人工衛星では低すぎる高度であるために, どちらにも電子密度の直接観測は不可能である. そこで, 2007年のWIND Campaign では観測ロケットを打上げることによりその領域でのデータを得ることに成功した. このロケット実験は, ガス化したリチウムを大気中へ放出するNEIを搭載しており, 磁気圏の擾乱の観測することを目的としている. 本発表では, 電離圏の電子密度を測定することで得られた, リチウム放出による電子密度の擾乱について説明する.
09/02 10:00--10:45 藤井 諒太
土星探査機カッシーニは2004年のミッション開始以降、ハッブル宇宙望遠鏡と連携した観測により数多くの土星オーロラ放射のデータを得た。本 発表ではこれまでの土星オーロラ観測についてまとめた論文であるW.S.Kurth et al.,2009のレビューを通し、土星オーロラ放射の形態や強度、分布を説明する。 また、土星オーロラ放射が持つ太陽風やSaturn Kilometric Radiation(SKR)との相関についても説明する。
09/02 11:00--11:45 山田 大志
スプライトとは、雷放電に伴い積乱雲のさらに上空で観測される発光現象である。このスプライト内における総電荷量の推定を扱った論文[Li and Cummer,2010]のreviewを行い、スプライトからの電磁波の地上観測と、スプライトそのものの撮影による光学観測から総電荷量を推定する取り組みを紹介す る。 また北大とNHKの宇宙の渚プロジェクトでも同様に地上観測と光学観測をセットで行っており、同じアプローチを通して自身の今後の研究にも言及 する。
09/08 9:00--9:45 小林 縫
スプライトとは, 雷放電のつくる電場によって雷雲上でおこる発光現象である. 本発表では, 光学観測によって求めたスプライトの開始時間・高度と, 地上電磁波観測をもとに得られる電場モデルを比較した論文[Gamerota et al.,2011]のreviewを行い, スプライトを開始させる電場とそれを引き起こす電流モーメントの特性を説明する.
09/08 10:00--10:45 市川 竜太
太平洋において海面水温が西太平洋で平年より大きく下がり,同時期に東太平洋で平年より上がるという現象が知られている.これはElNi noと呼ばれている.またオーストラリア北部の海面気圧と南太平洋上での海面気圧が逆相関をもって周期的に変化することが知られており,これは Southern Oscillationと呼ばれている.このElNi noとSouthern Oscillationはよく相関しており,これらはElNi no Southern Oscillation (ENSO)と総称される.ENSOは数ヶ月から一年以上に渡って続く.ENSOは大気循環と海面水温の相互作用による現象であるといわれているが,その 発生メカニズムはよくわかっていない.東アジア・東南アジアの大気対流活動は西太平洋の海面水温の影響を受けるため,ENSOと関係が深いと考え られている.雷放電は強い上昇気流に伴って起きるため,東アジア・東南アジアの雷はENSOとの関係があるのではないかと考えられる. 本発表では、S. Yoshida et al. [2007]の論文のレビューを通じてENSOと雷放電活動を結びつける取り組みのひとつを紹介する.
09/08 11:00--11:45 尾崎 彰士
木星は非常に強い磁場を持ち、その極域にはオーロラが発生する。木星のオーロラの特徴として、木星磁気圏のプラズマ源である衛星イオのフットプ リントの位置に存在する発光がある。本発表では、1998年7月26日にハッブル宇宙望遠鏡で撮られた赤外と紫外の木星オーロラのデータにより木 星の磁気圏を研究している論文[A.Radioti et at.,2010]のレビューを行う。この研究では初めて赤外観測で上記の発光を報告している。 また本研究では、北大1.6mピリカ望遠鏡に設置予定の赤外カメラにより木星オーロラを観測する予定である。
09/27 10:30--12:00 工藤 剛史
近年、集中豪雨など気象現象と落雷頻度の関係に注目が集まっており、アメリカでは数値モデルの予測精度向上やストームの移動予測に落雷情報が利 用されている。一方、日本国内にはいくつかの雷観測網はあるが、落雷位置評定やピーク電流値の算出を目的としており、落雷のエネルギー推定が可能 な雷観測網は存在しない。雷放電から放射される電磁波は、数Hzから数MHzと非常に広い周波数帯域にわたるが、10kHz以下のVLF周波数帯 域に最も強いエネルギーをもつ。この周波数帯域における観測から、落雷に伴うエネルギーの指標であるChargeMoment Change (CMC) [C-km]の推定が可能となる。 経済活動が集中する関東地方は、北部は雷雨多発地域として知られ、都市部での集中豪雨が社会問題となっている。また、関東地方にはAMeDAS 観測網に加えXバンド気象レーダーが複数設置され、世界的に見ても高密度の気象観測が行われている。従って落雷情報と風速や気温、降水量などの気 象パラメータと比較するのに最も適した場所の一つといえる。この地域で連続的にVLF帯電磁波のデータを取得する観測網を構築することにより、気 象パラメータとエネルギー情報を含む落雷情報の定量的な関係を明らかにすることを目指す。 そこで、同一仕様の観測システムを関東地方3箇所に設置し、雷放電電波の到達時間差法を用いて落雷位置評定を行う。関東全域をほぼ均一の感度で 検出するため、設置場所は西部に山梨県甲府市、東部に千葉県大網白里町、北部に群馬県高崎市を選定した。 観測システムは、東西および南北水平方向2成分の磁場ループアンテナと、鉛直1成分のダイポール電場アンテナ、受信器、PC等から構成される。 A/D変換器とGPS受信器により、VLF帯電磁波波形データを16bit、80または100 kHzでサンプリングする。今回2式を新たに製作した。この観測網により、位置評定誤差を雷雲水平スケールである10km以下、関東全域で検出率100% を目指す。今後は位置評定プログラムを開発すると共に、波形解析から落雷毎のCMCを推定するプログラムを開発し、落雷エネルギー情報と風速場、 温度場、降水量などの気象パラメータと比較していく。今回の発表では観測システムの構築と今後の展望について紹介する。
10/25 10:30--12:00 中岡 啓
カッシーニ探査機に搭載されているラングミュアプローブからタイタン大気のイオン分子量が得られている[Wahlund et al., 2005]. 高度1200-1800 kmで, イオンの分子量は20-40 amuであるが,高度1200km付近で60amuを超えている[Wahlund et al., 2005]. しかし,この観測から具体的なイオン組成については明らかにされていない. 地球には存在しない重イオンを解明するために, 光化学反応を取り入れた連続の式と運動方程式を用いてイオン数密度の時間・空間分布を求めた. 計算の結果35種類のイオンの数密度について計算した結果,昼側(太陽天頂角 = 30°)における高度1000 km- 1500 kmでの主要イオンはHCNH+, C2H5+, CH5+であり, 最大数密度はそれぞれ約3300 cm-3, 1400 cm-3 ,180 cm-3であった. また分子量30以下の軽いイオンは, 高度1000 km-2000 km付近に多く分布し,HC3NH+, C7H7+, C6H7+のような分子量50を超える重いイオンは高度500 km-1200 kmに分布した. 重いイオンは軽いイオンよりも日変化が緩やかで, 高度約1500 km - 2000 kmでは日没時に, 数密度が増加するイオンも存在した.
11/01 10:30--12:00 林 健太
1980年代初期の太陽極大期の電離層上層部を観測していた衛星ひのとりのデータを解析したところ,昼間の赤道域で通常は反比例の関 係にあるとされる電子の 密度-温度分布が負の相関から正の相関へと変化し,Uの字型の分布を作る傾向が見られた.このUの字型分布が発生した原因 について 同じく電離層上層部観測 していた衛星のデータやIRIモデルとひのとり衛星のデータを比較する.
11/08 11:00--12:00 栗原 純一
2009年1月に発生した最大規模の成層圏突然昇温は、中間圏・下部熱圏・電離圏にも様々な影響を与えていることが明らかになった。中性大気温 度・イオン温
度・中性風のレーダー観測と中性大気温度の衛星観測によるデータを解析し、過去の観測および計算機シミュレーション結果と比較する。
参考文献:
Kurihara, J., Y. Ogawa, S. Oyama, S. Nozawa, M. Tsutsumi, C. M. Hall, Y.
Tomikawa, and R. Fujii (2010), Links between a stratospheric sudden
warming and thermal structures and dynamics in the high‐latitude
mesosphere, lower thermosphere, and ionosphere, Geophys. Res. Lett., 37,
L13806, doi:10.1029/2010GL043643.
11/15 10:30--12:00 高橋 幸弘
11/29 10:30--12:00 濱本 昂
土星大気表層では積乱雲が定期的に発生することが知られている。通常の積乱
雲 (300 - 3,000 km) の約 10 倍以上の大きさのものは大白班 (Grate White
Spots) と呼ばれており、土星での 1 年 (29.5 地球年) に 1 度の割合で発生し
ている。土星は光学的に厚い雲に覆われており、直接大気深部を観測することは
できない。そのため、大白班の活動を調べることは、土星内部 の対流活動の情
報を間接的に得るための数少ない方法の1つである。これまで土星大気に含まれ
るメタンの吸収波長域での観測から、放射伝達計算を用 いた雲構造を推定する
研究が行われてきた。
今回の観測では 2010 年 12 月 5 日に北半球の中緯度 (北緯 37.7 度)で発見
された巨大ストームを1.6m 光学望遠鏡 (ピリカ望遠鏡)と可視マルチスペクトル
撮像装置 (MSI)を用いて土星ストームの分光撮像を行った。
得られた画像データから土星面上の強度を同一画像 (同一波長) 内のリングの
強度で割ることで、地球大気の吸収と太陽光スペクトルの影響を取り除き、土星
の緯度毎のスペクトルを得ることに成功した。得られたスペクトル で複数のメ
タンの吸収 (619、727、890 nm) が確認でき、各吸収の深さとスペクトル全体の
概形は過去の観測で得られたもの [ex. Karkoschka,1994] と一致している。
12/20 10:30--12:00 三宮 佑介
アジア海洋大陸近傍(MC) は海面水温が高いため対流活動が世界で最も活発な地域
の一つである。そのため、地球規模の大気循環に関与しており、エルニーニョなどの
気象現象を通して、地球規模の気候変動と密接な関係がある。対流活動が活発なこの
地域は、雷放電活動が高い地域としても知られている。この地域の雷放電及び対流活
動を調べることは、気候変動の理解に繋がると期待される。
我々は、雷放電のエネルギーの推定が可能なGEON (Global ELF Observation
Network) のデータを用い、雲量のひとつの指標として、人工衛星で観測される地球
からの赤外線放射強度OLR (Outgoing Longwave Radiation) を用いた。
今回はGEON とOLR のデータを用いることにより、2003 年8 月から2004 年7 月ま
での1 年間について、東インド洋(EIO)、MC、西太平洋暖水塊(WPWP) のそれぞれの地
域における雷放電及びOLR の変動が、どのような関係を持つかを調査した。
その結果、EIO では、雷放電とOLR のどちらともが約1 年、あるいは半年周期の大
きな変動を示すのに対し、WPWPではそうした季節変化は相対的に小さくなり、約1カ
月の周期変動が顕著になることが分かった。また、OLR の1ヶ月変動に注目すると、
地域(経度)によって位相差があり、対流のパターンがEIO からWPWP の方向へ東進
していることを示唆している。その速度はおよそ6 degree /day と見積もられ、いわ
ゆるマッデン・ジュリアン振動(MJO)の位相速度と矛盾しない。東進するにつれ、
雷放電とOLR の両方に約1ヶ月の周期が見られ、WPWP ではそれらのピークが逆位相で
重なるという初期結果が得られた。
01/10 09:00--09:45 山田 大志
スプライトとは雷雲地上間放電の直後に雷雲上空で観測される
TLEs(TransientLuminous Events)のうちの一つである。
現在までのスプライト研究では静電場モデル[Pasko et al., 1997]が研究の中心
となってきた。これは雷雲地上間放電に伴って上空に形成される準静電場によっ
て、スプライトなどの発光現象が引き起こされるというモデルだが、実際の観
測結果においてこの静電場モデルが実証されることはあまりなかった。また静電
場モデルのみでは説明できない現象も観測されている。
またスプライトには形状の種類がいくつかあることが知られてきたが、何がこの
形状を決めているのかは未解明のままである。
今回の発表では、2011年夏にアメリカで行われたNHK宇宙の渚プロジェクトにて
得られたスプライトの光学観測、電磁波波観測データを用い、特 に親雷放電の
電荷モーメント(放電電荷量と放電距離の積)に着目し、こうしたモデルの実証や
スプライトの形状に関係する解析の内容を発表する。
01/10 10:00--10:45 小林 縫
1980年代に発見された高高度発光現象のひとつであるスプライトは、上部に
diffuseな構造、下部にストリーマ構造を持つ発光現象である。
その発生メカニズムとして、準静電場モデルが考えられているが、現段階では準
静電場がストリーマを発生させる機構は明らかになっていない。
今回は、航空機からハイスピードカメラによってスプライトを同時観測を行い、
スプライトストリーマの細かい物理量と立体構造を明らかにする。
01/10 11:00--11:45 市川 竜太
近年,雷のデータを気象学に取り入れようという動きがある.
現在,我々は東南アジアにおいて電場と磁場の計測によって雷からの空電を観測
している.東南アジアは雷活動が多い地域であり,またウォーカー循環 の上昇
部であるなど気象学においても重要な地域である.
空電の到達時刻を複数の観測点で比較することで雷の位置情報を推定できるが,
電場と磁場の計測で周期的なノイズが見られるため,そのままでは空電 の波形
を得にくい.
このため位相を変化させずにノイズを除去する方法が必要であり,その進捗状況
を紹介する.
01/17 09:00--09:45 古田 裕規
熱圏電離圏結合の研究のためにロケット実験(WIND: Wind measurement for Ionized and Neutral atmospheric Dynamics study)が実施された. リチウム放 出機器, プラズマと電磁場の測定器などを搭載した S-520-23 号機を, 2007年9 月2日19:20 に内之浦から打上げた. ガス化したリチウムを高度 150km-300km に 放出し, 670nm 太陽光の共鳴散乱光を4地点から同時に観測した. この実験で撮 影したリチウム雲の画像を解析し, リチウム雲の輝度から大気の歪みを発見し, 重力波を発見した. 本発表ではその方法, 結果について述べる.
01/17 10:00--10:45 藤井 諒太
土星高緯度電離圏ではオーロラ発光のように外部とのエネルギーのやり取りに
よって生じる特徴的な現象が起こる.
これまで[Galand et al., 2011]や[Mose et al., 2000]などで電離圏のイオン分
布モデリングはなされているが,いずれも異なった結果を示しているうえ,オーロ
ラ領域でのイオンの挙動については未解明 な点が多い.
そこで我々は独自の土星熱圏・電離圏モデルを構築し,高緯度電離圏のイオン分
布やその日変化を調査した.
本発表では現時点でのモデリング結果について発表する.また,高エネルギー降下
粒子(オーロラ粒子)の降り込みに対する主要イオンの応答についても議論する.
01/17 11:00--11:45 尾崎 彰士
木星極域ではヘイズと呼ばれるエアロゾルが存在することが知られている。
ヘイズは木星大気の上層に位置しているため、メタンの吸収波長でヘイズを観測
することができる。
このヘイズの水平方向の構造には特徴があり、ヘイズの外周部に沿って波形が確
認されているが、その構造の時間変化についてはまだ明らかになっていない。
今回、北大ピリカ望遠鏡を用いて木星極域ヘイズをメタンの吸収波長である889
nmで観測を行い、得られた画像データからヘイズの外周部の波の位置を特定し
た。得られた波の位置は過去のカッシーニの観測で得られたものと一致していた
01/24 10:30--12:00 柳 芳紀
高高度発光現象の一種であるスプライトは1989年の発見以降,
精力的な観測が世界各地で行われており,発生メカニズムとして
準静電場理論([Pasko et al., 1997])が広く支持されているが,
この理論では説明のつかない観測事例が数多く報告されている.
「何がスプライトの発生条件を決めているのか」という根本的な
問題は未だ解決されていない.この問題を解決する鍵として近年
注目されているのはスプライトの親雷が放射するEMP(Electro Magnetic Pulse)
である.Adachi et al,[2004] の報告によるとスプライトの
カラムの数と親雷のピーク電流値の間に強い正の相関があるとした.
ピーク電流値はEMPと比例関係にあることから,EMPがスプライトの発生条件を
決めているということが示唆されている.これを観測的に実証するためには,
地上電磁波観測と光学観測の同時観測が望まれる.
2012年,北大も開発に深く関わっているGLIMSが打ち上げ予定であり,
スプライトの天底観測が2年間行われる予定である.これに伴い,地上電磁波
観測網の整備が急務とされてきた.これらの背景から,我々は国内において
VLF (Very Low Frequency) 帯の電磁波観測網を構築してきた.
ピーク電流値の情報を含む地上電磁波観測網としてNLDN(National Lightning
Detection Network) や,JLDN(Japan Lightning Detection Network) が挙げら
れるが,これらの観測網は主にLF(Low Frequency)帯の電磁波からピーク電流値
の導出をしている.一方で,過去の研究から,ピーク電流値は雷の放射場と線形
比例の関係にあることが予測されていた[Uman, 2001].そこで本研究では,
ピーク電流値を,少ない観測点で広範囲をカバーできるVLF帯の電磁波から
導出する手法を確立することを目的とし,特に電場の地上波成分の振幅値
との比較において,良い相関を得ることができた.
01/31 10:30--12:00 福原 哲哉
あかつきの金星軌道投入は失敗し、再チャレンジは5年後以降になってしまった が、我々は起動投入失敗の二日後にLIRによる金星画像を得ている。本来、あか つきからは処理済み画像のみがダウンリンクされるが、我々は処理前のデータを ダウンリンクして地上で再処理を行うことにより、これまでに得られた事がない 雲頂の温度分布を得た。打上前に取得した地上校正データを用いて輝度温度を導 出し、先行観測と比較することで雲頂高度の推定も試みた。LIR画像を取得する 4時間前には、欧州の金星探査機Venus Expressの観測器VMCが紫外画像(365 nm)を取得している。VMC画像とLIR画像の比較から、未知吸収物質が存在する高 度を推定し、金星雲上層の対流活動を議論できるのではないかと考えている。
02/07 10:30--12:00 渡邊 誠
すばる望遠鏡補償光学グループでは、多素子化よる補正性能向上とレーザー ガイド星の利用による観測可能領域の拡大とを目指し、レーザーガイド星 補償光学装置(AO188/LGS)を開発した。2006年10月に自然ガイド星を用いた AO188のファーストライトとレーザービームの初照射とに成功後、2008年より 自然ガイド星モードの共同利用観測、2011年よりレーザーガイド星モードの 共同利用観測を行っている。セミナーでは、AO188/LGSの概要と性能および 初期成果を紹介する。
02/21 10:30--12:00 渡部 重十
地球惑星科学研究にコンピュータシミュレーションは必要なのだろうか?その位
置づけは?
コンピュータシミュレーションの基礎的な手法とシミュレーション例を示しながら,地球惑星科学における様々な現象の物理過程を述べる.
03/05 09:00--10:30 堺 正太朗
Voyager や Cassini の土星内部磁気圏での観測から,プラズマ速度が理 想共回転速度の 70-80% 程度に減少することが明らかになった [Bridge et al., 1981, 1982; Richardson, 1986, 1998; Wilson et al., 2008, 2009].一方 で,Cassini Langmuir Probe (LP) の観測では,更にイオン速度が小さく E リ ング領域ではケプラー速度付近まで減少することを示した [Wahlund et al., 2009; Morooka et al., 2011].E リングは負に帯電した小さなダスト粒子から 構成されており,プラズマディスク中の電磁気的な効果に寄与していると考えら れている [Horányi et al., 2004; Kempf et al., 2008].E リングの供給源の 1 つとして考えられている衛星 Enceladus では電子密度がイオン密度より顕著 に小さく,その速度がケプラー速度付近であることが明らかになった [Morooka et al., 2011].また最新のモデル計算ではイオンとダストは磁気圏−電離圏結合 を通じて相互作用し,ダスト層が厚い時イオン速度が LP 観測に一致することが 示された [Sakai et al., in preparation].しかし,このモデルは半径方向 1 次元のみで計算されており,緯度,経度方向の効果は考慮されていない.
そこで本研究では,半径−緯度方向の 2 次元モデルを構築し,電離圏の効果を含 めて計算を行う.
本発表では,電離圏の影響がどの程度重要かを議論し,2 次元モデルの概要を説 明する.
03/05 10:30--12:00 佐藤 光輝
雷放電に伴う高高度放電発光現象の重要な未解明事項の一つとして,それらの現象 が成層圏・中間圏におよぼす化学効果が挙げられる。Hiraki et al. [2008] や Sentman et al. [2008] による数値シミュレーション結果は,高高度放電発光現象 に伴って大気微量成分の数密度が数桁変化し,それらの影響は1時間以上も残り続 けるという結果が示されている。しかし,それらの密度変化を直接的に観測したと いう報告例はほとんどない。2009年9月に打上げられ国際宇宙ステーションに設置 された超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES)は,高度20-80kmの大気微量 成分を高い密度・時間分解能で全球観測することが可能である。SMILESのL2デー タから導出した,中間圏高度におけるHO2, O3全球密度分布を紹介し,高高度放電 発光現象との関連性について議論する。
03/06 10:30--12:00 工藤 剛史
落雷に伴う高高度発光現象の一つであるスプライトは、正極性落雷に伴って発生し[Sentman et al., 1995]、 落雷の規模を示す電荷モーメントが大きい場合にスプライトが発生しやすいことが観測により明らかになっている[Hu et al., 2002]。スプライトの基本的な発生メカニズムは、 準静電場モデル[Pasko et al., 1997]が多くの研究により支持されているが、 モデルの妥当性を評価する観測結果は十分に示されていない。また、スプライトの形状の多様性や時空間構造 を決定する要因など、未解明な問題が多い。 NHK宇宙の渚プロジェクト協力の元,2011年夏にアメリカ・コロラドで実施した航空機・地上同時観測キャンペーンでは、 60を超えるTLEs(Transient Luminous Events)のハイスピード映像の撮影に成功し、同時に北海道大学が運用する GEON(Global ELF Observation Network)でELF帯雷電磁波を連続的に観測した。 これらの光学観測及び雷電磁波観測データを用いて、 様々な形状のスプライトについて、電荷モーメントと発光継続時間の関係について解析を行ったところ、電荷モーメントと発光継続時間に強い相関が見つかった。 また、エルブス及びヘイローの有無で、スプライトの形状と発光継続時間の分布に特徴的な傾向が見られた。 今回の発表では、キャンペーンで取得したスプライトのハイスピード映像を紹介 し、解析結果について議論する。