MM/DD 10:30--12:00 名前
要旨
10/09 10:30--12:00 渡部 重十
電離圏F層上部では,電子がイオンより軽いために,イオンより早く拡散し,イ
オンの拡散・運動を強める分極性電場が作り出される.電子と酸素イオン間でで
きた分極性電場によって,極域電離圏内の水素イオンや,ヘリウムイオンなどの
軽いイオンは,地球から外向きの加速を受け,磁力線に沿って常に流出してい
る.イオン流出は,太陽風(solar wind)と類似することから,極風(polar
wind)と呼ばれている.
電離圏に存在するイオンの平均エネルギーは,0.1 eV 程度であり, 磁気圏へ
流出するには,10 eV 程度あるいはそれ以上の加熱・加速が必要である. 極域電
離圏で,イオンを流出させる力は,イオンに対し磁力線方向上向きに働く力(例
えば磁力線方向の電場)だけでなく, 磁力線に垂直な方向へ働く力に起因する
ローレンツ力も重要な役割を担っている.夜側オーロラ帯で加速された電離圏イ
オンは,磁気圏尾部や環電流(リングカレント)領域に運ばれる.
磁気嵐の発生により,磁気圏対流電場が増加すると,プラズマポーズの位置
は,地球側に移動し,電離圏プラズマが,磁気圏内に大量に散逸する.南北の極
域から流出するイオン総量は,数10トン/日から数100トン/日あり,太陽活動・
磁気活動・季節による変化を示す.
イオン散逸は,地球だけでなく惑星や太陽さらには太陽系外惑星に普遍的に存
在するプロセスであり,磁気圏の構造と運動や大気進化に影響を与えていると考
える.
10/16 10:30--12:00 高橋 幸弘
赤道域の1ヶ月オーダーの周期変動としてはマッデンジュリアン振動(MJO)が有名 である。インド洋を起点として積乱雲の発生する大気循環場が東進し、周期は30-90 日程度とされている。一方、我々の全球磁場観測網(GEON: Global ELF observation network)で得られるシューマン共鳴(SR)強度や落雷分布情報からは、地球スケー ルの遠隔地で、約1ヶ月周期の積乱雲活動が同期(同位相)している様子がうかがえ る。こうした全球規模の経度方向の同期現象は知られておらず、もし本当であれば新 発見の可能性がある。さらに、こうした1ヶ月周期変動と太陽活動の指標(F10.7 index)が相関しているようにも見えることがある。この発表では、GEONデータに加 え、FORMOSAT-2衛星の雷放電発光データもあわせ、本現象を紹介し、太陽活動との結 合の可能性も含めて議論する。
10/30 10:30--12:00 小林 縫
雷雲地上間放電に伴って発生するスプライトは, 1989年の発見以来さまざま観測が 行われてきた。しかし, その時間的・空間的発展や発生条件については未解明な部分 が多い。そこで本研究では, 航空機からの複数台のハイスピードカメラを用いた光学 観測により得られたデータからスプライトの立体構造を明らかにし, スプライトカラ ムの水平分布, 高度, 速度などを詳細かつ定量的に求めた。この結果から, スプライ トカラム中の定常的な発光部分の高度と親雷放電からの距離の関係を明らかにした。 さらに, ヘイローと呼ばれるディフューズな発光を伴うイベントと伴わないイベント では発光の時間的・空間的発展に違いがあることを示した。この結果は, スプライト の発光の条件の解明にとって重要な意味を持つと考えられる。
11/06 09:00--10:30 古田 裕規
高度100-300kmの熱圏下部においては中性大気とプラズマが共存し, 運動量輸送が
相互に行われている. プラズマは, 中性大気に依存していると考えられてきたが, 近
年の観測ではプラズマが中性大気に影響を与えていると思われる現象がいくつも発見
されている. しかし, 大気重力波を含む熱圏大気観測や磁力線を介した異なる領域間
での大気・プラズマ結合の観測は十分行われていない.
また, 電離圏ダイナモ, プラズマバブル, 伝搬性電離圏擾乱などの熱圏下部で発生
する中性大気-電離大気間の現象を解明する上で重要なパラメータが同時に直接的に
観測された例はほとんどない.
この結合過程を解明するためにロケット実験 (WINDs: Wind measurement for
Ionized and Neutral atmospheric Dynamics Study) キャンペーンについて紹介す
る.
11/06 10:30--12:00 阪井 陸真
地球は地表面と電離圏を極板とする一つの同心球殻状コンデンサーを形成してお
り、雲からの雷放電、降水等によって充電されており、晴天領域でわずかに流れる大気電流と
して消費されると考えられている。このような地球を一つの電気回路に置き換えて考えた
モデルをグローバルサーキットモデル[Wilson, 1920]という。古くから提唱されているこ
のモデルは、衛星観測の増加やスプライト等の大気圏-電離圏のつながりを想像させる発
見により再び見直される動きになっている。
近年のグローバルサーキットモデルのシミュレーションは、種々の衛星データやモデ
ルを組み込み、source電流、電場の世界分布を求めている[Odzimek et al., 2010]。しか
し、グローバルサーキットにおける電流sourceを雷放電電流とそれ以外の電流という2種
類にしか区別をしていない、地表面と電離圏を完全導体とみなしている等シミュレーショ
ンモデルとして改善すべき点が多く残っている。提唱されてから約100年経つ現在のグ
ローバルサーキットモデルにおける問題点や解決すべき点をまとめ、大気電場/電流計測に
よる研究の展望と併せて発表する。
11/13 10:30--12:00 堺 正太朗
土星衛星エンセラダスはその南極から水氷ダストを含む水蒸気プリュームを放出
している.放出された水蒸気は太陽 EUV や衝突によって電離し,土星内部磁気
圏に広がると考えられている.近年のカッシーニ観測では,プリュームから放出
されたダストが負に帯電し,内部磁気圏プラズマと電気的に結合することが明ら
かとなった.また,カッシーニ・ラングミュアプローブ (LP) の観測では,電子
密度が南極上空 7 Re (Re = エンセラダス半径) までの間,イオン密度の 1% よ
り小さいことが明らかとなった.
本研究では,カッシーニがエンセラダスをフライバイするパスに着目し,LP の
解析を行った.特に今回はカッシーニがプリューム中を横切るようなパス (E07,
E08, E09, E10) について集中的に解析を行った.これらのフライバイにおいて
カッシーニはエンセラダスからの高度 100 km から 1500 km の位置でプリュー
ムを横切っており,これらの情報から鉛直方向や水平方向の構造について解析を
行った.E07 フライバイでの結果,プリューム中 (高度約 100 km) のプラズマ
密度は 10^2 -- 10^4 /cm^3 であった.一方で,E08 での結果は高度約 1500 km
地点でプラズマ密度は 10 -- 10^2 /cm^3 であった.本発表では Morooka et
al. [2011] で解析された E03, E04, E05, E06 のデータとも比較を行い,プ
リューム中のプラズマ特性について議論する.また,初期観測でのプリューム中
のダストポテンシャルはほとんど負だったのにも関わらず,プリューム付近で正
のポテンシャルを持つダストが発見された.このことについても併せて議論を行う.
11/19 10:30--12:00 林 健太
地球電離圏は太陽放射EUV によって中性大気が電離しプラズマとなって存在している
領域である。プラズマの密度は太陽活動が活発なほど多くなり、プラズマの電子温度(Te)
は他の電子やイオンとの衝突によって冷却されていく。そのため、プラズマの電子密度
(Ne) が大きいほど、より電子温度は冷却される。したがってNeとTeの関係は理論上反
比例となるはずである。
しかし、1981-1982 年の太陽活動極大期の電離圏観測衛星ひのとりの観測データを
解析すると、電離圏上層部(550-650km) 赤道域(磁気緯度30 度以内) 昼間の高密度
下において、電子温度が上昇し、正の相関が現れることがわかった。
そこで、本研究は、国際標準電離層モデルIRI や、同じく電離圏の観測衛星
Atmosphere Explorer-C,AEROS,Dynamics Explorer 2,DEMETER,CHAMP の観測
データ、地上レーダー、Incoherent Scatter Radar による電離圏上層部赤道域の観測
データの解析結果とひのとり衛星のデータを比較し、ひのとり衛星の観測機器の異常で
あるか、または実在する現象による結果であるのかを議論し,そのメカニズムを考察する.
11/27 10:30--12:00 三宮 佑介
Yamashita et al. (2011)はGlobal ELF Observation Network (GEON)で得られた全
球の雷放電の磁場情報から個々の雷放電の位置推定を行った。この位置推定は、全球
一様に950 C-kmの閾値をかけた検出方法として世界初である。これにより、全球で発
生する950 C-km以上の雷活動を地域ごと、1日ごとに調べることが可能となった。
また、Takahashi et al. (2010)は、雲量の指標としてOutgoing Longwave
Radiation (OLR) を使用し、1980年から2003年までについて雲量の1ヶ月周期変動を
調べた。その結果、インド洋と西太平洋暖水海に強い約1ヶ月周期のピークが見られ
ることが確認された。
今回我々はTakahashi et al. (2010) が調べた雲量の1ヶ月周期変動に着目し、OLR
とGEONを使用し、2003年8月から2004年7月までの雲量と雷活動との関係を調べた。特
に今回は、雷活動が活発なアフリカ、アジア海洋大陸、アメリカの各地域について雲
量と雷活動の時間変動の依存性、またアジア海洋大陸の雷活動と全球の各地域の雲量
との時間変動の関係を調べた。
アジア海洋大陸の雷活動と地域ごとの雲量の時間変動の相関係数を計算した結果、
2004年2月から2004年6月までが最も相関係数の絶対値が大きく、雷活動が活発なアフ
リカ、アメリカの赤道域で負相関(アフリカ:最大R=-0.75、アメリカ:最大
R=-0.58)、西太平洋暖水海で正相関(最大R=0.82)という結果が得られた。この結
果は、アジア海洋大陸の雷活動とアフリカ、アメリカの雲量の時間変動が同期してい
ることを示唆している。このような全球規模における経度方向の同期現象は、今まで
発見されていない。
本発表では、この現象を紹介し、他の気象現象や太陽活動との関係を議論する。
12/11 10:30--12:00 濱本 昂
木星の対流圏と成層圏にはヘイズと呼ばれるエアロゾルが存在している。可視域 で最も強いメタンの吸収波長(889 nm)で木星を観測するとヘイズの高度が高い領 域は明るくみえ、特に極域はそのヘイズの明るい領域によって覆われている。 ハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測からその極域ヘイズの淵は波構造を示してお り、その波がロスビー波の特性を持っていることが分かった[Sanchez-Lavega et al., 1998]。その後、土星探査機カッシーニのフライバイ観測によって、この波 が存在する鉛直・南北方向の領域にロスビー波としての制約が求められた [Barrado-Izagirre et al., 2008]が、その波の境界はまだ決定されていない。 また同研究で、波の位相速度とその緯度での風速が同方向に変動していることが 確認されたが、その変動の傾向・要因は未だに明らかになっていない。 本研究では木星極域ヘイズ波動の発生要因の解明を目的とし、2011年10-11月、 2012年8-10月の期間で北大ピリカ望遠鏡とマルチスペ クトルイメージャを用い て 889 nm を含む複数波長で木星の連続撮像観測を行った。本発表では、サイエ ンスターゲットと得られたデータの解析経過について報告する。
12/25 10:30--12:00 周 芳々
雷放電は大気中の放電現象であり、主に雲間放電、雲内放電、落雷の3種類に分類 される。落雷は雷雲内の正極性電荷が中和される正極性落雷と、負極性電荷が中和さ れる負極性落雷の2種類に分類される。電荷モーメントは雷放電の規模を表すパラ メータのひとつであり、放電によって中和される電荷量と放電距離の積(Qdl)で表 される。今まで、観測所がなかったため、電荷モーメントの観測がなかった。本研究 は、北海道大学が構築・運用する全球ELFネットワーク観測システム(GEON)によっ て2003年8月から1年間に観測された落雷波形の解析を基に、950C-Km以下の全ての落 雷について、全球における落雷の電荷モーメント毎の頻度分布を推定した。さらに落 雷放電の活動が活発な7つの地域、すなわちアジア海洋大陸、オーストラリア、中部 アフリカ、南アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、南太平洋に区切り、そこでのQdl 毎の落雷頻度の変化を調査した。その結果、地域、季節、電流極性によって大きく異 なる分布を示すことが明らかになった。この分布にシンプルな曲線をフィットするこ とでモデル化し、今後、全球と地域電流系および積乱雲活動の世界分布の指標として 様々な研究用途に資することを予定している。
01/10 10:00--10:45 市川 悠衣子
熱帯低気圧は最も破壊的な自然現象の一つである。観測技術や物理の理解、モデル
による数値予報の進歩によって、熱帯低気圧の進路の予報精度はこの数十年間で大き
く進歩しているが、台風勢力の予測は比較的遅れている[Marks and Shay, 1998]。そ
の理由は、熱帯低気圧を強化する物理的プロセスが大規模なダイナミクスだけでな
く、小規模かつ過渡的であるために観測の難しいvortical hot towerの発生を含んで
いるからだと信じられている[Fierro et al., 2010]。特に熱帯低気圧の急激な勢力
変化の観測は今後の大きな課題である[Demaria 2012][Houze 2010]。
雷は対流活動に連動して発生する為に、小規模な対流活動の代替データとなる可能性
が示唆されている。Deierling and Petersen [2008]は様々な気候区分で発生した、
発達の度合いが異なる11の嵐に関して上昇気流と雲内・対地電数が強い線形の関係に
ある(r=0.92)ことを見出した。また、Price 2009は各地で発生したカテゴリー4,5の
激しい熱帯低気圧について、低気圧勢力の急激な変化に先行して周囲での雲内・対地
雷数が上昇することを報告し、熱帯低気圧の急激な勢力変化の予想に雷の観測データ
が役立つ可能性を示唆した。
これまでにも衛星観測や地表観測網を用いて、熱帯低気圧における雷分布を調べた研
究は数多く行われてきたが[Molinari et al., 2006; Fierro et al., 2001; Demaria
et al., 2012; 中野他, 2011]、海上にある際の熱帯低気圧について極性も含む雷放
電特性を調べた研究は、筆者の知る限りはまだ行われていない。
党研究グループが運用するELF帯雷観測網( GEON )では、世界各地で起こる大規模な
対地放電(> 950 C・km)について位置評定を行うとともに、総電流量の目安となる電
荷モーメント(以下CMC)の推測を行うことが可能である。本研究では台風の雷の水平
分布とCMCを調べることによって、台風の雷の特徴をよりよく理解し、新たな側面か
ら熱帯低気圧の勢力と雷活動の間の関連性を見出すことを目指している。
01/10 11:00--11:45 三原 正大
雷雲地上間放電に伴って発生するスプライトは、高度40km-90kmにかけて
発生し、発光時間が数msから100msと極めて短い。そのため、1989年まで
観測されず、20年以上たった今でもスプライトの詳細な時間・空間発展の
メカニズムの詳細は明らかになっていない。
近年ハイスピードカメラを用いた観測によって、ストリーマの進展速度と
大きさの関係性[Kanmae et al.,2012]や、ストリーマ先端部の輝度と分裂の
有無[McHarg et al., 2010]の関係性が明らかになってきた。
2011年の夏に、NHKとの共同プロジェクト航空機2機によるスプライトの同
時観測キャンペーンが行われた。そこで得られたデータをもとに三角測量を行い
今まで明らかにされていなかった分岐点高度を特定、さらにストリーマの開
始点からの進展距離、進展速度、光量の変化率との関係を明らかにすることで、
ストリーマの分岐条件をなにが決めるのか、という問題に迫る。今回は解析の
現状報告を行う。
01/15 10:00--10:45 仲本 純平
天王星は黄道面に対して自転軸が98°傾いた惑星である。そのため公 転に伴い昼夜の比率が大きく変化し、これは大気構造の季節変化の要因 になる。実際に観測によって天王星大気の緯度によるアルベドの違いが 変化する様が捉えられている。[Irwin et al., 2012]また、メタン吸収 波長(730nmなど)を中心とする複数の波長を用いることでメタン吸収の 違いから異なる深さの大気を観測することが出来る。[Karkoschka and Tomasko, 2009]しかし観測数の不足から天王星大気の季節変化の3次元 構造は解明されていない。本研究では天王星大気の季節変化の大気の深 さによる時定数の差異を解明する事を目的とし、2012年07-12月の期間 で北大ピリカ望遠鏡に搭載されたマルチスペクトルイメージャを用 いメタン吸収波長を含む複数波長で天王星の連続撮像観測を行った。本 発表では、研究の目的と取得したデータの解析経過について報告する。
01/15 11:00--11:45 今井 正尭
地球の双子星と呼ばれることがある金星は、固体部分のサイズなど地球と似た点が
多い。しかし両者の大気については、温度・圧力・組成そしてダイナミクスなどに大きな違
いが存在し大変興味深い。金星にはスーパーローテーションと呼ばれる大気全体が自
転の約60倍で回転する現象が存在し、現在まで様々なモデルが提唱されているがそのメ
カニズムを解明するには至っていない。
金星大気中には高度45-70 km に存在する雲の主成分H2SO4 由来と考えられている紫
外波長365 nmを強く吸収する物質が存在し、光学観測によってその分布を反映した明暗模
様を見ることができる。模様の大きいものは惑星スケール(~1000 km)にも達し、その
集合が金星ディスク上に巨大なY字形に見える模様を映しだしている。[Esosito et
al., 1997 他] Del Genio & Rossow (1982 ,1990)は、この模様が大気中の波動の伝搬に
よって移動しており、金星の明るさが模様の回転(伝搬)に対応して周期変動すると発表
した。彼らは探査機Pioneer Venus 搭載装置OCPP を用いた測光観測から、紫外模様
の伝搬速度と風速には対応関係をがあり、明るさの変動周期が時期や緯度によって約 4日
-6日の間で変化することを発見している。
本研究は、北海道大学の所有する1.6m ピリカ望遠鏡を用いて約1,2ヶ月毎に金星大気
モニタリングすることで、金星大気の時間発展を捉えスーパーローテーションの理解
を進めることを目的としている。今回の発表では、今までの観測データから金星の
365 nmでの明るさについて、緯度帯別の時間変化とその変化の観測期間ごとの比較を紹介
し、結果の議論と今後の研究方針について報告する。
01/17 10:30--12:00 島 侑奈
2011年2 - 3月、AKATSUKIに搭載されたLIRは1.2 - 1.7×107 kmの距離か ら、地上観測では取得困難な金星昼面の測光観測を行い、0.05°の空間分解能に 対して、視直径0.05 - 0.04°の金星を捉えることができた。本研究では、そこで 得られたデータとAKATSUKI打ち上げ前に実験から得た校正データを用いて、期間 中の金星雲頂高度での輝度温度を求め、その変動から周波数解析を行った。結 果、金星大気においてスーパーローテーションと思われる5日付近のみならず、8 日付近でも周波数成分が卓越している傾向がみられた。今回この結果をふまえ て、これらの波構造の成因について考察を行う。
01/22 10:30--12:00 宮澤 淳次
火星は極域の水氷のみで大気が希薄で乾燥した惑星である。
しかし火星表面の水が流れたであろう痕跡が発見されている。
それにより数十億年前は、現在よりはるかに高い気圧で暖かく湿った大気であっ
たこと示している。
大気が希薄になった理由の一つとして、宇宙空間への散逸が考えられる。
火星は低重力かつ固有磁場が存在しないので、太陽放射と惑星間プラズマの影響
を受けやすい。
そのため様々な散逸過程が考えらているが、どの散逸過程がどのくらい大気散逸
に効いているのかは分かっていない。
また、火星近傍において大気がどのような分布を持っているか分かっていない。
そこで、散逸のモデリングをし、分布や密度構造を求めることを目指す。
本発表では、解離再結合による酸素原子散逸についてのシミュレーション結果の
現状を報告する。
02/05 10:30--12:00 小松田 忠良
近年、世界各地の林野火災は年々増加傾向にある。林野火災は、地球環境、人命や
経済などに多くの影響を与えることが懸念される。さらに、林野火災による大量の二
酸化炭素が放出された結果、地球温暖化が加速し、地球温暖化による気温の上昇と降
水量の減少が林野火災を誘発するという、フィードバックが懸念されている。林野火
災の出火要因に関する研究を行うことは、火災予報、防止対策、消火活動を行うため
に重要である。
本研究ではアラスカの北方林火災について事前検討を行い、温帯林・乾燥灌木林・
熱帯林等の森林や原野(草原・ツンドラ等)を含んだ球上の多様な植生に研究対象を広
げ、雷活動による林野火災の出火要因に関する研究を行う。林野火災の出火多発地域
と経年変動の調査を行い、過去に発表された落雷活動による出火に焦点を当てた研究
を行う。研究目標を、火災検知情報と落雷検知情報に基づいた出火要因の定量的評価
とする。
今回の発表は、アラスカにおける林野火災活動と落雷活動の空間分布と発生頻度に
関する発表を行う。また出火に影響を与えると思われる落雷の極性と電荷モーメント
に関する考察を述べる。
02/12 10:30--12:00 森永 隆稔
高高度発光現象(TLE:Transient Luminous Events)は成層圏・中間圏・下部熱圏
で発生する大気放電現象であり、これまでの地上・宇宙空間からの光学・電波観測か
ら形状や発生頻度などが明らかにされた。中でも、スプライトに関しては、観測から
落雷上空で発生する準正電場モデル [Pasko et al., 1997] が提唱された。また、こ
のモデルに基づいた放電路や大気化学組成の経時変化に関するシミュレーション
[Sentman et al., 2008. Hiraki et al., 2008] が行われるとともに、衛星による
NO2濃度と全球雷観測網であるWWLLN(World Wide Lightning Location
Network)による同時観測が行われた。しかし、発生メカニズムや大気化学組成への
影響など未解明の部分も非常に多い。
本研究では、TLEが大気組成に与える影響について明らかにするために、大気中の
微量分子の計測を目的に国際宇宙ステーションに設置された超伝導サブミリ波リム放
射サウンダ (SMILES; Superconducting Submillimeter-Wave Limb Emission
Sounder) の観測データ(特に、HO2、H2O2、O3)と我々が運用するGEON (Global ELF
Observation Network) による一定値以上の落雷の発生頻度、極性、中和電荷モーメ
ントと比較を行い、これまでの落雷とスプライトの発生の関係を一つの指標とし、ス
プライトとの相関関係を明らかにしたいと考える。
本発表では、GEONの位置精度(誤差平均700 km)がSMILESの比較のために十分でな
いため、観測データに対してフィッティング・補間処理を行い、落雷の位置精度向上
を行った結果および、SMILESによる観測結果から地方時での濃度変化を紹介する。
02/19 10:30--12:00 中右 浩二
林野火災は森林破壊の要因であるとともにCO2放出源でもある。 その量は化石燃料燃焼による温暖化効果ガス放出の1/4~1/2に匹敵する。 林野火災の相当数は人為起源であり、抑制が可能な気候変動要因でもある。 消防活動は火勢や気象、地形により戦略が異なるため、詳細な空間分布と 頻繁な更新が必要である。そこで複数の赤外線観測衛星による林野火災検出を 組み合わせ、高分解能かつ高頻度な監視を行う必要がある。現在林野火災に 利用可能な人工衛星赤外センサには多波長センサと単バンドセンサの2種が ある。そこでそれぞれに対応した林野火災検出アルゴリズムを開発した。 本セミナーでは、林野火災検知の原理とこれらのアルゴリズムについて 説明する。
02/21 10:30--12:00 中尾 光
活動銀河は銀河中心からその銀河全体に匹敵する莫大なエネルギーを 放射している銀河であり、その中心領域を活動銀河核(AGN)という。 活動銀河核の構造は(Antonucci 1993)により銀河の見込み角と 可視光光度、電波強度の3つのパラメータによって統一的な解釈が なされてきたが、電波強度を決定する構造の違いは分かっていない。 そこで本研究では北海道大学1.6m Pirka望遠鏡に搭載している 可視撮像分光装置(NaCS)を用いた、分光モニター観測により 電波強度の違いを生み出す構造の違いの解明を目指している。 本セミナーでは本研究の独創的な手法と観測計画の紹介、現在までの 観測結果を紹介する。
02/26 10:30--12:00 工藤 剛史
雷をモニタリングすることにより,積乱雲の発生や発達,つまり水蒸気や気流の
分布及び変化のインジケータとなることが示唆されている (例えば,[Soula and
Chauzy, 2001],[Deierling and Petersen, 2008]).これまでの研究では,雷の
活動度を示すものとして,落雷頻度が使用されてきたが,落雷規模を示すCharge
Moment Change (CMC) [C km]など,電気的な特徴を考慮されていない.落雷の
中和電荷量には100倍以上の幅があることが知られており,この電気的な特徴を
考慮した落雷情報に,積乱雲の発達過程を示す要素が含まれている可能性がある.
一方,日本国内にはいくつかの雷観測網があるが,落雷位置標定やピーク電流の
算出を目的としており,落雷規模を推定できる雷観測網は存在しない.雷放電から
放射される電磁波は,10 kHz以下のVLF帯域に最も強いエネルギーをもち,この
周波数帯域における観測から,CMCの推定が可能になる.
関東地方はAMeDAS観測網や気象レーダーが複数設置され,落雷情報と気象
パラメータと比較するのに最も適した場所の一つである.この地域で連続的にVLF
帯電磁波データを取得することにより,気象パラメータと落雷規模を含む落雷情報
の定量的な関係を明らかにすることを目指す.
本研究では,同一仕様の観測システムを関東地方3箇所に設置し,雷放電電磁波
の到達時間差及び到来方向探査法を用いて落雷位置標定を行う.2011年10月に
千葉県大網白里町,2012年4月に山梨県甲府市に設置が完了しており,近日中に
群馬県前橋市にも設置を 予定している.
観測システムは,東西および南北水平2成分の磁場ループアンテナと,鉛直1成分
のダイポール電場アンテナ,受信器,PC等から構成される.A/D変換器とGPS時計
により,VLF帯電磁波波形データを16bit,83.3 kHzサンプリングレート,時刻精度10
μs以内で記録する.この観測網により,位置標定誤差を雷雲水平スケールである
10km以下,関東全域で検出率100%を目指す.
CMCを推定するためには,落雷のピーク電流値とともにソース電流の時間変化を
得る必要がある.そこで,Yanagi [2012]が提案した方法を用いて,200 km以内の
近距離の落雷に対し,ピーク電流の推定を行った.電場のgroundwaveの振幅値と
波形のゼロクロス時間からソース電流の時間変化を推定し,CMCを算出した.
今回の発表では,関東地方に展開中の観測網の構築状況を紹介し,山梨VLF
サイトで観測した電場成分を用いたピーク電流とCMCの推定方法および結果に
ついて議論する。
03/05 10:30--12:00 佐藤 光輝
雷放電に伴う高高度放電発光現象が発見されて20年以上経過するが,それらの発生 を決める条件や全球発生頻度分布に関し,いくつかの先行研究はあるものの理解が 深まっていない。その理由として,スプライト自身の空間分布や親雷放電との空間 的差違を,多くの事例について観測的に調べることが困難であることが挙げられる。 また全球分布を推定するためには,宇宙空間から全LTを掃引観測することが不可欠 であるが,未だに実現していなかった。これらを克服することを目的として,国際 宇宙ステーション(ISS)日本実験モジュール(JEM)曝露部から,雷放電と高高度放電 発光現象を観測するミッション(JEM-GLIMS)が,2007年にミッションが提案され た。多くの審査会を経て2010年11月にGLIMS機器の開発を完了し,2012年7月21 日に種子島宇宙センターから打上げられた。初期運用・試験運用を経た後に,2012 年12月20日から定常運用を開始した。これまでに約500例の過渡発光イベントの検 出に成功している。この発表では,これまでにGLIMSで得られているデータとその 初期解析結果を紹介すると共に,今後のGLIMS観測計画および地上観測ネットワー クとの連携についても紹介し議論する。
03/12 10:30--12:00 栗原 純一
液晶波長可変フィルタ(Liquid Crystal Tunable Filter; LCTF)は 透過中心波長を電気的に選択可能な光学フィルタである。このLCTF を用いることで、従来に比べて大幅に小型軽量かつ低消費電力の マルチスペクトル観測機器を開発することができるため、搭載重量 や消費電力の制限が厳しい小型地球観測衛星や惑星探査機への搭載 が容易になる。 この発表ではLCTFの原理と特徴を説明し、北大で開発したLCTFを 用いたマルチスペクトル観測機器について紹介する。昨年10月に 実施した航空機搭載用マルチスペクトルカメラによるインドネシアの 泥炭森林の観測と、来年度に打ち上げ予定の超小型衛星RISING-2 およびRISESATに搭載されるマルチスペクトル高解像度望遠鏡による 地球・惑星観測について紹介し議論する。
03/19 10:30--12:00 渡邊 誠
セイファート銀河をはじめとする活動銀河核には,スペクトル中の広輝線
の有無など特徴の異なるさまざまなタイプが存在する。これらの違いの多く
は中心のブラックホールと降着円盤とを取り囲むダストトーラスの見込む角
度の違いによる見かけの違いであるという統一モデルが広く受け入れられて
いる。しかし,活動銀河核はサイズが非常にコンパクトでかつ遠方にあるた
め,統一モデルの要となるダストトーラスを直接空間分解して観測できず,
その形状や性質がいまだ明らかではない。
この発表では,直接分解撮像観測によらず,偏光観測からセイファート銀
河のダストトーラスの形状と性質を明らかにする試みを紹介し,その偏光モ
デルの現状と問題点を概説する。そして,偏光観測によるダストトーラス解
明に向けて現在進行中の,北大ピリカ望遠鏡可視撮像観測装置MSIへの偏光観
測モードの導入と,すばる望遠鏡レーザーガイド補償光学AO+近赤外撮像分
光装置IRCSへの偏光観測モードの導入について,計画と進捗現状を紹介する。
03/26 10:30--12:00 福原 哲哉
2014年12月に打上げが予定されているはやぶさ2は、小惑星「1999JU3」からサン プルを持ち帰る事を目的とした探査機である。この探査機には、あかつき搭載中 間赤外カメラ(LIR)と同等の熱赤外カメラ(TIR)が搭載される。TIRはリモー トセンシング観測によって小惑星表面の輝度温度の水平分布を得る。自転する 1999JU3を固定位置から連続観測することにより小惑星表面温度の時間変動を得 れば、小惑星表面の熱慣性の水平分布を得る事ができる。他のリモートセンシン グ観測(や将来的には地球に持ち帰ったサンプル)によって得られた小惑星の組 成情報から小惑星表面の密度や比熱を割り出し、熱慣性の結果と付き合わせるこ とで、表面の物理状態(砂なのか石なのか岩なのか。。粒径)を見積もることが でき、小惑星(微惑星)形成の進化について議論が深まると期待されている。ま た、表面の物理状態が把握できると、サンプル採取地点の選定や着陸地点の熱的 安全性の評価が可能になるため、TIRはサンプル採取ミッションへの貢献度も高 い観測機器である。
05/31 10:30--12:00 堺 正太朗
Voyager や Cassini の土星内部磁気圏での観測から, プラズマ速度が共回転速度の 70-80% 程度に減少することが明らかになった [Bridge et al., 1981, 1982; Richardson, 1986, 1998; Wilson et al., 2008, 2009].
一方で, Cassini Langmuir Probe (LP) の観測では,更にイオン速度が小さく E リング領域ではケプラー速度付近まで減少することを示した [Wahlund et al., 2005, 2009; Morooka et al., 2011; Holmberg et al., submitted].
E リングは負に帯電した小さなダスト粒子から構成されており, プラズマディスク中の電磁気的な効果に寄与していると考えられている [Horanyi et al., 2004; Kempf et al., 2008].
E リングの供給源の 1 つとして考えられている衛星 Enceladus では電子密度がイオン密度より顕著に小さく, その速度がケプラー速度付近であることが明らかになった [Morooka et al., 2011].
また最新のモデル計算ではイオンとダストは磁気圏-電離圏結合を通じて相互作用し, ダスト密度が大きい,
またはダスト層が厚い時イオン速度が LP 観測に一致することが示された [Sakai et al., submitted].
しかし,このモデルは半径方向 1 次元のみで計算されており, 電離圏の影響が考慮されていない.
そこで本研究では, 半径-緯度方向の 2 次元モデルを構築し, 電離圏の効果を含めて計算を行う.
本発表では, 実際に計算した電離圏のイオン密度から求めた電離圏伝導度を用いて, 内部磁気圏のイオン速度の計算を行った結果について議論する.
06/07 10:30--12:00 小林 縫
ハイスピードカメラを用いた光学観測によって、スプライトストリーマの構造 が明らかにされてきた[Cummer et al., 2006]. スプライトストリーマはカラム 型、キャロット型という2つのタイプに分類され、1つの雷放電により複数のカラ ム,キャロットが生成する. また、ひとつひとつのカラム・キャロットは微細な 構造を持つことが分かっている。しかし、スプライトストリーマの発生条件や時 間・空間発展の物理機構と いった根本的な問題は未だに解明されていない。そ こで我々のグループは、2011年夏季アメリカで、航空機を用いたスプライト同時 観測キャンペーンを実施した。さらに、スプライトストリーマの水平空間分布 と立体構造を求めるために、キャンペーンで撮影された画像データを用い三角 測量を行った。 本発表では、いくつかのスプライトストリーマについての水平空間分布と立 体構造の結果からスプライトストリーマの発生条件と時間・空間発展について議 論する。
06/14 10:30--12:00 古田 裕規
WINDsキャンペーンの一つとして, 2012年1月12日05:51 JSTに鹿児島県内之浦(131.08E, 31.25N)からS-520-26号機を打ち上げた. 原子状のリチウムを高度約100km付近に放出した. 原子状のリチウムは670nmで太陽光を共鳴散乱する. 共鳴散乱光を 3地点(内之浦, 宿毛, 室戸)から同時に観測した. リチウムガスは高度100km付近存在する速度シアー内に放出された. また, 高度100km付近に存在する大気重力波の影響を受けた変化を示した. 今回はロケット実験で得られた大気重力波の解析結果について報告する.
06/28 10:30--12:00 林 健太
太陽活動極大期の地球電離圏上層部観測衛星”ひのとり”の観測から プラズマの電子密度-温度関係が高密度で反比例型からUの字型へと 変化する傾向がみられた。このUの字型の関係は電離圏のプラズマの エネルギー方程式には表れない。また、他の電離圏観測衛星の 観測結果や、国際標準電離圏モデルIRIにもUの字型は見られない。 そのため、本研究ではひのとり衛星に搭載されている電子温度プローブに 問題があるかどうかを検証し、さらに地上のIncoherent Scatter Radar による電離圏観測データとの比較も行う。
07/05 10:30--12:00 三宮 佑介
雷放電活動と気候変動の関係については、これまで様々な研究がされてきた。例え ば、雷放電活動と地表温度の関係(Williams et al., 2005; Price and Asfur, 2006)、雷放電活動と対流圏上部の水蒸気量の関係(Price and Asfur, 2006)はどちら も正相関を示すことが指摘されている。このようにな関係から雷放電活動は、気候変 動をモニタリングする一つの手段として考えられている。しかし、このような関係が 指摘されているのは主にアフリカの雷多発帯についてであり、アジア海洋大陸近傍の 雷多発帯については、これまであまり議論されていない。そのため、アジア海洋大陸 近傍の対流活動が、どのような特徴を持ち、どのような地域に影響を及ぼしているか を調べることは、気候変動に繋がると期待される。また、Takahashi et al., (2010) は、Outgoing Longwave Radiation (OLR) を使用し、1980年から2003年までについて OLRの約1ヶ月周期に着目し調査した。その結果、西太平洋暖水海に強い約1ヶ月周期 のピークが見られることが確認された。 今回我々はTakahashi et al., (2010) が示した、西太平洋暖水海の雲量の強い1ヶ 月周期変動に着目した解析を行った。この周辺地域において2003年8月から2004年7月 までの積乱雲の上昇気流を示す指標としての雷放電活動と雲量の指標としてのOLRの 関係について調査した。雷放電活動には北海道大学が構築・運用しているエネルギー の推定が可能なGlobal ELF Observation Network (GEON) のデータを用いた。この GEONは全球で発生している電荷モーメント950 [C-km] 以上の落雷をすべて検出す る。このように全球一様に閾値をかけて、個々の雷放電の位置推定を行った観測網は これまでに存在せず、世界唯一である。東インド洋、アジア海洋大陸、西太平洋暖水 海の3つの領域に分けて雷放電活動とOLRがどのような変動の特徴を持ち、また相互に どのような関係があるのかを明らかにすることを目的とした。本発表では、雷放電活 動とOLRの相関解析の結果などを議論する。
07/12 10:30--12:00 濱本 昂
土星大気表層では積乱雲 (300 - 3,000 km) が定期的に発生することが知られ ており,中でも大白班と呼ばれる大規模気象現象は,通常の積乱雲の約 10 倍以 上の大きさに成長し,数ヶ月間存在し続ける.現在に至るまで確認された大白斑 は土星での約1年 (29.5 地球年) に 1 度の割合で発生しており,土星の季節性 との関係が示唆されている [Sancehz-Lavega and Battaner, 1987].土星湿潤対 流モデルを用いた3次元積乱雲対流のシミュレーションから,大白斑の雲頂高度 に到達する対流はH2O雲層を起源としている考えられ ている [Hueso and Sanchez-Lavega, 2004].雲頂高度は雲構造を仮定した放射伝達計算との比較か ら推定さており,大白斑の発達・減衰等のメカニズムを研究する上で,大白斑の 複数波長での 反射率の変動を観測することは非常に重要である.本発表で は,2010年12月に発生した大白斑の減衰過程の時期 (2010年5月,6月) に行った 土星の可視近赤外スペクトル撮像観測と,大白斑消失後 (2012年2月) に行った CH4吸収バンド撮像観測、またその解析結果について報告する.
07/19 10:30--12:00 周 芳々
雷放電は大気中の放電現象であり、主に雲間放電、雲内放電、落雷の3種類に分類さ れる。落雷は雷雲内の正極性電荷が中和される正極性落雷と、負極性電荷が中和され る負極性落雷の2種類に分類される。電荷モーメントは雷放電の規模を表すパラメー タのひとつであり、放電によって中和される電荷量と放電距離の積(Qdl)で表され る。本研究は全球ELFネットワーク観測システムによって、観測された落雷波形の解 析を基に、全球における落雷の電荷モーメント毎の頻度分布を推定した(950C-Km以 上)。さらに赤道付近で落雷放電の活動が活発のところを7地域(アジア海洋大陸、 オーストラリア、中部アフリカ、南アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、南太平洋) に区切って、Qdl毎に落雷頻度の変化を調査した。電荷モーメント950C-Km以下のもの と繋がるために、電荷モーメント毎の頻度分布と傾きの変化を重ねて、モデル化しよ うと考えている。
08/02 10:30--12:00 阪井 陸真
地球は地表面と電離圏を極板とする一つの同心球殻状コンデンサーを形成してい る。このコンデンサーは雷雲からの放電によって充電されており、晴天領域でわずか に流れる大気電流として消費されると考えられている。このような地球を一つの電気 回路に置き換えて考えたモデルをグローバルサーキットモデルという。このモデルは 20世紀初頭に提唱され、以後様々なパラメータによる観測結果からこのモデルは概ね 支持されている。しかし、このモデルは測定的検証の難しさから統計的データでの議 論が多く、定量的な議論が難しいとされる。近年、古くから提唱されているこのモデ ルは、衛星光学観測等の高度な観測やスプライト等の新たな発見により再び見直され る動きになっている。このような背景から、実測値に基づいた定量的な大気圏-電離 圏のつながりを議論する必要がある。そこで私は、全球での落雷による電流値を定量 的に評価し、全球での電流値の分布を明らかにし、将来的には、電流の大気圏での流 れの可視化・電離圏-磁気圏電流系へのグローバルサーキットモデルの拡張を目指 す。近い目標として、3次元の落雷による電流分布図の作成を目指す。具体的な方針 として、北海道大学が構築・運用しているGlobal ELF Observation Network (GEON), Asian VLF Observation Network (AVON)を用いて全球でのグローバルな電流値を算出 し、ローカルな積乱雲の活動を雲直下における直接測定を実施することで、グローバ ルな電流分布にローカルな影響を考慮していく。今回は、その過程について今後の展 望と併せて発表する。
08/23 09:00--10:30 小松田 忠良
森林火災は地球環境、人命や経済などに多くの影響を与えることが懸念される。森 林火災の出火要因に関する研究を行うことは、火災予報、防止対策、消火活動を行う ために重要である。本研究は、全球・アジア域の落雷活動による森林火災の出火要因 に関する研究を行う。森林火災の出火多発地域と経年変動の調査を行い、過去に発表 された落雷活動による出火に焦点を当てた研究を行う。研究目標を、火災検知情報と 落雷検知情報に基づいた、出火要因の定量的評価とする。今回の発表は、全球におけ る森林火災活動と落雷活動の空間分布に関する発表を行う。また出火に影響を与える と思われる落雷の極性と電荷モーメントに関する考察を述べる。
08/23 10:30--12:00 宮澤 淳次
火星は極域の水氷のみで大気が希薄で乾燥した惑星である。しかし火星表面の 水が流れたであろう痕跡は、数十億年前は現在よりはるかに高い気圧で暖かく 湿った大気であったこと示している。大気が希薄になった理由として宇宙空間へ の散逸が考えられる。火星は低重力かつ固有磁場が存在しないので、太陽放射と 惑星間プラズマの影響を受けやすく、様々な散逸過程が考えらている。 本発表では、観測に使用されているMars Expressと大気散逸のメカニズムを紹介 する。
08/28 10:00--10:45 馬場 ひかる
雷放電によるホイッスラー波が磁気圏内部放射線帯の数百KeV以上の高エネルギー
電子と相互作用した結果、電子が下部電離圏まで降下して電離圏を擾乱させ、下部電
離圏と大地との間を導波管モードで伝わる空電の強度が急激に減少する現象を、雷誘
導電子降下現象(LEP)という。
この現象はこれまでは主に地上での自然電磁波観測から捕らえられていた。しかし
DEMETER衛星によって、初めてホイッスラー波とLEPのそれぞれに関して直接同時観測
が行えるようになった。
このことから磁場や雷放電の地上での観測データと、DEMETER衛星の観測データを
比較する事で、LEPが放射線帯の電子の消失にどの程度寄与しているかをより定量的
にみていく事が出来るようになった。
今回私は、以上から明らかになった雷放電と下部電離圏の擾乱との関係をより明確
に捉える為に、まずは原因となる雷放電についての位置推定とピーク電流値の検出を
行う。その展望をこれまでの学習内容と併せて発表する。
08/28 11:00--11:45 三原 正大
スプライトとは、雷放電に伴い中間圏から下部電離圏にかけて大規模に発現する
TLEsと呼ばれる過渡発光現象の一つである。スプライトの発現メカニズムとして準静
電場モデルが知られているが[Pasko et al.,1997]ストリーマと呼ばれる微細構造の
時間・空間発展をどういった要素が決めているのかはまだ明らかにされていない。
2011年にアメリカにて航空機を用いたスプライト同時観測キャンペーンが行われ
た。そこから得られたデータを用いて三角測量を行い、スプライトストリーマの立体
構造を解析する。
本発表では、スプライトストリーマの立体構造を研究する第一歩として購読した、
スプライトストリーマの開始条件に関する論文のレビューを行う。
Qin, J., S. Celestin, and V. P. Pasko (2011), On the inception of streamers
from sprite halo events produced by lightning discharges with positive and
negative polarity, J. Geophys. Res., 116, A06305, doi:10.1029/2010JA016366.
08/30 10:00--10:45 市川 悠衣子
この研究の目的は、台風の雷の水平分布と共に、CMCを調べることによって、台
風の雷の特徴をよりよく理解し、台風の勢力と雷活動の間の関連性を 探ることであ
る。台風は、発達から衰退までのほとんどの期間を地上レーダー観測網の無い中-低
緯度の海上で過ごすために、最大風速・最低気圧を始 めとしたの気象データの継続
的な観測が困難である。航空機による中心気圧・風速の直接観測や、衛星による雲
レーダーの画像、経験則からの中心気圧 の導出等によってその規模が推定されてい
るが(※1)、いずれの手段も時刻が不連続なデータしか得られないために、急激な(24
時間程度の)変化 の予報は難しい。近年台風の雷の水平分布に関する研究が行われる
ようになり[ Demaria et al.(2011), 中野他,(2011), Price et al.(2011) ]、それ
によって台風の雷活動が、台風の勢力推定に利用できる可能性があることが分かって
きた。だが、台風での対地放電の頻度は、その上昇気流の強さから 予測されるもの
よりも低いことなど、台風の雷自体に関しても未解明の部分が多い[ Demaria et
al., 2011 ]。本研究グループが運用しているELF帯雷観測網( GEON )では、雷の位置
決定を行うだけではなく、総電流の目安となるCharge moment changeを見積もること
ができる。CMCの大きさから雷の放電量を推定することで、気象現象毎の雷の特徴が
より詳しく分かるようになるため、気象現象 の微視物理の理解に貢献すると期待さ
れている。GEONデータから得られる知見は、台風の勢力変化の予測を通して災害予測
の改善につながるだけでなく、台風の雷分布の特徴をよりよく理解するこ とで、台
風の物理の解明にも貢献するだろう。
※1 HP デジタル台風 台風情報に関する記事を参照(2012/8/28アクセス)
http://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/help/tyinfo.html.ja
08/30 11:00--11:45 今井 正尭
金星大気の紫外波長観測では、Y字形をした惑星スケールの大きな模様から筋状の
細かな模様まで大気中の紫外吸収物質の分布を反映した明暗コントラストを見ること
ができる。この紫外吸収物質は未同定であるが、高度45 - 70 km に存在する雲の主
成分H2SO4 に由来する物質であると推定されている。金星のスーパーローテーション
はこの紫外模様の時間変化と深く関わりがあると考えられており、Del Genio &
Rossow (1982) は探査機Pioneer Venus 搭載装置Orbiter Cloud Photopolarimeter
(OCPP) を用いた測光観測から、金星の明るさが模様の変動に対応して周期変動する
と発表した。またこの周期変動は時期によって4日だった周期が5日に変化することが
報告されているが、その過渡期の様子や変化の原因については分かっておらず、緯度
によっても周期が異なることも知られている。
金星の紫外測光観測を長期的に行うことで、周期が4日から5日に変化する過渡期の
様子を捉え、スーパーローテーションの周期変化の原因と循環維持メカニズムについ
て波動の伝搬に注目して理解する研究を紹介する。
09/13 10:30--12:00 阿部 祐平
銀河系を含めほとんど全ての銀河の中心には質量が10^6-10^10太陽質量の巨大ブラックホールがあると考えられている[Kormendy
1995].銀河の中にはブラックホールの活動性が高く中心のコンパクトな領域から銀河全体の明るさに匹敵するほどのエネルギーを放出しているものがあり,これらは活動銀河核(Active Galactic Nuclei: AGN) として知られている.銀河中心ブラックホールの質量Mbhと銀河バルジの質量Mbulとの間にはMbh/Mbul~0.001という相関関係が見られ[Häring and Rix 2004],このことは銀河と中心のブラックホールが共に関わり合いながら進化していることを示している.共進化のメカニズムのアイディアとして,①銀河同士の衝突/相互作用により爆発的な星形成と中心核への質量降着が引き起こされ,②活動性の高くなったAGNからの強い放射が銀河全体に渡ってガスを吹き飛ばし,③銀河の星形成とブラックホールの活動性がおさまる,という①から③を一連のサイクルとしたAGNフィードバックが考えられている[e.g Di Matteo et al. 2005].AGNからの強い放射によって照らされた銀河全体に広がって見える輝線領域をextended emission-line region (EELR)
といい,共進化を理解するための鍵として注目されている.全ての銀河がAGNフィードバックによって共進化しているかどうかは定かではなく,ブラックホール質量が10^8太陽質量より小さい銀河ではEELRが検出されないという報告もあるが[Matsuoka 2012],低質量活動銀河のサンプルが少ないため,さらに調べる必要がある.
そこで本研究では,低質量活動銀河のEELRの観測例を増やすことにより,EELRの検出率のブラックホール質量への依存性を調べる.
09/19 16:00--17:00 仲本 純平
天王星のアルベドスペクトルではメタンの吸収帯が支配的であることが知られ ている。メタンの吸収帯を詳しく観測すると、波長ごとのアルベドとメタン吸収 係数から天王星大気中のメタンの存在量を求めることができる。いままでにハッ ブル宇宙望遠鏡や地上観測のデータからこれらが求められているが、更に長期間 連続観測することで、メタン存在量の時間変化を求められる可能性がある。 本発表ではメタンの吸収帯から大気中のメタンの存在量を求める方法、及び北海 道名寄市に設置された北海道大学付属天文台を用いた今後の観測計画について報 告する。
09/20 10:30--12:00 森永 隆稔
スプライトに伴う大気化学反応に関しては数値シミュレーションと観測の両面から研
究が進められている。
QE(準正電場)モデルを用いたスプライトストリーマーヘッドにおける数値シミュ
レーション[Hiraki and Fukunishi, 2008]では、進展開始t=0 s-1 hでのOx(O, O3),
NOx(NO, NO2), HOx(H, OH, NO2, H2O2)について各密度の経時変化が示されており、
中でもH2O2はt=0 sとt=1 hを比較すると高度40 kmにおいて約1ケタ弱の増加、また60
kmにおいては1ケタ以上の密度増加があると示されいる。
また、観測として衛星による中間圏でのNO2密度とVEFによる雷放電の回数を比較
[Arnone et al., 2009]が行われており、雷放電に伴うNO2の増加が示されているが、
スプライトが確実に発生しているか否かの判断には至っていない。
そこで本研究では、スプライトと大気化学反応の関係を明らかにするために、国際宇
宙ステーションにある日本の実験棟に設置されたSMILES(Superconducting
Submillimeter-Wave Limb-Emission Sounder)によるH2O2密度の観測結果とGEON
(Global ELF Observation Network)のデータを用いて算出した雷放電の中和電荷
モーメントや極性、発生位置の結果を使用し、数値シミュレーションで得られたH2O2
密度と比較しながら生成量の推定を行う。
本発表では、SMILESとGEONのデータを用いた解析手法について説明する。
09/27 10:30--12:00 工藤 剛史
雷をモニタリングすることにより,積乱雲の発生や発達,つまり水蒸気や気流の分
布及び変化のインジケータとなることが示唆されている.アメリカでは数値モデルへ
の落雷データの同化予測精度向上やストームの移動予測に落雷頻度情報が利用されて
いる.
これまでの研究では,雷の活動度を示すものとして,落雷頻度が使用されてきた
が, 落雷規模を示すCharge Moment Change (CMC) [C km]など,電気的な特徴を考慮
されていない.この電気的な特徴を考慮した落雷情報に,積乱雲の発達過程を示す要
素が含まれている可能性がある.
一方,日本国内にはいくつかの雷観測網があるが,落雷位置標定やピーク電流の算
出を目的としており,落雷規模を推定できる雷観測網は存在しない.雷放電から放射
される電磁波は,10 kHz以下のVLF帯域に最も強いエネルギーをもち,この周波数帯
域における観測から,CMCの推定が可能になる.
関東地方はAMeDAS観測網や気象レーダーが複数設置され,落雷情報と気象パラメー
タと比較するのに最も適した場所の一つである.この地域で連続的にVLF帯電磁波
データを取得することにより,気象パラメータと落雷規模を含む落雷情報の定量的な
関係を明らかにすることを目指す.
本研究では,同一仕様の観測システムを関東地方3箇所に設置し,雷放電電磁波の
到達時間差及び到来方向探査法を用いて落雷位置標定を行う.2011年10月に千葉県大
網白里町,2012年4月に山梨県甲府市に設置が完了しており,近日中に群馬県前橋市
にも設置を予定している.
観測システムは,東西および南北水平2成分の磁場ループアンテナと,鉛直1成分の
ダイポール電場アンテナ,受信器,PC等から構成される。A/D変換器とGPS時計によ
り,VLF帯電磁波波形データを16bit,83.3 kHzサンプリングレート,時刻精度10μs
(山梨),100 μs(大網) 以内で記録する。この観測網により,位置標定誤差を雷
雲水平スケールである10km以下,関東全域で検出率100%を目指す.
今回の発表では,本研究の目的,観測システムについて紹介し,2012年4月に取得し
た山梨と大網の2地点同時観測のデータについて,磁場2成分と電場極性で決定する到
来方向探査を行い,到達時間差を組み合わせて落雷位置を推定し,既存の雷観測網の
落雷位置情報と比較・評価した結果について議論する.また,VLF帯電磁波波形デー
タからCMCを推定する基礎的な検討と,今後の展望について紹介する.