日置幸介, 編集後記

国立天文台ニュース、 第49号, 1996.

月の南極に近いクレーターの内部は「一年中、日の光が届かない」ので光学 天文観測に最適だそうだ。そんな話を聞いていると同じく一年中日がささない 我が官舎の庭を思い出してしまった。でも田舎はありがたいもので、私のよう なビンボー人でも家が建てられてしまう。というわけで月面顔負けの官舎とも お別れして、四月に新築の家からの自転車通勤が始まった。

さて広く開けた平坦な道を通る通勤にかかる時間に最も影響するのは、当 日の体調でも荷物の重さでもなく、「風」である。向かい風で45分かかる道 のりが、追い風参考タイムで30分、実に15分の差がある。毎日同じ時刻に 家を出るとしたら勤務時間への影響も大きい。

考えてみれば風はエラい。地球をめぐる風が地球の自転速度をゆるがしてい るのがわかったのはVLBIのごく初期の成果である。聞けば風はチャンドラー運動 の励起源であることが最近わかったという。風は地球の自転軸もゆるがしている のである。私以外にも水沢では比較的遠方から自転車で通っている人が多い。 風は地球回転研究者の勤務時間もゆるがすというのが、風と地球回転に関わる 私の最新の研究成果である。


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日置幸介 (email: heki@ep.sci.hokudai.ac.jp)