「ハード」とは「hardware」の略で,コンピュータを構成する電子回路や, 周辺機器などの物理的実体のことです.つまり,目に見えて,電気が流れたり, モーターが動いたりしている部分のことを指します.それに対して「ソフトウエ ア(software)」というものがあります.これは,コンピュータを動作させる手順 や命令を,コンピュータが理解できる形で記述したものであり,物理的実体を もちません.
しかし,立派なハードウエアがあってもそれを動かすソフトウエアがなければ, パソコンはただの箱でしかありません.また,賢いソフトウエアのみ存在してい ても,それを具現化するものがなければ意味がありません.まるで,プレステを 持っていないのにプレステのゲームを買うようなものですね. つまり,コンピュータを使うためには,ハードウエアとソフトウエアの両方が 必要不可欠ということです.今回のレクチャーでは,PCの物理的実体が,どのよ うに結合され,働いているかを簡単に紹介します.
PCとは何でしょうか.もちろん「Personal Computer」の略で,いわゆる 「パソコン」,つまり「個人用のコンピュータ」です.メーカーが販売する個人 用のコンピュータには,「PC-9800シリーズ」や「Macintosh」,「FM-TOWNS」, 「X68000」などがあります.他にもいろいろあります...いや,あったのです が,そのほとんどは現在市場に流通していません.現在,市場のほとんど(ちょっ と語弊のある表現ですが,少なくとも半数以上は)のパソ コンは「PC/AT互換機」と呼ばれる部類に属すものです.ですから,最近は 「PC」といったら「PC/AT互換機」をさす場合が多くなりました.
PC/ATは1985年にIBM社が発売したパソコンです.このPC/ATは発売当時から 全面的にハードウエア設計の使用が公開されていたため,IBM以外の多くの会社 がその互換機を作成・販売できたため,多くのユーザーがPC/AT互換機を使用す るようになり,いつのまにか世界標準の地位を確立しました. また,1990年に日本アイビーエムから,日本語を扱えるOS「DOS/V」が, 発売され,日本でも徐々に浸透していきました.この名残で,日本では いまでもPC/AT互換機のことを「DOS/Vマシン」と呼ぶことがあります.
パソコンに必要な機能とは何でしょう.一般に,次の4つの機能が 最低限必要です.
以上の4つの機能の他に,「ネットワーク」の機能や,「サウンド」 の機能などの特別な機能を付加するために,それらの機能を実現する装置が必要 になり,また,以上の機能を結合・調整する機能が必要 なになります.最近では,それぞれの機能を結合・調整する装置は マザーボードという一枚の電子基板上に実現され,機能を拡張する手段も, マザーボード上に提供されています.
マザーボードには,CPUやメモリ,ディスクドライブなどを結合するソケットや スロットの他に,他の機能を追加する「ISA」や「PCI」,「AGP」などのバス (データの通り道)スロットがあります.また,以上の機能を調節する機能をもっ た「チップセット」と呼ばれるLSIがあります.ここでは,良く使われるバスス ロットや,チップセットについて解説します.
コンピュータの内部でCPUやRAM,拡張カードなどの間のデータの受け渡しを 管理する一連の回路群のことを「チップセット」と呼びます. 簡単にいえば,PC内部のデータの交通整理をする役目を担っています. 最近は,PCの小型化やマザーボード設計の手間を省くため,数個のLSI (Large Scale Integration)で構成されるようになりました.
情報実験機のマザーボードには,Intel社の82440BXが搭載されており, 主に2つのLSIから構成されています.CPUに近い方のチップはHost-PCIブリッジ (North Bridge)と呼ばれ,主にCPUとメインメモリ,AGPバスの間のデータの流れ を制御しています.一方,バススロットに近い方のチップをISA-PCIブリッジ (South Bridge)と呼ばれ,ISAバスやIDEなどのディスクドライブの間のデータの 流れを制御しています.また,これら2つのブリッジはPCIバスにより結合され ています.
PCに人間の意思やデータを入力するための装置です.主にキーボードやマウスな どがあげられます.それらについての詳しい説明はここでは省略します.
PCからの出力結果を人間に伝えるための装置です.主なものにディスプレイや プリンタなどがあります.これらについての詳しい説明は省略します. ここでは,ディスプレイに出力するアナログ信号を作成するビデオカードに ついて説明します.
最近のパソコン用ディスプレイはアナログ信号を入力するタイプがほとんどです. ですから,画面の作画を行い,それをアナログ信号へと変換する装置が必要に なり,その機能を実現する拡張カードをビデオカード(グラフィックスガード)と 呼びます.PC/ATの思想では,ビデオ機能は必ずしも内蔵される必要がなく, ほとんどが拡張カードという形式で提供されます.(最近は,PCの価格を下げる ために,チップセットにビデオ機能が統合されている場合もあります) ビデオカードには基本的に,作画を行う「ビデオチップ」,作画したデータを アナログ信号に変換する「RAMDAC」,作画した結果を保存しておく「ビデオメモ リ(VRAM)」が搭載されています.
PCではメインメモリに読み込まれたプログラムにそって処理を行う装置 を一つ(または数個)のLSIで提供されます.それをCPU(Central Processing Unit;中央演算装置)と呼びます.PCの処理能力のほとんどはこのCPUの性能 で決定され,PCの心臓部といえる装置です.
情報実験機では,Intel社のPentium IIIと呼ばれるCPUを使用し, 一度に処理できるデータの幅は32bitで,その処理速度(内部クロック周波数;1 秒間行う処理の回数)は450MHzです. また,外部のデータバスとのデータのやり取りは,64bit幅で100MHzの速度で 行っています.
コンピュータが処理,出力するデータは莫大な量です.これらのデータや, プログラムを保存・読み出しする装置(記憶装置)が必要になります. この記憶装置は大きく二つに分けることができます. 一つは,CPUとデータをやり取りできるような電気的かつ高速な記憶装置で, 主記憶装置と呼ばれます.もう一つは,データを長期的に保存したり,取り外し て別のPCへデータを運ぶことのできる記憶装置で,外部記憶装置と呼ばれます.
CPUとデータをやり取りできるよ記憶装置で, 半導体素子を利用して作られています.電源の供給が絶たれると記憶内容が 消滅してしまうという欠点はありますが,動作が非常に高速であるという利点 があります.単位容量当りの価格が高いため,大量には使用できませんが, 容量が多ければ多いほど大量のデータを処理できるようになります.
情報実験機では,外部クロックと同期してデータの読み書きが可能な, SDRAM(Syncronous Dinamic Random Access Memory)という記憶装置(メモリ) を使用し,その容量は128MBです.
磁気的・光学的手段によりデータやプログラムを保存する装置で,電源を 供給し続けなくてもデータを保持できる利点がありますが,モータなどの駆動装 置を伴うものが多いので読み出し・書き込みの速度は遅いという欠点があります. よって,CPUからアクセスするためには,一度,主記憶装置に読み込む必要があり ます.最近主流な装置としては,ハードディスク,フロッピーディスク,CD-ROM などがあり,これらは,IDE(Integrated Device Electronics)やSCSI(Small Computer System Interface)などの規格で接続されます.
以上で紹介した装置がPCの最低限の構成です.これらの装置があれば,それなり にPCを使うことができますが,他の機能が必要となる場合があります.たとえば, 「ネットワークに接続したい」とか,「サウンド機能」が欲しいなどです. これらの特殊な機能を追加するためには,その機能を実現したカード(電子基盤) を用意して,マザーボードにあるバススロットに装着して実現することができま す. 情報実験機では,ネットワークに接続する機能をもった「ネットワークカード」 をPCIバススロットに,サウンド機能をもった「サウンドカード」をISAバスに 装着することによりそれらの機能を実現しています.