惑星としての地球
The Earth as a planet

地球惑星科学専攻 惑星物理学研究室 倉本 圭
学術月報, 58, 180-184 (2005) に加筆・修正

 地球はその表面に液体の水が存在可能な惑星であるがゆえに,生命の存在だけでなく大気CO2濃度が低いことやプレートテクトニクスが働くことなど,金星や火星にはない固有の特徴を持つに至ったらしい.近い将来,太陽系外の地球型惑星の観測によって,地球固有の特徴を液体の水の存在可能性で説明づける水惑星仮説の妥当性が,より直接的に検証されるようになるであろう.

1. 水惑星・地球

 惑星として地球の最大の特徴は液体の水と生命の存在にある.表1にこれらの存在に加えて,金星や火星にはない地球の特徴として考えられるものを整理した.これらは一見無関係に見えるかもしれないが,実は最初の項目に挙げた水の存在を通じて密接につながりあっていると考えられる.地球は水惑星と呼ばれるが,それは単に表面に液体の水を湛えているという意味にとどまらない.以下ではまずそのことを見てゆくことにしよう.

表1.地球の特徴 地球と月 (NASA)
地球金星と火星
表面に液体の水からなる物質圏が存在する存在しない
生命が存在する発見されていないa)
N2とO2を大気主成分とする CO2を大気主成分とするb)
プレートテクトニクスが働いている働いていない
大陸地殻が広範に存在する大部分が玄武岩質の地殻c)
固有磁場を持つ 持っていない
a)火星では地下に微生物が存在する可能性が考えられている.しかし地球のような豊かな生命圏は存在しそうにない.金星の表層は高温のため液体の水が存在せず,生命の存在可能性は極めて低いと思われる.b)大気圧はそれぞれ約90気圧(金星),0.006気圧(火星).c)火星では地球の大陸地殻に似た組成の地殻もある程度存在していること示唆する証拠も得られているが,その広がりについては良く分かっていない.


2. 生命と水

 少なくとも地球型の生命にとって,液体の水が必要不可欠な存在であることはその分子レベルの構造からも理解することができる.地球型の生命(我々はまだそれしか知らない)は,脂質が細胞膜を作ることによって外界との仕切りを構成し,たんぱく質が外界とエネルギーと物質を交換することによって内部構造を維持する代謝の機能を担い,そして核酸が遺伝情報を持つことによって自身の複製を作る働きを実現している(1).これらの分子はいずれも水がこれらの溶媒となっている場合に特定の立体構造をなし,しかるべき機能を果たすことができる.つまり液体の水なしに地球型の生命はあり得ない.

 地球では生命の誕生から,著しい種の多様化を経て知能を持った生物が出現するまでに30億年以上の時間が費やされた.これは,少なくともこの間,地球表層に水が存在し続けてきたことを意味する.化石に頼らない地質記録からも海洋は40億年かそれ以上の歴史を持つことを示唆する証拠が得られている(2).しかし液体の水が存在できる温度条件は0〜374℃と,両隣の惑星の表面温度(金星は平均450℃,火星は平均−60℃)を考えると決して広いとは言えない.

 地球の年齢の時間尺度では太陽の明るさは不変ではない.40億年前には太陽は現在よりも30パーセント近く暗かったと予想されている.太陽は陽子の核融合反応によって輝いているが,そのため太陽中心部ではヘリウム核の占める割合がしだいに増え,これに伴って中心部が昇温し太陽光度も増大する.つまり過去の太陽は現在よりも暗い.

 もしも大気組成が現在と同じなら,過去の暗い太陽の下では海洋は完全に凍結していたはずである.海洋が地球のほぼ全歴史に渡って存在し続けられた理由は何なのだろうか.実は地球には,海が凍結したり逆に干上がってしまったりしないよう,温室効果ガスであるCO2の大気中の濃度が調節される仕組みがあると考えられている.それが地球化学的炭素循環である(3).

3. 大気,水循環,炭素循環

 地球化学的炭素循環の仕組みを説明しよう.まず舞台装置として海と陸があり,そこで蒸発と降雨による水循環がある.大気中のCO2は雨水に溶け込み,陸を流れ下る際に岩から溶出したカルシウムやマグネシウムイオンなどと共に海洋へ運ばれる.その結果,海洋のイオン濃度は増加しようとするが,溶解度に限りがあるために炭酸塩が海底に沈殿し堆積する.こうして大気CO2は除去される.この除去作用が一方的に働き続けた場合には,大気中のCO2濃度は低くなるが,温室効果ガスの減少は気温低下とそれに伴う水循環の減衰,ひいてはCO2除去作用の弱化をもたらす.これに対して大気へCO2を補給する過程もある.プレート運動は海洋堆積物を地球内部へ引きずりこみ,内部の高温で分解されたCO2は火山ガスとして大気にリサイクルされる.これによって大気中のCO2濃度は,長期的に見れば除去作用と供給作用がバランスし,適度な水循環のある気候を実現するレベルに保たれる. 炭素循環の模式図 田近(1998)をもとに作成

 地球化学的炭素循環による気候安定化の仕組みは,地球の海洋が40億年に渡って安定に持続できたもっとも大きな理由と考えられている(3).過去の暗い太陽の下では大気CO2濃度は高いレベルに保たれ,海洋の全凍結は起こらずにすんだ.太陽光度の増大と共に,低い大気CO2濃度でも水循環の強さを保てるようになり,その結果,地球大気は次第に現在のようなCO2に乏しい組成へと変化した.近年,地球は約7億年前に(もしかするとそれ以前にも)海洋の一時的な全球的凍結を経験したらしいことが判明してきたが,全球凍結の状態からの脱出は,火山ガスによる大気へのCO2の供給蓄積によるものであることが地質学的記録からも裏づけられている(4).

 地球と対照的に金星が厚いCO2大気に覆われているのは,金星は太陽に近いぶんより強い日射を浴び,水分が蒸発してしまい海が形成されない(5)ためだと考えられる.海が形成されなければ水循環は起こらず,地球化学的炭素循環は絶たれ大気中のCO2は除去されないことになる.火星では,逆に日射が弱く,火山活動が不活発なことも手伝って表面が冷えてしまい,水循環があまり働かずCO2大気が残されたと考えられる.

4. プレートテクトニクス,大陸,固有磁場

 地球は厚さ100キロ程度の十数枚の岩盤(プレート)に覆われおり,これらが内部変形せずに水平運動を起こすことによって,地震・火山活動に代表される地殻変動がプレートの境界に集中して生じている.これに対して金星や火星では,表面の水平運動はあまり起こっていない.火山活動や地殻変動の痕跡は豊富に残されているが,これらは金星ではランダムに分布しており,火星では特定の地域に局在している.

 地球にプレート運動があるのは,地球内部の水分に原因があるとする説が有力視されている.水分には岩石を塑性変形しやすくする効果がある.塑性変形とは外力を受けた物体が壊れることなく,もとに戻らない変形をすることをいう (変形の仕方にはこの他に外力を取り除くと元の形に戻る弾性変形,変形に物体の破壊を伴う脆性破壊がある).2枚のプレートが互いに離れて行く海嶺(海底火山の大山脈)で新たなプレートは生まれるが,このときに大部分の水分をマグマに渡して基礎部の岩石は変形しにくくなる.その結果,変形しにくい岩盤すなわちプレートが,変形しやすいより深部の岩石を覆う構造が作られ,内部変形しないプレートが深部の岩石層の上を滑るように運動することが可能になる(6).プレートは海溝から沈み込み地球内部に戻るが,その際に海水を巻き込んでマントル深部に水分を補給する.

 この説は金星にプレート運動がない理由をうまく説明することができる.灼熱の金星表面では水は凝縮できず,水分補給が絶たれたマントルはドライな状態にある.そのため金星では表層と内部で塑性変形の起こりやすさにコントラストがなく,プレートは形成されない.一方,火星は表面に氷が存在可能であり,その観点からはプレートがあってもよさそうである.しかし火星の場合にはそもそもサイズが小さいために内部が冷え切ってしまいやすく,同時に表面重力も小さいため対流運動が起こりにくいなどの要素も考えねばならない.火星は全体が一枚のプレートで覆われた惑星とみなせるのかもしれない. 
太古プレート(上)と顕生代プレート(下)の沈み込みによる
大陸地殻マグマの生成 Martin(1993)を基に作成  

 大陸地殻は地球にしかない独特の性質をもった地殻である.その組成は珪素やアルミニウム分に富む.金星や火星の地殻の大部分は,よりマグネシウム分に富み,組成は地球の海洋地殻(玄武岩からなる)に近い.

 実はこの大陸地殻の形成過程にも水が大きな役割を果たしたと考えられている(7).具体的には海底下で水質変成した海洋地殻がプレートと共に地球内部に沈み込み,熱と水分の働き(岩石の融点を下げる働きがある)によって,沈み込んだ海洋地殻自身やその上に横たわるマントルが部分的に溶けて珪素とアルミニウム分に富むマグマが生じる.これが上昇して地表付近で固結して大陸地殻を成長させる.つまりプレートテクトニクスも大陸地殻も表面に液体の水が存在する惑星だからこそ発達できたと考えられるのである.

 固有磁場の有無はプレートテクトニクスの有無と対応関係があるかもしれない.プレート運動では表面で冷やされた岩石が自重によって再び地球内部へ戻ることができるために,それがない場合に比べて効率良く惑星内部から熱を運び出している.これに対して金星や火星では表面の岩石は動きがあまりないため,あたかも鍋の蓋のような役割を果たし,熱の運び出しを鈍くしている.地球の固有磁場は内部の液体の金属核の対流が原因で生じていると考えられているが,熱源を持たない核が対流を起こすのは上部から冷えるためである.プレートテクトニクスはこの冷却の効率を高め,それによって固有磁場が維持されている可能性がある(8).

5. 水惑星仮説


 以上見てきたように,地球は表面に液体の水が存在する惑星であるがゆえに,生命に加えてプレートテクトニクスをはじめとする他の惑星にはない様々な特徴(表1)を持つに至ったと考えることができる.これをここでは水惑星仮説と呼ぼう.

 水惑星仮説は,宇宙には地球と同様な惑星が他にも高い確率で存在する可能性を示唆する.つまり惑星が地球と似た組成と同程度の質量を持つ場合,液体の水が表面に存在しさえすれば必然的に海ができ,プレートテクトニクスが働いて大陸地殻が形成され,それらを舞台装置とする地球化学炭素循環によって適度な水循環のある気候が安定に長期間続く.そして生命もそこで誕生し,固有磁場による宇宙線シールドに保護されながら進化を遂げるというわけである.

   もちろん日射が強すぎたり,反対に弱すぎた場合には液体の水は存在できなくなる.液体の水が存在できるための条件は,日射の強さをS(地球軌道上での現在の値を1とする),惑星の太陽光の反射率をAとして

0.3<(1-A)S <0.9
と定量的に見積もられている(9).ただしここでは惑星表面に十分な量のH2Oがあるものとし,温室効果気体としてCO2と水蒸気のみを考えている.反射率Aの値は地球では0.3である.これを用いて軌道範囲に換算すると,現在の太陽と同じ明るさの星の周りでは0.88〜1.5 天文単位(1天文単位=太陽地球間の距離)にある惑星が液体の水を持つことができる.金星はこの範囲(ハビタブル・ゾーンと呼ばれる)よりもやや太陽に近く,火星は外側の境界上にある.

6. 系外惑星:第二の地球の発見へ

 1995年のペガサス座51番星を皮切りに,現時点でこれまでに137の太陽以外の主系列星の周りに161個の惑星の存在が確認されている(10).これまでに見つかったこれらの系外惑星は全て木星と同程度の質量(木星の質量は地球の約300倍)を持ち,公転軌道が太陽系で言えば水星軌道の内側にあるものも多数含まれている.太陽系の姿からはかけ離れているが,これは惑星の検出が一部を除いて惑星の重力の作用による恒星の微妙な運動を捉えることに頼っているためである.すなわちより重く,より恒星の近傍を公転する惑星ほど発見されやすい.これまでに見つかった系外惑星はその質量から考えて,木星や土星のようにガスを主成分とする惑星と推測される.

 しかし今後観測技術の発展によって,数年後には地球型の惑星も発見されるようになるであろう.例えばNASAは地球型の系外惑星を発見するための宇宙望遠鏡Keplerを2007年に打ち上げる.これは観測者から見て惑星が恒星面を横切る際に,惑星の影によって恒星が見かけ上減光する様子を捉えて惑星を見つけようとするものである.実はこの手法で検出された木星型の系外惑星が少数例すでに存在し,減光の大きさから惑星の大きさが,また惑星の大気を通過した恒星の光のスペクトルから惑星大気の成分が同定された(11).

 系外惑星からの光を直接捉える努力も進んでいる.それには恒星自体の強烈な光をコロナグラフや光干渉などの方法によりマスクし,微弱な惑星からの光(可視光なら反射光,赤外線なら惑星の熱放射)のみをとりだす必要がある.米国ではTPF(Terrestrial Planet Finder),欧州ではDarwinなど,地球型の系外惑星の直接観測を宇宙空間から行う計画が,約10年後の稼動を目標に検討されている.わが国でもすばる望遠鏡をはじめとする最先端の望遠鏡と新たな光学技術の組み合わせによって,この野心的な観測の実現に向けた研究が進められている(12).成功すれば光のスペクトルを解析することによって,惑星の大気や地表面の組成を知ることができるようになる.

 地球型の系外惑星がいくつも観測されるようになれば,惑星としての地球の理解は大きく飛躍することが期待される.これまでの太陽系内で閉じた比較では,水惑星仮説は地球以外の天体が地球とは性質を異にしているという事実によって裏付けられてきたと言える.しかし地球型の系外惑星の観測では,地球と同じ性質を持つべきものが,実際にそうなっているかどうか確かめられる点が非常に重要である.

 太陽と同じスペクトルタイプG型の恒星は宇宙にありふれている.そのハビタブル・ゾーン内に地球と同程度の質量の惑星が存在する確率は,惑星形成理論からかなり高いと推定されている(13).そのような惑星に実際に海と陸はあるだろうか.そしてCO2に乏しく,生物起源の酸素などを含む大気を持つだろうか.こうした問いはこれまで確かめようなかったが,いまやそれが確かめられる一歩手前まで来ているのである.そのとき,水惑星仮説が成功するか修正を迫られるかに関わらず,われわれの地球観と生命観は大きく揺さぶられるに違いない.

参考文献
  1. 例えば B. Alberts, D. Bray, J. Lewis, M. Raff, K. Roberts, and J. D. Watson (1994) “Molecular Biology of the Cell”, 3rd Edition, Garland Publishing, New York: 邦訳 中村桂子, 藤山秋佐夫, 松原謙一 監訳 (1995), 『細胞の分子生物学』第3版, ニュートン・プレス, 東京.
  2. 例えば S. A. Wilde, J. W. Valley, W. H. Peck and C. M. Graham (2001) Evidence from detrital zircons for the existence of continental crust and oceans on the Earth 4.4 Gyr ago, Nature, 409, 175-178.
  3. 例えば 田近英一 (1998) 大気海洋系の進化, 『地球進化論』, 岩波講座地球惑星科学第13巻, 岩波書店, 303-366.
  4. P. F. Hoffman, A. J. Kaufman, G. P. Halverson, and D. P. Schrag (1998) A Neoproterozoic snowball Earth, Science, 281, 1342-1346.
  5. J. F. Kasting and O. B. Toon (1989) Climate evolution of the terrestrial planets, in “Origin and Evolution of the Planetary and Satellite Atmospheres”, S. K. Atreya, J. B. Pollack, and M. S. Matthews Eds., Univ. Arizona Press, Tucson, pp.423-449.
  6. 唐戸俊一郎 (2000) 『レオロジーと地球科学』, 東京大学出版会, 東京.
  7. H. Martin (1993) The mechanisms of petrogenesis pf the Archean continental crust ? comparison with modern processes, Lithos, 30, 373-388.
  8. D. J. Stevenson (2001) Mars' core and magnetism, Nature, 412, 214 ? 219.
  9. 阿部豊 (1993) 惑星の大気,『惑星の科学』, 清水幹夫編, 朝倉書店, 1-53.
  10. J. Schneider (1995-2005) “The Extrasolar Planets Encyclopaedia”, http://www.obspm.fr/encycl/encycl.html
  11. A. Vidal-Madjar, A. Lecavelier des Etangs, J.-M. Desert, G. Ballester, R. Ferlet, G. Hebrard and M. Mayor (2003) An extended upper atmosphere around the extrasolar planet HD209458b, Nature, 422, 143-146.
  12. 田村元秀, 中川貴雄 (2002) 第二の地球を探す, 遊・星・人 (日本惑星科学会誌), 11, 107-111.
  13. E. Kokubo and S. Ida 2002. Formation of Protoplanet Systems and Diversity of Planetary Systems. Astrophys. J. 581, 666-680


宇宙理学専攻
惑星物理学研究室
執筆者HP

2005.08.04 倉本 圭
2006.04.28 倉本 圭 微修正