有珠山2000年噴火
−噴火の特徴とツメ跡−

新井田清信(2001):有珠山噴火から一年『将来の噴火にそなえて』
 EPOCH(日本応用地質学会北海道支部だより) No.43, p.11-12

■小特集:有珠山噴火から一年
将来の噴火にそなえて

新井田 清信(北海道大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻・助教授)

(1)有珠山は「噴火予知が可能な火山である」と考える人が多い.それは,1つには,江戸時代以降くり返されてきた歴史時代の山頂・山麓噴火が,他の火山に比べて周期的であり,また,その噴火の前にはかならず火山性地震が多発するからである.有珠山2000年噴火も例外ではなかった.残雪の3月27日,噴火の前兆となる火山性地震が多発し,4日後の3月31日13時07分,有珠山西側の西山山麓で噴火が始まったのである.ちょうど前回の1977年噴火から23年後にあたる.おおかたの30年周期の活動予想がはずれ,かなり早い噴火の開始であった.しかし,1663年以降くり返し引き起こされてきた噴火の記録を見直してみると,有珠山の活動は,ほぼ『28年プラス・マイナス5年周期』になっているようだ.次の噴火も「この周期のなかで起こる」と予想される.

(2)今回の山麓噴火でも,デイサイト質マグマが活動し,1910年の山麓噴火によく似た有珠山らしい噴火記録を残して終息した.噴火のタイプや規模など,過去の噴火記録から判断される予測範囲の枠のなかの火山活動であったといえる.やはり,有珠山では『将来の噴火を予測し』『将来の噴火にそなえる』ことが可能なのである.
 有珠山の火山構造図を見ていただきたい.火砕流や火砕サージの災害範囲など『有珠山の火山災害予測』全体については,北海道防災会議や地元行政機関が新たに見直している『災害予測図』を参照していただくことにして,ここでは,噴火口や潜在ドームなど有珠山マグマの移動範囲に注目しよう.火山構造図に示された過去の記録は,次回の噴火口やドーム形成位置を雄弁に示しているのである.災害復興は,噴火前の状態に復元することではない.予想される次の噴火の際に,地元住民・観光客の『安全』が保障され(危機管理),『災害リスク』が最小限に軽減されなければならない.将来の噴火に対するそなえは,まずは,次の噴火の火口やドームができる予測範囲に『個人住宅や定住性の高い公共施設をつくらないこと』で,これが究極の近道であろう.有珠山のように,火山活動が個性的で,災害予測が可能な場合,この辺に次の噴火の『安全』と『災害リスク軽減』の大切な視点がありそうである.



(3)では,何故,有珠山では,有珠山らしい噴火と噴火災害が起こるのか? この問の答えは容易である.有珠山の歴史時代の噴火は,全てが粘性の高いデイサイト質マグマによっていて,その火山活動様式には個性があり,世界的に見てもデイサイト質マグマ活動の典型例の1つなのである.ここで,有珠山の噴火特性をまとめておこう.デイサイト質マグマが活動すると,第1に,爆発的で破壊的な噴火が起こる.山頂噴火が起こると,高度10km以上の噴煙柱が立ち上り,軽石・火山灰を遠くまで降灰させる.プリニー式と呼ばれる軽石噴火である.江戸時代の1769年・1822年・1853年噴火では,高温・高速の火砕流・火砕サージも頻発し,被害は山麓部一円に及んだ.1944年の昭和新山生成の際にも,高温火災サージの発生が記録されている.また,有珠山の場合,噴火の前に『前兆地震』を伴い,火山直下で最大マグニチュード5-6程度の激しい火山性地震が多発する.さらに地表では,大規模な地殻変動が起こり,活動期間を通じて断層群・割れ目群・地皴群の発達し,特徴的に溶岩ドームや潜在ドームができている.このように,地下で起こる火山活動も,そして地表変動も,粘性の高いマグマの活動特性によっているのである.長期に及ぶ火山活動も,特筆に値する.明治新山ができた1910年噴火のときは,7月から11月まで6ヶ月間.昭和新山は,もっと長くて1年10ヶ月(1943.12.28〜1945.9).有珠新山ができた前回の活動は4年6ヶ月もの長期に及んだ(1977.8.6〜1982.3).そして今回も,1年2ヶ月におよぶ山麓噴火であった.
 このような有珠山の特性は,粘性の低い玄武岩質マグマが活動するハワイや三宅島などとは著しく対照的であり,安山岩質マグマが活動する北海道駒ヶ岳や樽前山とも明らかに異なっている.有珠山の噴火や噴火災害を考えるとき,まず有珠山の特性に注目すべきであり,言い換えれば,火山活動のタイプや規模はそれぞれの火山で異なっているので同じ処方箋はありえない.

(4)今回の有珠山では,火砕流や火砕サージは発生しなかったものの,最初にデイサイト質マグマの噴火が起こり,その後水蒸気爆発が頻発して多数の爆裂火口ができた.新しい潜在ドームやズタズタに変動した断層地形もできた.そして地熱地帯ができて,熱泥も突沸した.さまざまな噴火のツメ跡が残された.有珠山がひとたび活動すると,山頂噴火でも山麓噴火でも,噴火のあとにかならず残されるツメ跡がある.勿論,火口周辺に厚く堆積する噴出物.その他に,1つは『山』(溶岩ドームや潜在ドーム)であり,次に『穴』(軽石噴火の火口や水蒸気爆発の爆裂火口),そして『傷』(断層・割れ目群)と『熱』(温泉や地熱地帯)である.このような噴火のツメ跡も,全てが,粘性の高い有珠山マグマの特性によっているのである.
 火山防災のそなえさえあれば,それに見合った災害軽減を実現できる.同時に,有珠山の場合,かならず残される噴火のツメ跡を考慮にいれながら「活動的火山と人間のつきあい方」を模索することが大切である.


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