2002 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2003 年 2 月 3 日

氏名 千葉 ゆきこ
論文題目 ミリ波レーダとマイクロ波放射計を用いた雲水量鉛直プロファイルの測定
論文要旨  雲粒粒径分布や雲水量といった雲の微視的パラメータを理解することは,降水形成 の理解や地球放射収支に対する雲の寄与を見積もる上で重要である.この微視的 パラメータは空間的・時間的に大きく変動するため,その正確な理解には,連続的 かつ広範囲なデータが必要となる.そのようなデータを取得する方法として,近年, ミリ波レーダ等のリモートセンシングを用いた観測が注目されている.
 本研究は,様々なパラメータの中でも,雲水量の鉛直プロファイルの測定に着目 した.このパラメータの測定方法としては,Z-LWC 関係やドップラースペクトルを 利用する方法,ミリ波レーダとマイクロ波放射計を組み合わせた方法などが開発さ れている.本研究では,近年様々な研究で引用の多い,Frisch et al.(1998)に よって開発された,ミリ波レーダとマイクロ波放射計を用いた方法を採用した.
ところで,Frisch et al.(1998)のアルゴリズムでは,粒径分布の3次のモーメント の二乗が6次のモーメントに比例するという仮定と,数濃度が高度に対して一定で あるという仮定がなされている.しかしながら,このような仮定が実際の雲に対し て妥当であるかどうか,Frisch et al.(1998)では十分な検証が行われていない.
 そこで本研究では,過去の論文から集めた最大半径100μm未満の粒径分布データ をもとに,粒径分布の3次と6次のモーメントに関する仮定について検証を行った. データセットの最大半径のレンジを変えながら比例関係を調べたところ,ある程度 粒径が大きくなると,この仮定が成り立たなくなることが明らかになった.本研究 では,データの誤差範囲から判断して,この仮定が成り立つ範囲を最大半径25μm 未満とした.さらに,粒径分布の詳細な検証により,この関係は粒径分布の分布幅 と密接に関係していることもわかった.また,アルゴリズムが適用できる範囲を実 際の観測から判断するために,粒径分布データからレーダ反射因子の頻度分布を計 算したところ,−15dBZ以下が最大半径25μm未満と対応することがわかった.
 本研究では,以上のような検証を行うと同時に,このアルゴリズムを実際の観測 に適用した.観測は,梅雨期の層状性雲をターゲットに2001年6月12日〜7月8日の 期間,茨城県つくば市の防災科学技術研究所構内において行われた.今回の観測で は,リトリーバル結果を航空機によるその場観測と比較することができなかったが, 過去の論文で見られる大陸性の層状雲のプロファイルと比較して妥当な数値であった.
 さらに,Z-LWC関係を用いたリトリーバル法と比較して,Frisch et al.(1998)の リトリーバル法は誤差の要因が少なく,雲の発達初期における雲水量の鉛直プロファ イルの測定方法として有効であることが示された.