2002 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2003 年 2 月 3 日

氏名 江草 匡倫
論文題目 西南北海道、羊蹄火山の火山地質学的・岩石学的研究 〜羊蹄火山の山体形成史とマグマの変遷〜
論文要旨 羊蹄火山は西南北海道火山地域(Nakagawa et al., 1994)に位置する標高1898mの第四 紀の成層火山である.本火山地域は東北日本弧の最北部であり,東北日本弧と千島弧 との会合部にあたる.本火山噴出物の化学組成は,周辺火山の噴出物とともに組成広 域変化の中で特異な値を示すことが明らかになっている(Katsui, et al., 1978, Nakagawa, 1992).この局地的特異性がいかなる要因で発生しているのかを解明する ためには,その特異性の最も著しい羊蹄火山の詳細な活動史を明らかにし,羊蹄火山 の活動をもたらしたマグマの変遷を調べる必要がある.
また,本火山の活動は山麓テフラの放射年代測定から,少なくとも約6000年前までは 続いていたことが明らかになっている(宇野,1989).この為,2003年に気象庁の活 火山の定義が「過去2千年以内に噴火した火山と現在噴気活動がある火山」から「過 去1万年の噴火の有無」に改正されたのに伴い,新たに活火山に指定された(気象庁, 2003).このことをふまえ,火山防災上も本火山の活動史を詳細に解明することは重 要である.
本火山においてはこれまで山体地形(守屋,1983;五味,1997),山体地質(勝井, 1956;土居他,1956;今野,1985:藤田,1992)及び山麓テフラ(佐々木他,1971; 柏原他,1976:大貫他,1976:宇野,1988)の研究がそれぞれなされている.しかし 山体と山麓テフラの対比がなされていないことから,時間軸の入った山体形成史が編 まれていなかった.
本研究においては,山体及び山麓テフラの詳細な地質学的調査を行い,両者を岩石学 的手法を用いて対比することにより,より詳細な山体形成史を再編した. 羊蹄火山の山体はほぼ円錐状の形状を示し,山頂火口西部の馬蹄形地形,その周辺か ら流下した山体西方の新鮮な溶岩流地形,山体北・東・南側の開析の進んだ地形,西 麓に分布する多数の流れ山地形と,その形成史が複雑であったことを示唆する地形的 特徴を示す.
その活動は地質学的・岩石学的に先羊蹄火山の活動期,旧期,新期,北山期に分類す ることができる.
先羊蹄火山は,山体西麓に分布する岩屑なだれ堆積物をもたらした給源山体として藤 田(1992)により推定されたもので,本研究によりその存在がいっそう確実になった山 体である.その活動期(〜45ka)には,玄武岩質安山岩〜安山岩マグマを噴出し,標 高1000〜1700mの山体を形成した後,大規模な山体崩壊を起こしたと考えられる. 旧期(45ka〜15ka)は,旧期Tタイプの玄武岩質安山岩〜デイサイトマグマの噴出に より,先羊蹄火山を完全に被覆し現山体表層の大部分を形成した活動期である.この 活動期には複数の溶岩流を流下するとともに,爆発的な噴火を繰り返し山麓にYo.Ps- 1,2,3など多大な降下火砕物をもたらした.また,旧期の最末期には,現山頂東部付 近を火口中心として火口周辺に旧期Uタイプの安山岩マグマが薄い溶岩流及びアグル チネートとして噴出した.旧期においては山体西方において複数の側火口からの旧期 Tタイプのデイサイトマグマの活動が認められる.これらの活動により山麓には溶岩 円頂丘が形成され,山腹の側火口からは溶岩流が流下した.
新期(15ka〜8ka)には,新期Tタイプの玄武岩質安山岩マグマが現山頂部付近で活 動をはじめ,山体西方及び北東方向に溶岩流を流下した.その後活動中心は現山頂火 口西部馬蹄形火口に移動し,引き続き山体西部に溶岩流を流下させた.新期後期には 新期Tタイプマグマの活動と平行して新期Uタイプの玄武岩質安山岩マグマ活動し, 西方山腹から溶岩流を流すとともに,山頂部においては小規模なブルカノ式噴火を繰 り返して火口内を埋めて火砕丘を形成した.
北山期(8ka〜4ka)は活動中心を山頂北西部北山火口周辺に移し,安山岩質溶岩流を 山体北西に流下させるとともに,火口周辺に火砕丘を形成した活動期である.北山期 には山体北麓における側火口の活動により,複数の火砕丘が形成された.