2002 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2003 年 2 月 3 日

氏名 道政 広一
論文題目 北海道、豊羽鉱床南東部の鉱化作用の時空変化
論文要旨  豊羽鉱山は、札幌市の西南約30 kmに位置しAg‐Pb‐Znを主要に産する日本最大級 の浅熱水性鉱脈型鉱床である。開発の進行に伴い、Sn,W,Co,Bi,In,As,Sbなど の産出が明らかになり、最近では錫‐多金属鉱床(Tin‐polymetallic deposit )と 分類されている。特に鉱石中に高濃度で含まれるInに関しては、世界最大の鉱床と言 われている。
 豊羽鉱山の鉱化作用はT期からZ期までの鉱化ステージに分けられ、前期鉱化作用 はT期〜U期、後期鉱化作用早期はV期〜W期、晩期はX期〜Z期にあたる。  豊羽鉱山では、鉱化帯南東部に位置する信濃ヒを中心に現在も稼行中で、探査・採 掘の中心が信濃ヒの下部および東部に向けられている。従って、鉱化帯南東部におけ る研究も精力的になされており、これまでに数多くの報告がある。それらによると、 鉱床を形成した初生の熱水は信濃ヒ近傍から上昇し、地下浅所で地熱水と混合しなが ら、冷却・希釈作用を受けて徐々に鉱物を沈殿しつつ、さらに北部や西部に広がって いったと考えられている。
 本研究では、信濃ヒとその西方延長上にある出雲ヒ、石見ヒの坑内とボーリング からの採取試料、及び平成13年度精密地質構造調査で行われたボーリングからの取得 試料を基に、肉眼・鏡下観察、及び各種室内実験(EDS、EPMA分析、流体包有物 等) を実施し、特に豊羽鉱山南東部鉱化帯における後期鉱化作用の特性とその時空変化を 明らかにする事を目的に行った。特に、信濃ヒ東部から石見ヒにおける−300ML〜− 400MLの浅所レベルでの鉱化作用の水平変化を重視した検討を行った。
 その結果、本研究を実施した石見ヒではT期,V〜X期、出雲ヒではW,X期、信 濃ヒではV〜Z期、信濃ヒ東部の13MAHJ‐1ではV〜X期、13MAHJ‐2ではT〜Z期の 鉱化ステージの存在がそれぞれが認められた。
 それぞれの検討試料において、各ステージを構成する鉱石鉱物組み合わせには特徴 があり、特にW期では共通して、信濃ヒ下部における特徴的な多金属型鉱化作用と酷 似する鉱物組み合わせが認められた.
 流体包有物のmicrogeothermometryデータから、石見ヒでは均質化温度が平均250℃, 塩濃度が平均2.8 wt.%、信濃ヒでは下部(−400〜−600mL)で251℃,3.0wt.%、上部 (−400mL以浅)で201℃,1.9wt.%、信濃ヒ東部のボーリング試料(−300mL相当)の 13MAHJ‐1で200℃,2.5 wt.%、13MAHJ‐2で200℃,2.5 wt.% となった。この結果、 熱水の上昇中心は必ずしもこれまで推定されて来た信濃ヒ南東部のみならず、少なく とも石見ヒ付近を始めとし複数存在した可能性が強く示唆される。
 検討試料における各種鉱石鉱物(sphalerite, arsenopyraite, tetrahedoriteetc.) のEPMA定量分析の結果と、それらを基に推定された物理化学的生成条件変化を 考え合わせると、次の様に考えられる。豊羽鉱山南東域鉱化帯で生じた上昇熱水は、 時間の経過と共に次第に活発化し、W期では最も多金属に富みそれらを輸送してきた と考えられる。それら上昇熱水は、地下浅所で既存の貯留地熱水と混合・希釈を生じ て各種鉱石鉱物を沈殿させながら、西方〜北方へ移動する過程で熱水の性状も次第に 変化して行ったことが推定された。