2002 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2003 年 2 月 3 日

氏名 永井 啓資
論文題目 フランス南東部の無酸素事変 (OAE1b) 相当層における石灰質ナノ化 石群集の層準変化
論文要旨  白亜紀中頃 (125-80 Ma) は,始新世前・中期 (55-45 Ma) と共に地球史の中で最 も温暖だった時期として知られている.白亜紀中期には,地球規模で様々な現象が起 きている.まず,海水温が現在よりも平均13℃高く,深層水の温度も15-20℃と高かっ た.赤道域と極地の間の温度勾配が減少し,極域では氷冠が消滅,海水準が上昇し浅 海域が拡がった.海洋底拡大の速度が上昇したこと,正磁極期が連続的に約四千万年 継続したことなども挙げられる.また,この白亜紀中頃には海底無酸素事変 (Oceanic Anoxic Event : OAE) が起こっている.この事件は深層水が無酸素状態に なり,有機物を多量に含む黒色頁岩が広範囲に堆積した事件である.本研究の目的は, 石灰質ナノ化石群集の層準変化を明らかにし,OAE時に堆積した黒色頁岩層の堆積環 境を解析することである.
 OAEsは主として5回起きており,Aptian初期に起きたOAEはOAE1a,Albian初期のも のはOAE1bと呼ばれている.本研究では,フランス南東部Vocontian堆積盆地の陸上露 頭より採取されたOAE1b相当層であるPaquier層準の連続試料について,1cm間隔の高 分解能解析を行い,石灰質ナノ化石群集と絶対頻度を明らかにした.
 Paquier層準ではラミナが発達しているが,このラミナの発達とNannoconas spp.の 相対頻度がよく一致していることが明らかになっている.さらに Nannoconus spp.は 低緯度の大陸棚に生息していたといわれており(e.g., Roth and Krumbach, 1986; Street and Bown, 2000),このことからNannoconus spp.はラミナの形成との間に深 い関係を持っており,ラミナの発達した層準は大陸棚で堆積したということができる. また,Herrle (2002)によって公表された式を用いて,栄養塩と海水温の変動を定量 的に表すNutrient Index (NI)とTemperature Index (TI)を算出した.NIはコッコリ スの直径が3μm以下であるsmall nannolithsの相対頻度との間に非常によい相関をもっ ており,このことからsmall nannoliths は新第三紀及び第四紀だけではなく,白亜 紀においても栄養塩の指標として用いることができると考えられる.OAE1b時には海 洋表層の栄養塩レベルが周期的に変動しており,海水温は基本的に温暖であったが, 急激な寒冷化が4回起こったことが明らかとなっている.さらに, OAE1b時に陸から 海洋へ,砕屑性有機物が流入した可能性がある.
 以上のように,OAE1b時に海洋では,様々な環境変動が起きていたと考えられ, OAE1bは様々な環境要因が複雑に絡み合って起きたと考えることができる.