近年,情報処理技術のめざましい発達により,デジタルの地理情報を扱う地理情報シス
テム(GIS)の普及が進んでいる. GIS(Geographical Information System)は図形情報の
上にその属性情報を複数重ね,これらを複合的に解析することができるシステムであり
,現在は主に各種環境マップ・ハザードマップや都市計画に用いられている.本研究で
はGISソフトウェアとして,オープンソースGISであるGRASSを用いて解析を行った.
本研究の目的は,GISを用いてオホーツク海南西部のデータを解析し,その堆積環境を
解明することである.オホーツク海は結氷海域の南限であり,地球規模の環境変動の影
響を強く受けるといわれている.そのため,本海域の堆積環境の解明は環境変動解析の
見地から重要である.本研究では,日本海洋データセンター(JODC)によって集積された
オホーツク海南西部の海流データと水深データ,およびオホーツクGH00〜GH01航海にお
いて得られた海底表層堆積物の粒度組成分析データ (田辺, 私信),XRD分析による鉱物
cps強度データ (田辺 2002, 北海道大学修士論文) を用いて解析を行った.
本研究では海流による粒子の運搬に着目した.運搬の基本要因を,1)浮流による運搬,
2)沈降中の運搬, 3)着底後の運搬(エントレインメント)の3つと考えた.さらに表層か
ら底層までの海流を一つの流れと仮定し,任意の粒径の粒子を想定して運搬の可能性を
検討した.海流データから流線を計算し,運搬限界速度と海流の流速の関係から運搬経
路の追跡を行った.
また,粒度のピーク位置に着目してデータを分類し,これを地形的分布と併せて再分類
して任意の粒度ピーク成分についてそれぞれ運搬機構を考察した.鉱物組成データと粒
度ピーク位置によるデータ分類も行い,粒度成分の主要鉱物を推定した.
以上のような解析から,オホーツク海南西部の堆積環境について次のような結論を得た.
・北海道沿岸域
粒径 200μm 以上の粗粒な粒子に富み,粒径 50μm 以下の粒子に乏しい.細粒砂成分
はこの海域を流れる宗谷暖流によって運搬され,堆積したものと考えられる.宗谷暖流
の流速は比較的速いため,シルトサイズ以下の粒子は堆積を阻害されていると考えられ
る.
・沖合-大陸棚域
粒径 20〜50μm の粒子に富み,粒径 200μm 程度の成分を含む.シルトサイズの粒子
は,海流によって運搬され堆積したものと考えられる.
・北見大和堆域
粒径 20μm 以下の粒子に富む一方,粒径 400〜800μm の成分にも富む.シルト成分は
海流によって運搬され,堆積したものと考えられる.
・大陸斜面-海盆域
粒径 20〜50μm の粒子に富み,粒径 100μm 以上の成分が見られることはまれである
.シルトサイズ以下の成分は海流によって運搬され堆積したものと考えられる.またこ
の海域には大規模な環流が存在し,粒子の滞留時間が長くなるため細粒な粒子が特に卓
越していると考えられる.
・鉱物と粒度成分
粒径 20μm 以下の細粒な成分は,主にクロライトであると考えられる.粒径 20μm の
成分は主にイライト,粒径 100μm 前後の成分は主に長石であると考えられる.石英は
粗粒な粒度成分の存在と関係する.
シルトサイズ以下の成分は,海流によって浮流として運搬され堆積することがわかった
.しかし砂粒子の運搬については説明できないことが多かった.その主な原因として,
計算に用いた海流の精度が不十分だった可能性が考えられる.
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