2002 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2003 年 2 月 3 日

氏名 新妻 宏泰
論文題目 秩序-無秩序転移をおこす酸化鉱物固溶体の相関係とその熱力学的考察
論文要旨  秩序-無秩序転移をおこす2成分系であるMgSb2O6-TiO2系と,MgTiO3-Al2O3系につい て合成実験をおこなった.MgSb2O6-TiO2系については,合成実験の結果から自由エネ ルギー変化の予測を試みた.

 MgSb2O6(bystromite 3重ルチル構造)を,大気雰囲気中,1050℃から1400℃の条件 で合成した.回収したMgSb2O6相における特定のピーク強度の変化から秩序度Q (0=  MgSb2O6-TiO2系の実験は,大気雰囲気中,1100から1350℃の条件でおこなった.実 験温度領域では,TiO2成分を固溶した3重ルチル相(MSss)と,MgSb2O6成分を固溶した ルチル相(Rss)ならびにこれら2相からなる2相領域が存在した.1100℃においてTiO2 成分はMSss相に44%固溶し,Rss相にはMgSb2O6成分が15%ほど固溶していることが格 子定数(a軸)の変化と,EDSによる組成分析結果から明らかになった.両相とも,より 高温条件で合成した試料ほどMgSb2O6成分に富む組成に変化した.

 MgSb2O6とMgSb2O6-TiO2系の実験結果から,これらの系の熱力学的モデルを作成 し,そのモデルを用いてMgSb2O6相とMgSb2O6-TiO2系の自由エネルギー変化を予測す ることを試みた.過剰自由エネルギーをあらわすためには,Margules展開を用いた. 計算の結果から,MgSb2O6相の秩序-無秩序転移は約2700℃でおこることが明らかに なった,転移点付近における秩序度の変化が連続的であったことから,MgSb2O6相の 秩序-無秩序転移は2次転移であると考えられた.

 MgTiO3-Al2O3系は,100MPa,600℃の条件で水熱合成実験をおこなった.各試料の 生成相を同定したところ,MgTiO3(geikielite),MgAl2O4(spinel), Al2O3(corundum),TiO2(rutile)相などが生成していた.試料間の比較から,反応は 平衡に達していないことがわかった.また,MgTiO3相に対するAl2O3成分の固溶量な らびにAl2O3相に対するMgTiO3成分の固溶量がとても少なかったため,MgSb2O6-TiO2 系と同様のモデルを用いて自由エネルギー変化を予測することはできなかった.

 本研究において作成した秩序-無秩序転移をおこす2成分系の熱力学モデルは,モデ ルを作成するときに用いたMgSb2O6-TiO2系に特有の因子が含まれていないため, MgSb2O6-TiO2系のように充分な固溶量がある系であれば実験によって確認することが 困難な低温あるいは超高温条件下における相関係を予測することが可能であると考え られる.