2002 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2003 年 2 月 3 日

氏名 野田 和宏
論文題目 準実スケール実験によるエアロゾル粒径分布と雲粒粒径分布の関係
論文要旨  人為起源エアロゾルは広範囲にわたって多量に放出されており,直接・間接的にも たらされる冷却効果は温室効果ガスによる温室効果とともに気候変動を考えるうえで 重要である.エアロゾルの核化によって形成される雲粒は,雲が放射収支に与える影 響を評価するうえで重要なパラメータであるアルベドや雲の寿命と関係がある.しか しながらエアロゾルが雲粒に与える影響はいまだに理解されていない点も多い.
 そこで岩手県釜石市の鉱山内にある立坑を用いて準実スケールの雲物理実験を行 い,エアロゾルの数濃度および粒径分布が雲粒の数濃度および粒径分布に与える影響 を調べた.立坑内に上昇流を発生させ,バックグラウンド時と硫酸アンモニウムエア ロゾル発生時に,立坑下部において立坑に流入する空気中のエアロゾルの測定および 捕集を,立坑上部において形成された雲粒の測定をそれぞれ行った.硫酸アンモニウ ムエアロゾルは水溶液を噴霧することによって発生させた.またすべての実験は上昇 流速一定のもとで行われた.
 エアロゾルを発生させた3ケースについて,エアロゾルの数濃度および粒径分布と 雲粒の数濃度および粒径分布が比較された.相対的に大きなエアロゾルが多く数濃度 が高かったケースほど,雲粒の最大粒径が小さく,雲粒粒径分布の幅が狭く,全体と して雲粒数濃度が高かった.今回の実験では,雲粒の多くはすべてのケースを通じて 粒径 40 μm 以下であったことから,雲粒同士の衝突併合による雲粒数の減少は起き ていないと考えられた.そこで,エアロゾル積算粒径分布からケーラー曲線を用いて 再現されたCCNスペクトルと測定された雲粒数濃度を対応させることによって最大過 飽和度が推定された.その結果,低過飽和度で活性化するエアロゾル数が多いケース ほど,最大過飽和度の値が低く抑えられていたことがわかった.以上のことから雲粒 粒径分布および最大過飽和度はエアロゾル粒径分布から影響を受けていることがわ かった.
 CCNスペクトルは N=CS^k という式の形に近似されることがある.ここで C は1 % の過飽和度で活性化するエアロゾル数濃度, k はスペクトルの傾きをそれぞれ表し ている.これら2つのパラメータを用いると生成される雲粒数濃度(CD)を推定する ことができる.2つのCCNスペクトル(C_1,k_1),(C_2,k_2)を考えると, (C_1,CD_1),(C_2,CD_2)が求まる.CとCDの関係を表すグラフ上にこの2点をプ ロットしたとき,エアロゾルの増加に対する雲粒の増加はその2点を結ぶ直線の傾き で表現できる.そこでこの傾きについて調べることによって,CCNスペクトル形状と 関係があるエアロゾル粒径分布が雲粒数濃度にどのような影響をもたらすかを検証し た.
 その結果,もとの粒径分布に対して低い過飽和度で活性化するエアロゾル数濃度が 増加する場合は必ず雲粒数濃度が増加することや,逆に,高い過飽和度で活性化する エアロゾル数濃度の増加は雲粒の減少をもたらす可能性があること,粒径分布形状が あまり変わらないままエアロゾル数濃度が増加するときある程度以上になるとエアロ ゾルが増えても雲粒はあまり増えなくなること,そしてエアロゾル数濃度が高いとき ほど粒径分布形状が雲粒数濃度に与える影響が大きいことがわかった.