近年の高赤方偏移の観測は、宇宙初期にもダストが存在すること
を示唆する。ダストは星の光を吸収し、またそれによって得たエネ
ルギーを熱輻射として放出するので、高赤方偏移でのダストの存在
は、観測結果から宇宙初期における星形成率を推定する際に決定的
な影響を及ぼす。ダストによる光の吸収量はその種類やサイズ、量
に大きく依存する。しかしながら、これまでの研究では、宇宙初期
におけるダストの種類やサイズ、量はパラメータとしてしか取り扱
われていない。宇宙初期におけるダストの形成場所として考えられ
るのは、星の寿命のタイムスケールから、大質量星の進化の結果と
して起こる超新星爆発によって放出されたガス中に限定される。
従って本研究では、宇宙初期の超新星爆発時に形成されるダスト
の種類やサイズ、量を明らかにするために、様々な前駆星の質量を
もつ超新星爆発のモデルに基づいてダスト形成の計算を実行した。
計算に考慮した超新星爆発のモデルは、前駆星の質量が太陽の8倍
からおよそ45倍の星の進化の結果として起こるcore collapse
supernovaeと、近年の理論的研究により、宇宙の第一世代の天体と
してその存在が示唆されている太陽の質量の140倍から260倍の大質
量星に対して期待されるpair instability supernovaeを採用して
いる。ダスト形成の計算は、CO、SiO分子の形成を考慮し、非定常
均質核形成成長理論を用いて取り扱った。形成されるダストの種類
に最も影響を及ぼす放出されたガス中での元素の混合については、
爆発後も混合が全く起こっていないものと、ヘリウムコアで均一に
混合させたものの2つの極限的な場合を取り扱った。また、形成さ
れるダストのサイズに大きな影響を与えるガスの温度の時間変化に
ついては、放射性元素の崩壊によるガスの加熱を考慮した輻射輸送
計算を実行することにより評価した。
本研究のダスト形成の計算結果は以下のようにまとめられる。宇
宙初期の超新星爆発時におけるダストの形成は普遍的であり、ダス
トが形成される時期は、一般に爆発後1年から2年の間である。爆
発によって放出されたガス中において元素の混合が起こっていなけ
れば、ガス中での各場所の元素組成に応じて様々なダスト種が形成
される。一方、均一に混合させた場合では、全体にわたって酸化的
な環境となるため、形成されるダスト種は何種類かの酸化物に限定
される。形成されるダストの典型的なサイズは、前駆星の質量や混
合の有無によってほとんど変化せず、基本的に1ミクロンを越える
大きいダストは形成されない。ダストのサイズ分布に関しては、ど
ちらの混合の場合でも全てのダストのサイズ分布を足し合わせたも
のは、大きいサイズのものでは-3.5の、小さいサイズのものでは-2
.5の指数をもつ冪乗分布となる。また形成されるダストの質量は、
前駆星の質量の増加とともに大きくなり、均一に混合させた方がよ
り多くの酸素をダスト内に取り込むため、混合がないときよりも多
くなる。太陽の8倍から45倍の質量をもつ前駆星がcore collapse
supernovaeとして爆発すると、その質量のおよそ2%から5%のダスト
が形成される。それに対して、太陽の質量の140倍から260倍の大質
量星がpair instability supernovaeとして爆発すると、その質量
の20%から30%ものダストを星間空間に放出する。従って、もし宇宙
初期にこのような大質量星が形成され、爆発していたとすれば、宇
宙初期には非常に大量のダストが存在していたことになる。
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