2002 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2003 年 2 月 3 日

氏名 小川 久征
論文題目 MgSiO3ペロブスカイトへのFe固溶量に対するAl成分の影響
論文要旨 地球下部マントルを構成する鉱物は,主に(Mg, Fe)SiO3ペロブスカイト, (Mg, Fe)Oマグネシオウスタイト,CaSiO3ペロブスカイトの3相であるとさ れている.なかでも,(Mg, Fe)SiO3ペロブスカイトは地球下部マントルの 約7割の体積を占め,その物性は地球全体の物性にも大きく影響するものと 考えられる.(Mg, Fe)SiO3ペロブスカイトに関する研究は以前より行なわ れているが,特に,下部マントル条件下での(Mg, Fe)SiO3ペロブスカイト とマグネシオウスタイトとの間でのFe分配量が注目されている.今回の研 究では,(Mg, Fe)SiO3ペロブスカイトのFe固溶量を左右する要因として, 温度圧力に加えて他の成分,Al2O3成分を考えた.地球下部マントルの平均 組成とされるパイロライト組成には,3%程度のAl2O3を含まれるが,その 固溶による下部マントル構成鉱物への影響は未だに良くわかっていない. そこで,(Mg, Fe)SiO3ペロブスカイトが,Al2O3成分の固溶量によってどの ような影響を受けるのかを調べることを目的とし,実験を行なった.下部 マントルと同様の温度および圧力(35GPa,1800K程度)は,YLFレーザー加 熱式ダイヤモンドアンビルセル装置を用いて発生させた.出発物質には, ゾル―ゲル法を用いて合成した珪酸塩の多成分酸化物試料を用いた.出発 物質の組成は,(Mg0.8Fe0.2)SiO3を基準とし,Al2O3成分を5%,25%,50% それぞれ加えたものと,Al2O3成分を含まないもので合計4種類用意した.実 験前に酸素雰囲気をコントロールすることによって,出発物質中のFeは2価 にした.高温高圧実験によって生成した相は,高エネルギー研放射光実験施 設においてX線回折実験を行い,同定を行なった.Al2O3を含まないものと5 %含む出発物質を用いたサンプルの場合では,生成した相はMgSiO3ペロブス カイト,マグネシオウスタイト,スティショバイトの3相であった.Al2O3を 25%および50%含む出発物質を用いた場合は,MgSiO3ペロブスカイト,マグ ネシオウスタイト,スティショバイトに加えてコランダムが観察された.また,高 温高圧で合成したサンプルに対し,分析透過電子顕微鏡を用いて観察・組 成分析を行なった.その結果,コランダム以外でAl2O3成分を固溶するのは MgSiO3ペロブスカイトのみであり,その限界固溶量は12.5%程度であった. また,MgSiO3ペロブスカイトは,Al2O3固溶量が増えるにつれてFe固溶量も 増加していた.透過電子顕微鏡観察においてMgSiO3近傍に金属Feが観察され た.サンプル全体の電荷を保つには3価のFeが存在しなければならない.よっ てAlとFeが共存する場合,MgSiO3に対する置換は,Mg + Si ⇔ Fe + Alとい う形で起こっているものと考えられる.