2002 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2003 年 2 月 3 日

氏名 奥 朋之
論文題目 カスプ粒子加速過程の推定
論文要旨 カスプ(cusp)領域は磁気圏の中でも最も長い歴史を持つ領域の一つであり、 Chapman and Ferraro[1931]以来過去70年以上にもの長い間研究されてきた。しかし、実際に 磁気圏の諸領域、特にカスプ領域など磁気圏の高高度領域が直接観測されるようになったのは この数十年間だけであり、その観測結果から多くの現象が発見、議論されてきたが未だ十分な説明が なされてきたとは言い難いものとなっている。特にカスプ領域で発見された加速された イオン[e.g. Hill and Reiff, 1977]の進入に関しては、その加速領域がどこにあり、何によって 加速されるのか解明されていない。
現在のところ、この解明にあたって二つの手法で研究が行われてた。一つは磁気圏境界域 (magnetosheath)、ノーズ(nose)、カスプ領域の同時観測という手法である。この観測はISEE-1、2などに よって実施されてきたが、その環境が刻々と変わる磁気圏での同時観測は非常に難しく、十分な結論を 得られたとは言い難い[e.g. Cowley, 1982]。もう一つの手法は実際にカスプで多数観測されている 加速された太陽風からの加速領域の推定である。過去この推定方法は観測された太陽風の速度差のみから 単純に概算されたものであり、観測できる太陽風粒子が一部の粒子であるという現実を鑑みたとき、 適切な解析方法だとは言い難いものとなっている。
そこで、本論文ではあけぼの衛星(EXOS-D)の低エネルギー観測器(LEP)がカスプ領域で観測した太陽風 イオンに対して独自に考案した解析手法を適用し、カスプ領域へと侵入してくる太陽風起源イオンの 加速領域と加速領域での温度、バルク速度、密度を推定した。加速領域でマクスウェル分布を 構成しているとの仮定から、エネルギーの保存則、磁気モーメントの保存則より導かれた方程式に 最小二乗法を用いた推定方法であり、非常に簡便なものとなっている。
推定されたこれらの諸量をIMP衛星によって得られた惑星間空間磁場の各成分とその大きさ、太陽風の速度、 密度と比較したとき、推定された加速領域でのバルク速度と太陽風の速度の間に非常に良い相関が見られた。 特に各々の太陽風の速度に対応する推定速度の下限は、磁気圏境界域におけるSpreiter and Stahara[1980]の シミュレーション結果における外部カスプ領域の速度と一致した。さらに、この推定速度に対して推定された 加速領域と観測領域の磁場の比を調べてみると、磁気圏境界面上が加速領域であると推定されるときには、 太陽風の速度より低い推定速度となった。また、太陽風の速度と推定速度の差をIMFの関係をみると、 IMFが北向きの時には太陽風の速度より小さい推定速度となり、太陽風の速度より大きい推定速度の際には IMFが南向きとなっていた。
これらの特徴は本研究で観測されたカスプ領域の緯度方向の変遷をカスプ領域への太陽風起源粒子が 侵入する有効断面積の変化だと考えたときに、Yamauchi and Lundin[1994]のラバルノズル効果 (Laval Nozzle Effect)を適用することで、定性的に矛盾なく説明できることが分かった。本論文の解析結果の 特徴は、磁力線再結合による加速過程を否定するものではなかったが、カスプ領域内での加速という 磁力線再結合による加速過程では、現在まで報告がなされていない過程が必要となり、本論文では ラバルノズル効果によるカスプ粒子加速過程を推定した。