氏名 |
齋藤 裕之 |
論文題目 |
南海トラフODP Leg 190 からえた堆積物中の脂質 〜海底下微生物圏のバクテリアバイオマーカー〜 |
論文要旨 |
近年、地下数kmの深さまで微生物がいることが推測されているが、現在のところ地
下に存在するバイオマスを見積もる指標として確実といえるものはない。本研究で
は、国際深海掘削計画Leg190において、四国沖南海トラフで採取された海底堆積物試
料から、その場で生きているバクテリア(真正細菌)の存在の定量的な見積もりを得
るために、効果的なバイオマーカー分析方法を開発、検討した。また、南海トラフ付
加体において反射法地震探査により推測される大規模なガスハイドレートの形成メカ
ニズムについて、各種バイオマーカーの比較から考察した。
バクテリアバイオマーカーであるジプロプテンとホパンポリオールに着目した。ジプ
ロプテンは2重結合を1つもち、初期続成作用によってその位置が転位していく。ヒド
ロキシル基を数個もつホパンポリオールは、細菌の死滅後,すぐに脱水反応や酸化に
よってヒドロキシル基を失いやすいと考えられる。よって、これらを深い深度で見つ
けられれば現地性のバクテリアに由来する可能性が高い。
分析の結果ジプロプテンはSite1175、1176では深度約100m程度まで有意に検出される
ことがわかった。これがその場で生息するバクテリアの脂質に由来するのか、かつて
堆積した生物遺骸に由来するのかは今後検討の必要がある。しかし、Site1176の
30m、Site1178の150mにおいて、ジプロプテン、21-ホペンの増加とともに炭素同位体
比が10‰程度軽くなっている。よって、その場で生息する同位体的に軽いメタン代謝
細菌が寄与していると考えられる。ホパンポリオールは検出されなかったが、その続
成生成物であるホパノール、ホパン酸は検出された。これらと顕微鏡下で数えられた
バクテリア数を比較したところ、Site1178のホパノールでよい相関が認められた。こ
のコアは陸源堆積物有機物の寄与が大きく、ホパノール以外の脂質の深度分布はほぼ
同様である。したがって、このコアでのホパノールは、現地性のバクテリアに由来し
ている可能性がある。
ガスハイドレートが存在すると推測される場所での最大の特徴は、陸源有機物が多量
にあることと考えられる。陸上高等植物に由来するV型ケロジェンは、初期続成作用
で二酸化炭素を放出する。この二酸化炭素を基質として利用するメタン生成期が繁殖
してメタンを生成し、ガスハイドレートの形成に寄与していることが予想される。ガ
スハイドレートの形成は従来,圧力と温度に基づいた相平衡によって説明されてきた
が,メタンの起源となる二酸化炭素の地下での生成とも密接に関係していることが示
唆された.
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