2003 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2003 年 2 月 3 日

氏名 田中 伸
論文題目 Alfven 波の存在による一流体太陽風モデルの解の変化
論文要旨  太陽を取り巻くコロナ大気はその高い温度のために膨張し, 「太陽風」と呼ばれる,惑星間空間を吹き抜ける超音速のプラ ズマ流を形成している.太陽風は Parker (1958) によって初め て理論的予言がなされ,ロケット観測などによってその存在が 実証された.
 その後多くの研究者は,ある高度から球対称に放出されるコ ロナガスを想定し,動径方向,すなわちガスの流出する方向に関す るエネルギー輸送が熱伝導とガスの質量輸送によっておこなわれ ると仮定した一次元太陽風モデル(熱伝導モデル)を考案した. 熱伝導モデルではコロナ底部における熱伝導フラックスおよび 質量フラックスがモデルの性質を決定する重要な量であり,これ らの量はコロナ底部での太陽風の温度 T0, 密度 n0 によって表 される.したがってさまざまな n0, T0 の値に対する太陽風モデ ルの解のふるまいを調べることにより,モデルの詳細な性質を理 解することができる.
 一方,熱伝導モデルから計算される太陽風の速度は実測値より も低いという難点があったが,Alazraki and Couterier (1971) と Belcher (1971) は,太陽磁場を伝播する Alfven 波の存在を 仮定すると,磁気圧によって太陽風がより高速に加速され得るこ とをモデル計算によって確かめた. Alfven 波による太陽風の加 速は太陽のコロナホールから吹き出す高速太陽風の加速機構を説 明する上で有力な考えの一つである.
 そこで本研究では太陽磁場を伝播する Alfven 波の存在を仮定 した 球対称な 1 流体太陽風モデルの解の性質,特にコロナ底部 における太陽風の温度 T0, 数密度 n0 の種々の値に対する解のふ るまいを理解するため,地球軌道における速度,温度,数密度を一定 にした等値線を T0-n0 平面上にプロットした図を描き,その性質を 調べた.モデル計算は Alfven 波の存在する場合としない場合でお こなった.
 Alfven 波が存在しない場合,n0 の大きさによりモデルの性質は 著しく変化する.これは太陽風に伴うエネルギーフラックスのうち 熱伝導フラックスだけが密度 n0 に依存しないことによる.
 n0 が小さいと質量フラックスも小さくなるので,質量フラックス を維持するのに必要とされる熱エネルギーも少ない.この場合エネル ギーバランスにおいて熱伝導エネルギーが支配的となり,コロナの温 度分布は質量保存,運動量保存を考えることなくエネルギー保存則か ら決まる.
 n0 が大きいと,熱伝導エネルギーは質量フラックスを維持するのに 使われるため,太陽風は遠方で断熱的となる. n0, T0が増加して質量 フラックスが大きくなるとコロナは熱エネルギーによって太陽重力を 脱することができなくなり,コロナが亜音速から超音速へ加速されるよ うな解(遷音速解)が存在しなくなる.
 Alfven 波が存在する場合, n0 に依存する波のエネルギーフラックス が太陽風のエネルギーバランスに加わり,モデルの性質は変化する.ただ し磁気圧による加速のおもな効果は太陽風速度を増大させることであり, 温度に直接的な影響はない.
n0 が大きい場合は波のエネルギーフラックスは小さく,太陽風モデル は基本的に Alfven 波の存在しない場合に似ている.
 n0 が小さい場合,波のエネルギーフラックスは大きくなり,磁気圧によっ て太陽風は高速に加速される.このため,n0 がある値を下回ると臨界点(太 陽風が音速になる位置)がコロナ底部より低くなるため遷音速解は存在し なくなり, T0-n0平面上に太陽風の解が存在しない領域が新たにできる. T0, n0 がともに小さいときは太陽風は実質的には磁気圧のみによって 加速される状態となり,非常に大きい太陽風速度が得られる.
 以上の結果から Alfven 波の存在を仮定することにより,熱伝導太陽風モ デルの性質は,特にコロナ底部における太陽風の密度 n0 の値によって大き く変化することがわかる.