2002 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2003 年 2 月 3 日

氏名 谷一 司
論文題目 海山性マンガン・クラストの産状と化学組成
論文要旨 観測船チャレンジャー号により初めて深海性マンガン団塊が発 見された。深海性マンガン団塊に比べ、海山の頂部や斜面に存 在する浅所のマンガン団塊、マンガン・クラストは、将来の可 採金属資源として価値が高く、特に、Co含有量が高いことで注 目されている。
本研究では海山性マンガン・クラスト試料の産状・組織と化学 組成を明らかにするとともに、他の鉄マンガン酸化物(深海性 ・海山性マンガン団塊)と比較し、その成因・生成過程を検討 することを研究目的とした。研究試料は、西部太平洋産海山性 マンガン・クラストの核にマンガン小団塊が捕獲されているも のと、マンガン層が厚く肉眼的にも組織が明瞭に異なるものを 使用した。
その結果、前者では海山性マンガン・クラストの核にほぼ球状 の未破壊マンガン団塊と砕片状マンガン団塊が認められ、それ らはマンガン・クラストの核形成以前にマンガン団塊として存 在、その核形成時に取り込まれたと思われる。さらに、これら のマンガン団塊はマンガン・クラストの形成場から考えると、 海山性である可能性が高い。
一方、後者はMn-Fe-(Co+Ni+Cu)×10図によれば、その化学組成 から水成起源と考えられる。また、Mn/Feと他の主要微量元素(Co 、Ni、Cu、Zn)との関係から、鉄マンガン酸化物の2つの代表的 成長組織(s型、r型)による主要微量元素含有量には差がみられ ないことが判明した。Mn/Fe比を酸化還元環境の指標とすると 、相対的にその値が低いと還元的環境、高いと酸化的環境を示 唆する。原田(1986)は、MnO2は海洋中に溶存するCo、Niを酸化 ・吸着する触媒となるので、相対的にMn/Feが高い(MnO2高濃度 )酸化環境では主要微量元素の海山性マンガン・クラスト中の 濃度も高くなると考えている。この結果とMn/Feム主要微量元 素間の比例直線の傾きは調和的である。これらを考慮すると、s 型、r型は形成環境におけるMnO2濃度に支配されるものの、主 要な微量元素の影響は受けず、s型はMnO2低濃度における相対 的還元環境での遅い成長を、r型はMnO2高濃度における相対的 酸化環境での速い成長を示唆している。また、海山性マンガン ・クラストのMn/Feと主要微量元素との間には正の比例関係が みられるが、海山性・深海性マンガン団塊にはあてはまらない 。これは、堆積物上(内)で成長する海山性・深海性マンガン団 塊と海水から成長する海山性マンガン・クラストの違いである と思われる。
海山における海水の酸化還元環境に影響を与える要因として溶 存酸素極少層の存在が考えられる。極少層は有機物の分解に伴 う酸素消費のため還元的環境である。極小層ではMn、Feは溶解 し、鉄マンガン酸化物を生成することは難しいと予想される。 溶存酸素極少層と溶存酸素が存在する酸化還元境界においては 、溶解Mn、Feが酸化反応を生じ、その酸化物が鉄マンガン酸化 物を構成していく可能性がある。酸化環境側ではその境界に近 いほど溶存酸素が少なくなるとすると、MnO2濃度は境界付近で 低く、離れるに従い濃度が上がって行き、溶存酸素極少層に近 い付近ではs型成長、離れた場所ではr型成長を示す鉄マンガン 酸化物と予想される。臼井(1998)によれば、マンガン層の厚 い海山性マンガンク・ラストに限り、内部に均質で光沢のある 構造が認められている。この部分は本研究のs型成長と一致す るものと考えられる。厚い海山性マンガン・クラスト特有のこ の構造は、過去のある時期に溶存酸素極小層に近づきs型成長 し、時間経過に伴い極少層から離れ、s型成長の上にr型成長が 生じたと考えられる。