氏名 |
鳥本 淳司 |
論文題目 |
スリランカの高度変成岩中に見られる流体包有物の産状と特性 |
論文要旨 |
流体包有物の研究は古くから行われ、主に鉱床学の分野で用い
られてきた。近年では、取り込まれた時の関与流体やその時の
環境がほとんど不変のまま保存されているという特徴や、地殻
中の流体の特性(化学組成・温度等)や挙動を知る事の出来る重
要な存在であるという理由から様々な地球科学的分野で注目を
集め盛んに研究がなされている。
中でも、変成岩分野では岩石の変成過程の克明な記録が保存さ
れている流体包有物は特に重要視され、それを用いた活発な研
究が開始されている。
本研究では、スリランカ産高度変成岩及び深成岩中に見られる
流体包有物を基にした地殻下部における深部流体の性状とその
挙動、及びそれと密接な関連を有すると思われる石墨鉱床やcharnockite
の成因を解明することを目的とする。また、それらの特性から
、本地域における地質・構造発達史を解明し、本地域と地史学
的に密接な関連性を有する東インド及び東南極との関係も考え
併せて、ゴンドワナ古大陸の復元とそこにおける流体の起源、
挙動と役割の解明を行うことを最終的に目指している。
現地調査や採集してきた試料の観察・実験から、スリランカHighland
Series
の流体包有物の分布特性として、西部に高濃度CO2が、東部にH2O
やCH4・N2が多く分布する傾向があり、Highland Series〜Wanni
Complex
間に存在すると推定されるthrustが成因的に関係していると思
われる。また、流体包有物の均質化温度と流体組成からHighland
Series
の変成過程においてCO2流体→CO2-H2O混合流体→H2O流体とい
う流体の活動史が推定され、また変成過程のP-T pathは3相包
有物の産状とmicro thermometryなどの検討から、全スリラン
カの調査地域で約200〜600℃・0.5〜2.2kbの温度・圧力条件を
通過したと思われる。
一方、Highland Series西部に広く分布するgraphite deposit
は、試料の観察や流体包有物のデータなどから同地域に広く分
布するCO2流体がその形成に深く関わっていると思われ、約600
〜700℃・3〜5kb以上の温度・圧力条件で形成されたと推測さ
れる。しかし、CO2からgraphiteが結晶化するプロセス(CO2流
体の還元作用等)などは現段階では明確になっておらず、母岩
をより詳細に調べる必要があり、今後の解決すべき大きな課題
として残った。
またgraphiteと同様に、Highland Series西部に広く分布す
るcharnockiteは、CO2流体がその形成に密接に関わっていると
推定されているが、流体包有物の研究によってCO2流体の活動
が盛んな時期からH2O流体が卓越してくる時期にかけて形成さ
れたと推測され、その温度・圧力は約500〜600℃・2kbであっ
たと考えられる。
これらの考察結果を考え併せると、Highland Seriesの西部
・中央部・東部において、P-T pathには顕著な違いが見られず
、東部と西部両者ではその差があるとした予察的研究(鳥本,2001:
卒業論文)で導き出した結果を必ずしも支持するものにならな
かった。この結果は、測定データの精度による可能性も考えら
れる。
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