2003年末の火星到着に向けて、現在飛翔中の火星探査機のぞみに紫外撮像分光計
(Ultra Violet imaging Spectrometer: UVS)が搭載されている。UVSは、回折格子型
分光計(Grating Spectrometer: UVS-G)と、水素・重水素吸収セルフォトメーター
(Hydrogen and Deuterium Absorption Cell Photometer: UVS-P)という二つの装置
からなっており、太陽風と火星超高層大気の直接相互作用、星間風、火星大気コロナ、
重水素/水素比の測定による火星水素散逸の観測、研究を目的としている。
UVS の詳細と初期観測の概要は Taguchi et al.[2000a]に示されている。
1998年7月4日の打ち上げ後、試験観測の意味も含め、
地球と月の遷移軌道中に地球コロナ観測と月の撮像等を行った。
第1回目の月スイングバイである1998年9月24日に月と地球を同時に観測することに
成功した。この際、得られた地球水素コロナの水素ライマンアルファ光
の広がりは北極側と南極側の高度約 150,000 km(約 23 Re)にもおよぶ。
水素ライマンアルファ光のスペクトルプロファイルの解析から地球コロナの
水素ライマンアルファ光強度分布を求めた。
さらに、Hodges[1994] の地球外気圏モデルとの比較を行った。
Hodges の外気圏モデルは現実的な熱圏-外気圏の推移、
磁気圏-外気圏での水素原子の非熱的な光化学過程を考慮している。
さらに、F10.7による太陽活動度の影響をカバーし、
春分点(秋分)と至点(夏至、冬至)の両方についても計算することができる。
UVS による観測とモデルとの比較より以下のことが明らかになった。
・UVS は地球を北(夜側)から南(昼側)へと観測を行い、いずれの方向へも
接線高度 100,000 km(15.68Re)まで外気圏の水素ライマンアルファ
光強度を観測した。その最大値は地球近傍で 14828.17 [R]であった。
この光は単一散乱ではなく、多重散乱を受けて減光された光であることが
分かった。
・バックグラウンド光として考えられる星間水素の光は月側で高く、
地球側で低い。このことから、月側の視線方向が星間水素の上流側で、
地球側の視線方向が星間水素の下流側を見ていたと考えられる。
その値は上流側で約 900 [R]、下流側で約 200 [R]であった。
これは、過去の観測[Clarke et al.,1984; Lallement et al.,1993]と
よく一致する。
・Hodges の モデルは観測ともよくマッチし、外気圏の様子を非常に
良く表している。しかし、 観測から得られたエミッションプロファイル
から水素原子はより高い高度まで分布していることが明らかになった。
さらに、夜側を見ているときと昼側を見ているときで非対称な光強度
分布になっていることも明らかになった。
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