氏名 |
梅原 信之 |
論文題目 |
火山噴火に伴う湖沼の堆積機構 -北海道・洞爺湖- (Sedimentation
Regime in Lake Toya, Hokkaido: Relation to the 2000 eruption of Usu Volcano) |
論文要旨 |
北海道南西部に位置する有珠山は、2000年3月31日に23年ぶりに噴火を開始した。
同年6月には洞爺湖の水深90m以深に、懸濁物質濃度にして25mg/Lを超える非常に高
濁度な層が存在することが確認された。これは、4月4日〜10日に金毘羅山の火口より
噴出した温泉水が、降灰域に堆積した細粒で粘土鉱物に富む火山性噴出物を取り込
み、熱泥流となって主に流路溝から洞爺湖に流入したためと考えられる。本研究の目
的は、この洞爺湖深部に形成された高濁度な層が、どのような過程を経て形成され消
失していったかについて、2000年6月〜2002年8月の3年間にわたる観測データをもと
に考察することである。
2000年6月の観測時には湖底付近で約25mg/Lあった懸濁物質濃度は同年10月には半
減し、2001年には消失していた。それに対応するように懸濁粒子の粒径分布も2000年
には細かな粒子に富んでいたが、2001年以降は粗い分布へとシフトした。一方、降雨
に対応して底層には底層密度流、水温躍層には中層密度流として土砂が供給されてい
ることがわかった。供給された懸濁物質は、X線回析の結果、洞爺発電所経由で供給
される長流川流域の堆積物よりも有珠山の降灰域で採取した火山性噴出物に近い鉱物
組成を示すことがわかった。これにより、この懸濁物質は降雨によって引き起こされ
た降灰域からの泥流による土砂流入であると判断された。流路溝沖合いの地点では、
降雨による土砂の供給は2000年以降次第に発生しなくなり、2002年にはまったく確認
されなくなった。
一方、湖水中での懸濁粒子の堆積環境について考察するため、湖底から5m高
(2001年は3m高)での三次元電磁流速計によって得られた時系列データを用いて、
三次元乱流拡散方程式をもとに沈殿量を見積もり、実際にセディメント・トラップで
捕獲された懸濁粒子の沈殿量を説明できるかを検討した。洞爺湖の湖底付近には一方
向の流れはなく、また三次元乱流拡散方程式の各項の計算結果のオーダー比較から、
沈殿量に重要な影響を与える項は自然沈降の項のみとなることがわかった。自然沈降
過程によって見積もられた沈殿量は、実際のトラップ沈殿量をよく説明できることが
わかり、洞爺湖深部に形成された高濁度層は、懸濁粒子が自然沈降していくことで消
失したと判断される。
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