2002 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2003 年 2 月 3 日

氏名 渡辺 顕二
論文題目 非噴火時における脱ガス量変動モデル
論文要旨  非噴火時に短周期で変動する火山ガス噴出を観測した研究報告がある。Ripepe et al.(2002)は Stromboli火山の噴火口から噴出するガスの温度を測定した。噴火時を除いた測定結果は毎分12~36回 の断続的なガス放出を示唆するものであった。噴火の間欠性と同様に、このような断続性は大気泡を 有するスラグ流によってもたらされると考えられている。スラグ流とは気液二相流の流動様式のひと つで、気泡流と同じく連続する液相内を気泡が分散する流れである。本論は断続的なガス放出の周期 性について研究することを目的とし、スラグ流ではなく、気泡合体プロセスを考慮しない点で単純化 された気泡流モデル(松本・村井(1995);村井・松本(1996))を使用して数値例を出力し、検討する ものである。
 数値解析に使用した支配方程式は液相の質量保存方程式、数密度保存方程式、気泡流の運動量保存 方程式、及び単一気泡の運動方程式と体積平衡に関する構成式、さらに初期条件と自由表面を有する 境界条件から成り立つ。場は熱的平衡を保ち、相変化を伴わないとする。気泡の密度は無視し、気泡 移動はボイド率(気相の体積分率)によって表現される。気泡は球対称を維持し、気泡に作用する力 の釣り合いは仮想慣性力、抗力、揚力によって近似される。
 断続的なガス放出の周期性を自由表面から上方へ抜けていく気泡流量の周期性によって近似し、 Stromboli火山の場合における物質定数を与え、二次元平面座標における気泡流の数値解析を実行し た。気泡流量については気泡の体積変化による影響を避けるため、下方境界から定常的かつ一様に吹 き込まれる気泡と自由表面を通り抜ける気泡との質量流量比を導き、指標に用いた。気泡吹き込み体 積流量、吹き込み気泡径、自由表面からの深さをそれぞれ変えた場合、質量流量比の変動周期に与え る影響を調べた。気泡吹き込み体積流量の増加は気液速度の増大をもたらし、周期は短くなるであろ う。吹き込み気泡径が大きくなると浮力が増大する一方で、実効粘性の影響を強く受けて気泡速度は 抑制され、周期は短くなるであろう。自由表面からの深さを大きくした場合、顕著な違いは認められ なかった。これは本論の空間スケールに限って言えば、基本的な流動構造は深さが増しても変化しな いと言えるであろう。
 気泡の移動を大局的に把握するため、ボイド率分布を可視表示した。その結果気泡は下方物理境界 において集積し、上昇し得るだけのボイド率を獲得すると気泡群として上昇を始める。このとき先 行、後続の気泡群と相互に影響を及ぼし合うことによって不規則かつ不連続に自由表面へ到達し、質 量流量比に変動をもたらすと考えられる。
 解析から得られた質量流量比の変動は毎分2~12回であった。断続的なガス放出を説明するには満た ないが、スラグ流モデルの副弐的な可能性を示唆したと言えるだろう。