氏名 |
渡邊 祥史 |
論文題目 |
East Pacific (EP)パターンに対する北太平洋の応答 |
論文要旨 |
本研究ではEast Pacific (EP)パターンに対して北太平洋がどのように
応答するのかを海洋大循環モデルを用いた数値実験によって調査した.
EPパターンは,北太平洋東部領域で南北にダイポール構造を持った大気
のテレコネクションパターンである.ダイポール構造の北側の中心は
アラスカ・カナダ西部付近に位置し,南側の中心はハワイ北東部沖付近
に位置している.ハワイ北東部沖付近を中心とした南側の偏差が正のとき,
EPパターンの位相は正である.使用したモデルは東京大学気候システム
研究センター(CCSR,Center for Climate System Research)で開発された
CCSR Ocean Component Model (COCO)である.計算領域は南緯30度から
北緯60度,東経120度から西経80度の範囲とし,水平解像度は緯度方向,
経度方向共に1度とし,鉛直方向は33層に離散化した.海底地形はETOPO5
global depth dataを基にモデルの解像度に合わせて作成した現実的な
海底地形を使用した.積分開始から20年間は年平均気候値,その後20年間
は月毎気候値を与えてモデル海洋場をスピンアップさせた後,海表面に
1949年から2001年までのNCEP/NCAR再解析データの風応力を与えた.海表面,
南北境界においては,温度・塩分をLevitusの気候値に緩和した.解析には
1950年から2001年までの風応力データを与えて積分した52年間の出力データ
とEPパターンを表現する時系列であるEP Indexを使用し,相関・回帰解析と
composite解析を行った.解析の結果は,正の位相のEPパターンに対して,
北太平洋東部領域において北部で負の相関,南部で正の相関がある
ダイポール構造を持った水温偏差の応答を示した.この応答はEPパターンが
現われる北太平洋東部領域上空の大気循環によって生み出される風応力渦度
偏差によって説明される.また,流速偏差が水温偏差の等値線に沿って
生じており,EPパターンが正の位相のときにはアラスカ海流が弱まっていた.
相関係数は小さいけれども,黒潮続流域にも水温偏差の相関がみられた.
北太平洋東部領域の南北ダイポール構造と黒潮続流域に相関がある空間
パターンが,気候レジーム・シフトの可能性が指摘される1998/99年の変化
における水温偏差の空間パターンと類似していたことは非常に興味深い.
なぜなら,海表面気圧の1998/99年の変化にEPパターンがみられることや,
1998/99年頃に北太平洋中央部で生じた舌状の海面高度上昇の東端が
EPパターンの南側の偏差と一致していることから,数十年気候変動の研究に
おいて注目を集めている1998/99年の海洋・大気場の変化とEPパターンとが
強く関連していることが示唆されるからである.
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