氏名 |
平林 悠太
|
論文題目 |
鉱脈型金鉱山における石英の組織と金沈澱の関係
-特に菱刈鉱山成泉脈と光竜鉱山6号樋の比較-
|
論文要旨 |
浅熱水性金鉱床において,石英は多種多様な結晶形態をとっている.これは,石英
が沈殿したとき,周囲の熱水の状況などを反映しているものである.そこで,石英の
結晶状態を観察することにより,その結晶がどのような環境で育ってきたかがわか
る.具体的にはその石英を沈殿させた熱水の温度や過飽和度などを知ることができ
る.
また,石英組織は金沈殿作用と密接な関係を持っており,金が沈殿するところおよ
びその周辺部の石英組織を調べることにより,同じように金沈殿作用の支配要因が特
定できるのである.
金沈殿が見られるところにおける結晶度において一定の変化を見出すことを目的と
した実験も行った.
光竜鉱山6号樋と菱刈鉱山成泉2号脈を研究対象とし,それぞれ坑内で採取された岩石
を用いて実験した.肉眼観察によるステージ区分及び,構造観察を行い,薄片観察に
よる写真撮影,組織観察及び,流体包有物の加熱冷却実験を行い,それぞれの鉱床に
おいてXRDによる結晶度分析を行った.また,6号樋の銀鉱物の同定にEDSを用いた.
このような石英観察主体の研究方法により,浅熱水性鉱床の金沈殿環境の特定を目
的としている.光竜鉱山は札幌市南西部に存在している.新第三期中新世の漁川層・硬質泥岩層中
に脈状に胚胎する浅熱水性含金銀石英脈である.1号樋から8号樋までの存在が確認さ
れており,現在は本研究のサンプル採取場所となった6号樋が稼動している.
菱刈鉱山は典型的な浅熱水性金銀・石英・氷長石脈で,鹿児島県北部,伊佐郡菱刈町
に位置し,本鉱床・山神鉱床・山田鉱床の3鉱床からなる.山田鉱床の地質は先第三系
の四万十累層群(砂岩・頁岩およびそれらの互層)を基盤とし、これを不整合に覆う第
四系の菱刈下部安山岩類等からなる.今回のサンプル採取場所となった成泉2号脈は
山田鉱床の北側に位置する.
光竜鉱山のサンプルは角礫が鉱化の過程で取り込まれている様子が観察され,
Fine Grain構造の他にColloformやCombが確認された.5つのステージに区分され,黄
銅鉱・黄鉄鉱・方鉛鉱など,また特にステージWでは鉱石鉱物が多く,大量のエレクト
ラムや多種の銀鉱物が観察された.
菱刈鉱山のサンプルは大部分で白色な緻密構造の石英が観察され,一部に
Colloform構造が認められた.鉱石鉱物の種類は少なく,黄鉄鉱・エレクトラムが頻繁
に観察され,閃亜鉛鉱と白鉄鉱が少量観察された.脈石鉱物は氷長石と石英がほぼ同
量に観察された.
いずれのサンプルも金沈殿部周辺の脈石鉱物を詳細に観察した.細粒モザイク状の
石英や氷長石の組織に隣接してエレクトラムが確認された.さらにその組織は細粒か
ら粗粒に脈石鉱物の組織が成長・変化していく最初のほうの過程であることが観察か
ら分かった.
流体包有物の実験では加熱冷却台を使用し均質化温度と融点を測定した.光竜鉱山
はTh200〜300℃で金鉱化ステージではTh260〜300℃と高い値を示した.融点から計算
したNaCl相当塩濃度は2%前後で,金鉱化ステージでは若干低い値を示した.菱刈鉱
山ではTh160〜280℃となり,金沈殿箇所付近ではTh160〜240℃と低い値を示した.
XRDでは石英の結晶度を計測し,金沈殿部の石英と不毛石英の結晶度を比較した.
標準測定である水晶を10となるように計算した.光竜鉱山では,不毛部分石英が全て
4.8以上であったのに対し,沈殿箇所は4.6となった.菱刈鉱山では不毛部分が4.5〜
6.3に対して沈殿部は4.0〜5.0と一様に低い値を示した.
金沈殿部の脈石鉱物が細粒なのは熱水の過飽和度が高かったことが予想される.組
織変化も活発で過飽和度のとても高い状態から低下があったことが予想される.結晶
度が一様に低くなっているのも,熱水の過飽和度が高く結晶が成長していく早さ以上
に急激な沈殿があったことを物語っている.
|
|