2003 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2004 年 2 月 4 日

氏名 城戸 大作
論文題目 アラスカの氷河流域における融解土砂流出機構
論文要旨 粘弾性的な動きをする氷河は、流動に伴う河底面と基盤との摩擦によって堆積物を豊富に産出する。さらに、氷河からの融解水は氷河底面の堆積物を侵食して排出するために、氷河からの流出河川は多量の懸濁物質を含んでいる。近年の地球温暖化による氷河の後退は土砂流出量の減少をもたらし、下流部や河口部へ多大な影響を及ぼす可能性がある。氷河からの土砂流出機構を明らかにする事は、氷河の後退が及ぼす下流域への影響を評価する上で重要である。 氷河底からの土砂流出量の季節変化を理解するために、氷河底に存在する排水機構を明らかにすることが本研究の目的である。

2001年からアラスカ・ガルカナ氷河において、土砂流出に関する継続観測を実施している。ガルカナ氷河はユーコン川支流のタナナ川の源頭部に位置している。流域内部に氷河流域を多く含むタナナ川は、氷河流域から輸送される氷河底起源の土砂を多量に含んでおり、ユーコン川の主要な土砂供給源の一つである。2001年の観測結果では、融解期全期間にかけて、流量とSSCには高い相関関係がある事がわかった。7月20日~26日にかけて流量、懸濁物質濃度SSCが急激に増大する”イベント”現象が起こっている。この期間における総土砂流出量は、観測期間全体のおよそ55%を占めており、年間の総流出量に大きな影響を与えている。この現象は氷河底での排水システムの一部が内部水圧の増大によって、linked cavity(貯水槽)が決壊した事によると考えられる。2002年においては流量の増大を伴う大規模な“イベント”は観測されなかった。

イベント”は氷河底で有効に排水されることなく貯留されていた水が一挙に排出して引き起こされる現象であるならば、イベント期間に排水される量に見合うだけの水がイベント前に氷河底に貯留されていなければならない。2001年時における流量と、PDD法によって推測される融解量と降水量との和として与えた涵養量を比較すると、イベント前の氷河底流入量と実測流量との積算値の差は約574万トン、イベント期間における差は約マイナス456万トンと計算され、イベント時の流出量を説明している。これは、イベントの性質と一致する。 ここで、この仮説を定量的に裏付ける目的で、イベントを含む融解流出特性と融解流出土砂量特性の両方を再現する事を試みた。これまで、河川の流出解析に適用されてきたタンクモデルを改良し、独自の“タンク・モデル”を構築した。従来のタンクモデルとは異なり、貯水槽崩壊タンクを並列して設置したタンクモデルは流量をよく再現した。また、流量-SSCの相関式よりSSCを計算し、土砂流出量の再現を行った。貯水槽崩壊タンクに独自のSSCを与えたシミュレーション結果は、土砂流出量の変化をよく再現した。