氏名 |
桑田 路子
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論文題目 |
2波長ミリ波レーダーによる巻雲の観測
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論文要旨 |
巻雲をはじめとする氷雲は地球の表面積の20〜30%を覆っており,
太陽放射の一部を反射するアルベド効果と,地上からの赤外放射を
吸収して対流圏や地表面の温度上昇を促す温室効果を持ち,地球の
放射収支や気候変動に大きな影響を持つと考えられる.この影響を
見積もるためには,雲の微物理特性を正確に見積もる必要がある.
雲の微物理特性は時間的・空間的に変動するため,これらを理解する
には連続的かつ広範囲に渡るデータ取得が望ましい.しかしその場
観測は連続的かつ広範囲に渡る観測が難しく,リモートセンシングに
よるデータ取得に期待が持たれる.
巻雲のリモートセンシングの方法の1つにレーダーによる観測がある.
ここ近年ではミリ波レーダーによる雲の観測が盛んになり,ミリ波の
2波長レーダーによる観測も行われるようになった.その主たるターゲット
が巻雲である.
巻雲は氷晶から成る雲であり,比較的大きな氷晶が存在するため,
氷晶と比べてレーダー波の波長が十分に長い場合にはレイリー散乱が
生じるが,氷晶の大きさとレーダー波の波長が同程度である場合には
ミー散乱が生じる.この2種類の散乱特性を利用し,Dual-Wavelength Ratio
(DWR) と呼ばれるパラメーターを使うことが可能となる.
本研究では,巻雲の微物理特性,及び成長過程の理解を目的とし,
2001年と2003年に計3期間の観測が行なわれた.そのうち両波長の
データ収録が正常に行なわれた,2001年6月12日から7月8日にかけて
茨城県つくば市にある防災科学技術研究所構内において行なわれた
観測で得られたデータの解析を行なった.
まず,Hogan et al. (2000) の方法を用いてメディアン体積直径と氷水量を
求めた.それに加えて,メディアン体積直径D0と観測において測定した
レーダー反射因子から数濃度パラメーターN0を求めることを試みた.
これにより,雲に関する情報として最も重要と言える氷晶の粒径分布を
知ることができる.
氷水量と粒径分布の高度変化から,雲頂で発生した氷晶は成長域である
雲の上層部から中層部にかけての領域を落下しつつ,周囲の水蒸気を得て
昇華成長を続け,その後,下層部の消滅域に達すると昇華蒸発により氷晶が
小さくなっていくという成長過程が推測できた.
この時,氷晶の成長に効果を及ぼす要因について考察した.3事例を比較
すると,メディアン体積直径の大きい事例ほど上昇流が強いことが分かった.
このことから,上昇流が強いと氷晶は落下速度が遅くなり,長く成長域に
留まることができると予測される.上昇流が強ければ強いほど,より大きな
氷晶を支えられるので,時間をかけて大きな氷晶に成長することができるの
である.以上から,氷晶の成長には上昇流の果たす役割が大きいことが
示された.
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