1994年三陸はるか沖地震は,近代的な観測網によって多くの強震動記録が得られた初めてのプレート間大地震である.
三陸はるか沖地震の震源過程は,これらのデータによる長周期地震波のインバージョンにより複数推定されている.しかし,広周波数
帯域の地震波を説明することが可能な震源過程は未だ推定されていない.また長周期地震波の波形インバージョンによって推定された
震源モデルはそれぞれ違う様相を示しており,どの震源モデルが良いかは未解決である.
本研究では,この地震の震源モデルを経験的グリーン関数法を用いて推定した.経験的グリーン関数法は,経験的なグリーン関数を用
いるため高周波数地震波を含む広周波数帯域の波形解析が可能である.
これまでの経験的グリーン関数法では,半無限媒質を仮定し,S波速度を一定として走時を計算してきた.内陸地殻内地震への本方
法の適用においては,断層面から観測点までの距離が短いため問題は無いが,本研究では,断層面から観測点までの距離が150km〜
300kmと離れているため,S波速度を一定と仮定せずに,断層面上で発生した余震による観測点までの走時から得られる曲線を基に,各
セグメントから観測点までの走時を計算した.解析は,長周期地震波のインバージョンによって推定された永井・他(2001)の震源モデ
ル,Nakayama et al.(1997)の震源モデルをそれぞれ初期モデルとし,アスペリティの位置,破壊伝播速度などは波形の一致度合いを
見ながらトライアンドエラーで再決定を行った.そして,それぞれの震源モデルに対して,2通りの破壊伝播様式,及び高周波を効果
的に放射した特異なアスペリティの有無について検討を行った.
トライアンドエラーの結果,最終モデルは,永井・他(2001)を初期モデルとした震源モデルとした.この最終モデルは二つのアスペ
リティからなる.破壊様式としては各アスペリティで新たに円形破壊が開始し,破壊伝播速度としては2.4km/secと得られた.アスペ
リティの一つは断層面中央部に位置し,ほとんどの観測点で観測された地震波の主要動はここから放射されたものと考えられる.もう
ひとつのアスペリティは断層面西側に位置し,狭い範囲から高周波を効果的に放射したと考えられる.このアスペリティは永井・他
(2001)では推定されておらず,Nakayama et al.(1997)が推定した特異な高周波震源と同じものであると考えられるが,本研究の結果
ではNakayama et al.(1997)が推定した位置よりも南東に52kmずれている.
八戸の大振幅の高周波パルスは断層面中央部アスペリティの破壊のみでは説明できない.八戸には断層面西側アスペリティの破壊か
らの寄与が卓越しており,このことが八戸を中心とした被害の原因となっていると推定される.
さらに本研究では,プレート間地震である1994年三陸はるか沖地震と,スラブ内地震である1993年釧路沖地震の震源過程を比較した.
釧路沖地震は,三陸はるか沖地震とほぼ同じ地震モーメントを開放したスラブ内地震であることがわかっている.この二つの地震を比
較した結果,プレート間地震は,スラブ内地震よりも破壊域が大きく,継続時間が長いため,スラブ内地震ほど応力降下量,すべり量
は大きくないことがわかった.
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