北海道中軸部には主に緑色岩類・火山性砕屑岩類などからなるジュラ
−下部白亜系空知層群と,陸源砕屑物からなる白亜系蝦夷累層群が広く分布してお
り,神居古潭亜帯とともに空知―エゾ帯 (君波ほか,1985)を構成している.その中
の蝦夷累層群は下位より下部蝦夷層群・中部蝦夷層群・上部蝦夷層群・函淵層群から
形成されており,前弧海盆堆積体として知られる(Okada, 1983).蝦夷累層群の地
質学的・堆積岩石学的検討は,白亜紀北海道,さらに当時のアジア大陸縁辺部のテク
トニクスを考察する上で非常に重要である.
蝦夷累層群最下部の下部蝦夷層群はこれまで富問砂岩(橋本,1955)に代表される大
陸性起源の石英長石質な砂質タービダイトで構成されているとされてきた.しかしそ
の詳細は不明な点が多い.そこでこれまで具体的な検討が乏しかった下部蝦夷層群の
砂岩組成を明らかにすることで特徴を再定義し,その供給源・テクトニクスを推定す
ることを目的として本研究を行った.
本研究ではモード組成・全岩化学組成により砂岩の検討を行った.両組成は下部蝦夷
層群の砕屑物供給源がDissected Arc(開析島弧)起源であることを示した.ミキシ
ングシミュレーションでは下部蝦夷層群の砂岩が渡島帯砂岩に礼文−樺戸帯の火山岩
要素が加わり,長石の除去が起こった結果形成された可能性が示された.これらのこ
とから下部蝦夷層群は白亜紀後期に,“未成熟な島弧”である礼文−樺戸帯のさらに
西方に位置していたと考えられる“成熟した島弧あるいは大陸縁”からの砕屑物が主
に堆積し,さらに火山弧・付加体・風化の要素が加わり形成されたと考えられる.
下部蝦夷層群の砂岩は全岩化学組成の組成幅・SiO2量 (平均73.9 wt%)で特徴的な
値を示し,他の地質体の中に類似したものは少ない.判別分析では1)渡島帯,2)中部
蝦夷層群,3)下部蝦夷層群,が明瞭にグルーピングされ,化学組成上の違いを示し
た.また渡島帯と下部蝦夷層群の供給源・全岩化学組成の違いを用いて君波ダイアグ
ラムにおけるCA&DA領域に新たな解像度を与えた.
|