2003 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2004 年 2 月 4 日

氏名 村田 圭佑
論文題目 西南北海道,島牧−今金地域における新第三紀鉱脈型Mn鉱化作用と先第三紀層状Mn鉱床との成因的関係について
論文要旨 西南北海道には,新第三紀形成と考えられてい る多数の鉱脈型及び堆積性Mn鉱床が分布し,特異な鉱床区を 形成している.この地域の基盤岩として,東北地方の北部北上 帯,岩泉帯延長部の堆積岩類及び花崗岩類が分布していると考 えられている.これまで,これらの新第三紀鉱脈型Mn鉱床の 炭酸マンガン等の元素の起源は,漠然と基盤岩中の層状Mn鉱 床及び石灰岩であろうと考えられてきた.しかし,その実体は 必ずしも詳細に解明されているとは言えない.

研究対象とした島牧-今金地域には,小規模ながら基盤岩中に 発達するチャート,石灰岩に伴う層状マンガン鉱床(神威鉱床 等)の分布が認められ,また基盤岩を覆って本地域に広く分布 する新第三紀緑色凝灰岩類中には,銅・鉛・亜鉛を伴う鉱脈型 炭酸−珪酸マンガン鉱床(三恵鉱山)が分布している.また, 隣接する今金地域では新第三紀変質安山岩類中に,銅・鉛・亜 鉛を伴う鉱脈型珪酸−炭酸マンガン鉱山(今金鉱山,奥種川鉱 床等)が胚胎している.

本研究では,新第三紀鉱脈型Mn鉱床の特性と成因を明らかにす る事を主な目的として,鉱脈型Mn鉱床の三恵鉱山,今金鉱山, 奥種川鉱床,層状Mn鉱床の神威鉱床,及びそれと隣接する泊 川石灰石鉱床について,現地野外調査とサンプリングの実施と ともに,鏡下観察,X線回折実験,EPMA定量分析,流体包 有物分析,炭酸塩鉱物の炭素及び酸素同位体比の測定等の室内 実験を行った.

今金鉱山は変質安山岩,緑色凝灰岩角礫岩を母岩とし,パイロ クスマンジャイト,バラ輝石,菱マンガン鉱を主要鉱石鉱物と する鉱脈型Mn鉱床であり,黄鉄鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,閃亜鉛鉱 ,赤鉄鉱,石英を伴う.奥種川鉱床も今金鉱山と同様に変質安 山岩,緑色凝灰岩を母岩とし,パイロクスマンジャイト,菱マ ンガン鉱,石英,黄鉄鉱などを主要な鉱石鉱物とする鉱脈型M n鉱床である.三恵鉱山は,緑色凝灰角礫岩,細粒緑色凝灰岩 ,溶結凝灰岩中に胚胎し,パイロクスマンジャイト,バラ輝石 ,菱マンガン鉱,アラバンド鉱,黄鉄鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,閃 亜鉛鉱,石英,重晶石を主要構成鉱物とする鉱脈型Mn鉱床であ る.また,各鉱山の鉱石鉱物中の流体包有物の均質化温度は, 今金鉱山の閃亜鉛鉱で約254〜331℃,奥種川鉱床の石英で249 〜293℃,三恵鉱山の閃亜鉛鉱で320〜405℃であった. 今金鉱山及び三恵鉱山については,閃亜鉛鉱の化学組成,流体 包有物の均質化温度および鉱石鉱物組み合わせにもとづいて硫 黄フュガシティ(fs2),酸素フュガシティ(fo2),炭酸 ガスフュガシティ(fco2)を推定した.今金鉱山はfs2≒10 ‐11atm,fo2≒10‐37〜10-35atm,fco2≒100.78atm,三恵鉱 山はfs2≒10‐7atm,fo2≒10‐31〜10-28.5atm,fco2≒100.03atm であった.

一方,層状Mn鉱床の神威鉱床のMn鉱物は,スペッサルティン ,菱マンガン鉱で他に石英,黄鉄鉱,苦灰石が認められた. 泊川石灰石鉱床では,石灰岩周辺の泥岩層,凝灰岩層中に方解 石,苦灰石などからなる炭酸塩脈が,凝灰岩中には黄鉄鉱が認 められた.

西南北海道における熱水性炭酸塩の安定同位体の研究(向井,1997 )によると,この地域の炭酸塩脈は,石灰岩を通過した熱水活 動の産物であると示唆されており,本研究の菱マンガン鉱の炭 素・酸素同位体比測定の結果と合わせると,石灰岩を通過してCO2 に富む熱水がその循環経路上で,低い同位体比をもつ有機炭素 等によって還元され,さらに基盤岩中に胚胎する層状Mn鉱床と 反応してMnを溶解し,その熱水が上昇過程において上位の地層 中に低い同位体比をもつMnCO3を構成鉱物とする鉱脈型Mn鉱床 を形成した可能性が考えられる.