西南北海道には,新第三紀形成と考えられてい
る多数の鉱脈型及び堆積性Mn鉱床が分布し,特異な鉱床区を
形成している.この地域の基盤岩として,東北地方の北部北上
帯,岩泉帯延長部の堆積岩類及び花崗岩類が分布していると考
えられている.これまで,これらの新第三紀鉱脈型Mn鉱床の
炭酸マンガン等の元素の起源は,漠然と基盤岩中の層状Mn鉱
床及び石灰岩であろうと考えられてきた.しかし,その実体は
必ずしも詳細に解明されているとは言えない.
研究対象とした島牧-今金地域には,小規模ながら基盤岩中に
発達するチャート,石灰岩に伴う層状マンガン鉱床(神威鉱床
等)の分布が認められ,また基盤岩を覆って本地域に広く分布
する新第三紀緑色凝灰岩類中には,銅・鉛・亜鉛を伴う鉱脈型
炭酸−珪酸マンガン鉱床(三恵鉱山)が分布している.また,
隣接する今金地域では新第三紀変質安山岩類中に,銅・鉛・亜
鉛を伴う鉱脈型珪酸−炭酸マンガン鉱山(今金鉱山,奥種川鉱
床等)が胚胎している.
本研究では,新第三紀鉱脈型Mn鉱床の特性と成因を明らかにす
る事を主な目的として,鉱脈型Mn鉱床の三恵鉱山,今金鉱山,
奥種川鉱床,層状Mn鉱床の神威鉱床,及びそれと隣接する泊
川石灰石鉱床について,現地野外調査とサンプリングの実施と
ともに,鏡下観察,X線回折実験,EPMA定量分析,流体包
有物分析,炭酸塩鉱物の炭素及び酸素同位体比の測定等の室内
実験を行った.
今金鉱山は変質安山岩,緑色凝灰岩角礫岩を母岩とし,パイロ
クスマンジャイト,バラ輝石,菱マンガン鉱を主要鉱石鉱物と
する鉱脈型Mn鉱床であり,黄鉄鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,閃亜鉛鉱
,赤鉄鉱,石英を伴う.奥種川鉱床も今金鉱山と同様に変質安
山岩,緑色凝灰岩を母岩とし,パイロクスマンジャイト,菱マ
ンガン鉱,石英,黄鉄鉱などを主要な鉱石鉱物とする鉱脈型M
n鉱床である.三恵鉱山は,緑色凝灰角礫岩,細粒緑色凝灰岩
,溶結凝灰岩中に胚胎し,パイロクスマンジャイト,バラ輝石
,菱マンガン鉱,アラバンド鉱,黄鉄鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,閃
亜鉛鉱,石英,重晶石を主要構成鉱物とする鉱脈型Mn鉱床であ
る.また,各鉱山の鉱石鉱物中の流体包有物の均質化温度は,
今金鉱山の閃亜鉛鉱で約254〜331℃,奥種川鉱床の石英で249
〜293℃,三恵鉱山の閃亜鉛鉱で320〜405℃であった.
今金鉱山及び三恵鉱山については,閃亜鉛鉱の化学組成,流体
包有物の均質化温度および鉱石鉱物組み合わせにもとづいて硫
黄フュガシティ(fs2),酸素フュガシティ(fo2),炭酸
ガスフュガシティ(fco2)を推定した.今金鉱山はfs2≒10
‐11atm,fo2≒10‐37〜10-35atm,fco2≒100.78atm,三恵鉱
山はfs2≒10‐7atm,fo2≒10‐31〜10-28.5atm,fco2≒100.03atm
であった.
一方,層状Mn鉱床の神威鉱床のMn鉱物は,スペッサルティン
,菱マンガン鉱で他に石英,黄鉄鉱,苦灰石が認められた.
泊川石灰石鉱床では,石灰岩周辺の泥岩層,凝灰岩層中に方解
石,苦灰石などからなる炭酸塩脈が,凝灰岩中には黄鉄鉱が認
められた.
西南北海道における熱水性炭酸塩の安定同位体の研究(向井,1997
)によると,この地域の炭酸塩脈は,石灰岩を通過した熱水活
動の産物であると示唆されており,本研究の菱マンガン鉱の炭
素・酸素同位体比測定の結果と合わせると,石灰岩を通過してCO2
に富む熱水がその循環経路上で,低い同位体比をもつ有機炭素
等によって還元され,さらに基盤岩中に胚胎する層状Mn鉱床と
反応してMnを溶解し,その熱水が上昇過程において上位の地層
中に低い同位体比をもつMnCO3を構成鉱物とする鉱脈型Mn鉱床
を形成した可能性が考えられる.
|