論文要旨 |
本調査地域は小樽市東部に位置し、張碓川流域は石倉山の南南東部、春香山の北北
西部に、屏風岳周辺はオタルナイ湖南西部、朝里川流域はオタルナイ湖南部にあた
る。本地域周辺には北西に赤岩、東部に手稲鉱山などの鉱化帯があり、本地域の変質
作用を明らかにすることは、この地域一帯の鉱化作用を明らかにするうえで重要であ
ると考えられる。このため本地域に卓越する珪化変質作用と周辺地質との関係、珪化
変質帯の特徴、生成時期を明らかにし、その成因および金を始めとする重金属鉱化作
用との関連性を考察することを研究目的とした。中嶋(2002)の卒業論文では張碓川
中流域の珪化変質は広範囲に及ぶものではないとした。変質年代は6,7Maが報告され
ている(Watanabe & ohta、1999)。屏風岳周辺、朝里川流域は阿部(1994)により
詳細な調査報告がされており、変質年代は屏風岳周辺で4,8Ma(阿部、1994)、また
朝里川流域で6,1±0,6、6,52±1,32、6,82±1,34が得られている(阿部、1994)。
張碓川中流部の左岸、山の中腹に珪化岩の岩頭状の露頭(標高380〜430m)が見ら
れる。周辺の沢沿いには、小規模な珪化変質を受けた露頭(標高200〜480m)がいく
らか確認されるが、大規模な露頭はこの岩頭状露頭以外見当たらない。岩頭状露頭の
珪化岩は鏡下観察すると、quartz以外の鉱物はほとんど観察されず、付加型のquartz
も確認される。山麓には岩頭状露頭起源と思われる転石が多数あり、その中に
aluniteが見られるものもある。沢沿いの露頭にはalunite、kaolinite、dickiteなど
の変質鉱物が観察され、pyriteの鉱化も認められる。変質原岩はdacitic tuffと思わ
れる。分析の結果、顕著な金、重金属の鉱化は確認されなかった。
屏風岳の北側、朝里山alunite鉱床には珪化岩の岩頭状の露頭(標高500〜550m)
がある。岩頭状露頭の珪化岩は、鏡下観察でquartzとaluniteが確認される。周辺沢
沿いには小規模な露頭(標高220〜370m)があるだけで、珪化変質作用の有無が明瞭
に区分される。変質鉱物としては、aluniteが確認できるだけで、pyriteなどの鉱化
は確認できない。原岩はandesiteと思われる。
朝里川流域には、朝里岳の中腹に珪化岩の岩頭状の露頭(標高680〜730m)が確認
できる。岩頭状露頭の珪化岩は、鏡下観察するとquartz以外の鉱物はほとんど観察さ
れず、付加型のquartzも確認される。朝里川沿いの林道には、変質作用を受けている
連続的露頭(標高350〜450m)が観察される。quartz、aluniteのみが確認される強
珪化変質を受けている露頭を中心に、quartz、aluniteに加え dickite、pyrophllite
が観察される露頭、sericiteが観察される露頭、ほとんど変質を受けていない露頭が
連続的に見られる。小さな沢沿いにも小規模な露頭(標高570〜750m)があり、若干
のaluniteとpyriteの鉱化が確認される。変質原岩は、林道沿いの北側でtuff breccia、南側、沢沿いではandesiteと思われる。
朝里川流域では、そこでの変質帯の広がりや、岩頭状上部珪化岩露頭の規模から、
現在は珪化変質帯の中部から上部にかけての部分が観察されているものと考えられ
る。対照的に、張碓川中流域では岩頭状珪化岩露頭の規模も小さく、変質帯にも大き
な広がりは見られず、小規模なものばかりである。またそれらの露頭のなかには、岩
頭状露頭とほぼ同じかそれ以上の高さのものもある。そこで、現在は珪化変質帯の中
部から下部にかけての部分が観察されていて、上部は風化などにより消失していると
考えられる。同じ様な酸性変質帯の赤岩では、上部珪化変質帯(シリカキャップ)付
近で金の沈殿が観察される(赤松、1994)。張碓川中流域の珪化変質帯では上部が消
失していると考えると、赤岩と同様な金、重金属の鉱化作用を確認するのは難しいと
考えられる。
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