ハワイは地球上最大のホットスポットとして知られており,今までに数多くの研究
がなされてきた地域である.陸上で見られている山体は一部に過ぎず,火山体の多く
の部分はその海面下に存在している.また,ハワイ諸島周辺の海底には,陸上では見
出せないタイプの組成や活動様式の火山も存在し,ハワイ火山の実体を明らかにする
ためにはこのような海底火山の研究が必要不可欠である.本研究の対象である
SW-Oahu火山及びKauai-Oahu海峡火山群からは過去に岩石試料が採取されたことがな
く,その地球化学的特徴は全くわかっていない.本研究では両火山地域の地球化学的
特徴と年代値を明らかにし,両火山を他のハワイ火山の岩石と比較すると共にそれぞ
れの火山地域の成因について考察した.
SW-Oahu火山はオアフ島南西約100kmに位置し,直径約100km,比高約1.5kmのドーム
状の火山体で,その山体には直径数kmの円錐丘が点在している.また,カウアイ島と
オアフ島の海峡に位置するKauai-Oahu海峡火山群は数十個の円錐丘からなる.分析し
た試料は枕状溶岩及びシート状溶岩であり,溶岩丘の部分とドーム状火山の本体と思
われる部分から採取したものがあるが,どの試料の全岩化学組成もハワイ火山の中で
はRejuvenated stage(後侵食期)の特徴と類似する.両火山地域の軽希土類元素/重希
土類元素比は高く,Rejuvenated stageのものと類似する.軽希土類元素は重希土類
元素よりも液相濃集性が高いので,軽希土類元素は低溶融度で発生したメルトに濃集
する傾向がある.よって両火山地域のマグマはこのような低溶融度メルトに由来する
と考えられる.しかし,Sr,Nd同位体比において,両火山地域には大きな違いが見ら
れる.Kauai-Oahu海峡火山群のSr,Nd同位体比はRejuvenated stageの領域内にプロッ
トされるが,SW-Oahu火山のSr,Nd同位体比はハワイ火山のどのステージの特徴とも一
致せず,特徴的な起源物質に由来する可能性がある.La/Ce-87Sr/86Sr図で,起源物
質におけるマントルとプルーム由来の構成要素の割合を計算すると,両火山とも枯渇
したマントルに少量のプルーム由来成分が付加した起源物質を考えることによって説
明でるが,Kauai-Oahu海峡火山群はRejuvenated stageの岩石と同様の特徴を持つの
に対しSW-Oahu火山群の起源物質のほうがプルーム由来の構成要素に富んでいるとい
う違いが見られる.また,K-Ar年代測定の結果,Kauai-Oahu火山は0.4Maで周辺の
Rejuvenated stageと同時期であるが,SW-Oahu火山は約3Maという値を得た.
以上のことより,Kaui-Oahu火山はプルームの中心軸から数100km離れた場所で起こ
るRejuvenated stageの活動であったと考えられる.一方,SW-Oahu火山は約3Maにプ
ルームの中心でオアフ島の楯状火山が形成されていた時期に,プルーム中心から約
100km離れた場所で活動していた.プルームの中心軸から離れていることで低溶融度
のメルトが生成されていたが,Rejuvenated stageの縁辺部の活動よりもプルーム中
心に近かったため,起源物質のプルーム由来成分が富んでいると考えられる.このよ
うな地球化学的特徴をもった火山は他のハワイ火山では認識されておらず,新しいタ
イプの活動であると言える.
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