2003 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2004 年 2 月 4 日

氏名 小川 宏介
論文題目 Fine-grained inclusionの衝撃破壊実験
論文要旨 炭素質コンドライトには、太陽系初期に高温ガスから直接凝縮した物質から成る含有 物fine-grained inclusionが存在している.すべてのfine-grained inclusionは特徴 的な破砕作用を受けている.ほとんどの炭素質コンドライトでは水質変成のため、破 壊組織と変質の効果を明瞭に分離することは難しい.今回、水質変成を受けていない 始原的な隕石Yamato-81020を観察する機会に恵まれた.Yamato-81020のfine-grained inclusionは全く割れていない部分と激しく破砕された部分がネットワーク状に混在 する特徴的な組織を持っている.このような破壊は母天体内部で衝撃波が伝播して破 壊したためだと考えた.本研究では衝突実験によりfine-grained inclusionの破壊組 織の再現を試みた.実験試料として、fine-grained inclusionを構成しているノ ジュールのコアであるスピネル、マトリックスの主成分であるオリビンを用い、隕石 と類似した組織にした.実験は一段式軽ガス銃を使用し、衝突速度80m/s(0.02GPa)、 170m/s(0.10GPa)、300m/s(0.31GPa)、400m/s(0.54GPa)の4種類を行った.各々の衝突 速度で得られる試料中の発生圧力は、インピーダンスマッチングを利用して見積もっ た.衝突速度80m/s、170m/sでは全くスピネル粒子は割れていなかった.衝突速度 300m/sでは細かい破片が少量生じた.衝突速度〜400m/sで行った3つのRunでは、隕 石と酷似した破壊組織が得られた.しかし、他の2つのRunでは、同じ衝突速度(〜 400m/s)にもかかわらず、比較的弱い破壊の場合と実際の隕石の破壊組織よりも強い 破壊の場合が見られた.その原因として、プロジェクタイルがやや斜めに衝突した り、また出発物質のサンプルの位置に微妙な違いがあったことが考えられる.衝突速 度〜400m/sで得られた典型的な破壊組織を持つサンプルについてサイズ分布と破片の 形状分布の測定を行った.その結果、隕石中のfine-grained inclusionと非常に良い 一致が見られ、実験と実際の隕石の破壊組織の類似性を裏付けた.本実験により衝突 速度〜400m/sに相当する発生圧力〜0.5GPaにおいてfine-grained inclusionの破壊組 織を再現することができた.したがって、母天体で少なくとも1回は〜0.5GPaの衝撃 圧力を受けたと推測される.さらに、〜0.5GPa以下の衝撃圧力で隕石となるには、 Yamato-81020は母天体の表層付近に存在し、小天体の衝突によるspallingの破片とし て母天体から放出された可能性が高い.