2003 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2004 年 2 月 4 日

氏名 堺 朝子
論文題目 石灰質ナノ化石を用いたアデン湾の第四紀古環境復元
Analysis of calcareous nannoflora and reconstruction of late Quaternary climate in Gulf of Aden
論文要旨   インド洋北部とアラビア半島は、インド洋モンスーンの影響を強く受けている。特にアラビア海の北西部では夏期に卓越する南西モンスーンが引き起こす湧昇流の影響を強く受けており、海洋環境の季節変動や第四紀古環境変化の研究が多く行われている。しかし、アラビア海南西部の環境変動については、研究がまだあまり進んでいない。本研究では、アラビア海南西部に位置するアデン湾東端の海底から採取されたピストンコアに含まれる石灰質ナノ化石群集と産出頻度の層準変化を計測し、この海域における過去23万年間の海洋環境の変動を明らかにすることを目的とした。併せてこの海域における石灰質ナノ化石の生層序基準を検証した。インド洋モンスーンは、氷期・間氷期サイクルに同調した変動がみられるため、特に氷期、間氷期に伴うモンスーンの変動と併せて、石灰質ナノ化石群集にどのような変動が見られるかに重点を置いて研究を進めた。

 本研究で用いるコアはアデン湾の中でも最も東の端の地点から採取され、湾内の閉鎖的環境とアラビア半島沿岸域の湧昇流域としての環境との境界に位置している。アデン湾中央部における有孔虫を用いた環境解析から、湾中央部の海洋環境は北東モンスーンの影響を強く受けていると考えられている。

 観察の結果、コア中の石灰質ナノ化石の産出総数は氷期に多く、間氷期に少ないことが判った。また、貧栄養環境に適応した種であるCalcidiscus leptoporusが氷期に減少し、間氷期に増えることなどから、コア採取地点は北東モンスーンの影響を強く受けていると推測した。Florisphaera profundaなどの下部有光層生息種と上部有光層生息種の相対頻度の変動をMolfino and McIntire (1990)のモデルにあてはめた検討でもほぼ同じ結果が得られた。

 また、最近の23万年間に起こった石灰質ナノ化石の生層序イベントであるEmiliania huxleyiの繁栄期の開始や、16万年前に絶滅したとされるHelicosphaera inversaの絶滅期が同位体年代と比較した結果ほぼ一致したことから、アデン湾でも、他の外洋域で用いられている生層序基準が有効であることがわかった。