2003 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2004 年 2 月 4 日

氏名 島沢 竜平
論文題目 木星系におけるダストの移動を考慮した微衛星形成について
論文要旨 本研究では Mosquiera and Estrada (2003) (以下ME2003) により提唱された木星型惑星の衛星系形成についての理論的 シナリオの, 特にダストから微衛星が形成される過程に注目 し, 数値実験を用いた検証を行う.

ME2003 のシナリオでは, 最小質量モデルを基に主星の周り にガス, ダストからなる衛星系円盤を仮定し, その円盤中で 衛星集積が起こると考えている. ME2003の衛星系円盤モデル は centrifugal radius を基準としてその内側と外側で密度 分布, 温度分布が大きく変化する2分割円盤モデルである. 衛星集積過程は太陽系における惑星集積過程と同様の過程を 経るものと考えられる. しかし, 衛星衛星系においては, 密度, 温度などの パラメータの違いにより, 太陽系円盤で は主要でない現象が重要となる. その現象の一つがダストと 微衛星の移動である.

本研究ではMS2003のダストから微衛星を形成する過程に 注目した. この過程は衛星形成過程の最も初期の段階であり, 微衛星形成に要する時間スケールや形成過程は形成される 衛星の組成, 構造などに大きな影響を与える. ME2003 では ダストから微衛星を形成する過程は, 円盤が冷えてから1000 年を要すると粗く評価されているだけで詳しい解析は行われ ていない.

よって, 本研究ではこの過程をダスト, 微衛星の移動を 考慮した数値実験を用いて詳しく検証する.

ダストの円盤中での移動速度は, ダスト, ガスの2流体方程式 を解き, 得られた解に対して衛星系での密度, 温度分布を適用 することで得られる. 微衛星に関しては Adachi et al.(1976) の結果に従って移動速度を計算する. 計算の結果, 原始木星系 円盤ではダスト半径が 0.1 m 程度のとき, ダストの位置に よらず, ガスに対する相対速度が最大になることがわかった.

この速度を用いてダストの付着成長方程式を数値的に解き, ダストのサイズ進化を検証した. 計算結果からダストは軌道 減衰しながら成長する過程で暴走成長を起こすことがわかっ た. 暴走成長の原因として, 粒子同士の相対速度が粒子の サイズにより変化することが考えられる. 粒子が大きくなる と, 相対速度の大きい自分より小さな粒子と頻繁に衝突する ようになる. 一方, 自分自身と同等のサイズの粒子は数が 少なく, 相対速度も小さいためなかなか衝突しない. よって 大きくなった粒子は小さな粒子を一方的に捕獲しはじめ, 急速に成長する. 暴走成長により, マイクロメートルサイズ のダストからメートルサイズの粒子の形成時間は ME2003 の 想定を十分満たす可能性がある.