2003 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2004 年 2 月 4 日

氏名 高橋 僚子
論文題目 ラバウルカルデラ、後カルデラ火山1994年2火山同時噴火のマグマ供給系の解明
論文要旨  ラバウルカルデラは、プレートの三重会合点にあたるパプアニューギニアのニューブリテン島の北端に位置する火山活動の活発なカルデラで、将 来、カルデラを形成するような大規模な噴火が起こる可能性があると考えられている火山の一つである。最近の活動は、カルデラの内側に約5q離れ て位置しているタブルブル火山とブルカン火山が、1878年、1937年、1994年に2火山同時を起こしている。しかし、これらの噴火の詳細な岩石学的研 究はなされておらず、マグマ供給系についてもほとんどわかっていない。また、両火山は都市に近接しており、今後の噴火活動を予測することが急務 であり、よってマグマ供給系の解明は重要である。そこで、本研究では最新の噴火である1994年噴火に焦点を当て、マグマ供給系を解明する事を目的 に研究を行った。
 ブルカン火山噴出物は主に軽石と火山灰からなり,少量のスコリアと縞状軽石を伴う.一方タブルブル火山噴出物はスコリア・火山灰・溶岩からな り,スコリアと溶岩には苦鉄質包有物が含まれている.斑晶量はいずれも3-14vol%で,斑晶鉱物組み合わせは,斜長石+単斜輝石+斜方輝石+磁鉄鉱+か んらん石である。又,苦鉄質包有物の斑晶鉱物は,かんらん石+斜長石+単斜輝石である.
 全岩化学組成において,タブルブル火山噴出物は安山岩、ブルカン火山噴出物デイサイトと組成が明瞭に区分され,それぞれ異なる直線的なトレン ドを描く.
 斑晶鉱物組成を見ると,ブルカン火山では、斜長石と単斜輝石で850-970℃ の低温マグマ(Sマグマ)から晶出したと考えられる斑晶と、1010- 1080℃の高温マグマ(M1マグマ)から晶出したと考えられる斑晶の2タイプに分類できる。M1マグマ由来の斑晶にはかんらん石が存在し、その特徴とし ては単斜輝石の厚い反応縁を伴うことである。一方タブルブル火山では、ブルカン火山の2つのグループに加え1140-1230℃とM1マグマよりも更に高温 のマグマ(M2マグマ)から晶出したと考えられる斑晶が存在し、この斑晶の組成は苦鉄質包有物の斑晶と一致する。 以上の結果から,両火山はマグマ混合しており、ブルカン火山からはSマグマとM1マグマ、タブルブル火山からはSマグマ、M1マグマ、M2マグマが混合 し噴出した可能性がある。全岩化学組成において2火山は各々直線的なトレンドを描くが、これは端成分マグマをトレンドの両端にもつマグマ混合を していることを示している。トレンドは珪長質側で収束している事から2火山の珪長質マグマは同じでこれがSマグマであると考えられ、このことは鉱 物組成と調和的である。ブルカン火山は2端成分マグマ混合で、端成分はSマグマとM1マグマであると考えられる。これは鉱物組成と調和的である。M1 マグマに含まれるかんらん石に反応縁が存在する事から、SマグマとM1マグマは長い期間層状マグマ溜まりを形成していたと考えられる。一方、タブ ルブル火山のトレンドはM1マグマとM2マグマの間を通ることから、M1マグマとM2マグマが混合したものにSマグマが混合し噴出したと考えられる。こ のことも鉱物組成と調和的である。
   以上のことから,1994年噴火は、タブルブル火山とブルカン火山が各々独立したマグマ溜まりを持っていたのではなく、1つの成層マグマ溜まり(S+M1 マグマ)を共有しており、そこに1つのマグマ(M2マグマ)が貫入した事によって同時噴火を起こしたと考えられる。