2003 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2004 年 2 月 4 日

氏名 寺門 直哉
論文題目 粉末X線回折データの指数付けに関する考察
論文要旨 粉末X線回折法は、単結晶が得られない物質の構造解析に有効で あり、近年注目されている。しかし、三次元方向の結晶の回折像を一次元上に投 影しているため、重なりが生じてしまい単位格子を求めることが困難である。今 までに考案されてきた方法には、結晶を三斜晶系として晶帯軸を探す方法(伊 藤,1949)、回折ピークに指数を仮定して格子定数を求める方法(Werner et al., 1985)、格子定数を幅を持った領域として扱いその幅を半分にしてゆく方 法(Louer & Boultif,1991)などがあり、それに基づいたプログラムが発表され てきた。しかし、三斜晶系では指数が付かなかったり、候補がいくつも出てきて しまいどれが正解かわからないといった問題が解決できていなかった。本研究で は、新たな指数付けの方法として、格子定数を乱数を用いて仮定し、それをもと に観測された回折ピークに指数をつけることができるかを検討して判断するアル ゴリズムを考えた。このモンテカルロ法による格子定数の探索には、(1)アル ゴリズムが単純なため、プログラミングが簡単で保守も容易である、(2)各定 数を独立に検討できるので遺伝子アルゴリズムなどの他の方法と組み合わせて、 探索を効率化できる可能性がある、(3)探索する範囲全体の様子を最初に把握 することで探索範囲を絞り込み、効率的な探索が可能である、といった特徴が存 在する。検討すべき事項は、乱数によって仮定された格子定数を効率よく探査す るためにはどのような評価関数を用いるかということである。今回用いたのは、 (1)指数の付いたピークの数、(2)Q値の残差二乗和、(3)Q値の残差二 乗和の平均値の3つである。これらを用いてfortran90でプログラムを開発し比 較実験を行ったところ、Q値の残差二乗和の平均値での評価が最も良い結果が得 られた。このプログラムでは等軸晶系、正方晶系、斜方晶系の一部に対して指数 付けが可能であった。単斜晶系以下の低対称の試料についても同様の方法で格子 定数の探索が可能であるが、現段階では所要時間が現実的でないためプログラム の改良や計算機の高速化が必要である。