論文要旨 |
熱帯域の降水活動の放射冷却率鉛直分布依存性を水惑星実験によって調べた.
実験に用いた数値モデルは, 球面 3 次元プリミティブ方程式系に基づく地球
流体電脳倶楽部版 AGCM5 (地球流体電脳倶楽部, 1997) である.
実験は, 長波放射過程の乾燥大気の吸収係数を変えたいくつかの実験を積雲
パラメタリゼーションに Kuo(1974) と対流調節を用いて行った.
赤道上の特徴的な降水構造や循環構造の水平スケールや進行速度を明らかにす
るため, 赤道における降水, 地上気圧偏差, 対流圏界面付近の東西風偏差, ジ
オポンシャル高度偏差の時空間スペクトル解析を行った.
積雲パラメタリゼーションに Kuo(1974) を用いた実験では, 水平スケール
1000 km 程度の格子スケールの降水域と東西波数 1 の変調構造が見られる.
格子スケールの降水域は, 中層で放射冷却率の最大値を持つ実験では西進する
が, 上層で放射冷却率の最大値を持つ実験では東進する. 東西波数 1 の変調
は, どの実験でも東進する.
積雲パラメタリゼーションに対流調節を用いた実験では, 格子スケールの降水
域の西進の他に, 降水活動の活発な領域の東進が見られる.
格子スケールの降水域は, 放射冷却率を変えたどの実験でも西進する.
降水活動の活発な領域の東進は, 上層で放射冷却率の最大値を持つ実験ではっ
きりと見られる.
降水活動に東西波数 1 の変調構造を見付けることは難しい.
赤道上の降水構造に共通する循環場の特徴を明らかにするため, 降水量のピー
クに準拠したコンポジット解析を行った.
その結果, 特徴的な降水構造の生成とその速度と進行方向を維持するメカニズ
ムについて, 以下のように考察した:
1. 格子スケールの降水域の西進は, CIFK によって成長した対流雲によ
る降水域が基本場の西風に流されていることによると考えられる.
2. 積雲パラメタリゼーションに Kuo(1974) を用いた際に現れる格子ス
ケールの降水域の東進, 積雲パラメタリゼーションに対流調節を用いた際
に現れる降水活動の活発な領域の東進は, wave-CISK メカニズムよって維
持されていると考えられる.
3. 降水活動の東西波数 1 の変調の東進は, 東西波数 1 の循環場によって変
調を受けた結果である可能性が考えられる.
この循環場の東進は moist Kelvin 波と対応する可能性が考えられる.
積雲パラメタリゼーションに Kuo を用い, 放射冷却率が上層で最大
を持つ実験では, 格子スケールの降水域の東進は Numaguti and Hayashi
(1991a) と似た傾向を示す.
Numaguti and Hayashi (1991a) のモデルの放射冷却率の鉛直分布は, 上層で
最大値を持つ傾向にあった可能性が考えられる.
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