氏名 |
山本 悠
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論文題目 |
北海道日高山脈北部,パンケヌシ斑れい岩体千呂露川ルートにおける同位体比の垂直変化とその意義
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論文要旨 |
海洋性リソスフェアを新しく生産する中央海嶺下のマグマプロセスは未だ十分に解明
されてはおらず,昨年から開始されたIODPなどによって,研究の進展が望まれてい
る.さて,海嶺軸方向に沿ったマグマの地殻下部での側方移動は,セグメント構造の
形成や地殻の厚さに大きな影響を与えるものと考えられているが,深海に存在する海
嶺での直接観察は困難である.そこで,過去の海洋性リソスフェアであると考えられ
るオフィオライトの研究が重要となるが,キプロスのトルードスオフィオライトにお
いて構造岩石学的手法による解析がなされている例 (Abelson et al., 2001) がある
のみで,研究は全く不十分である.
北海道日高山脈に露出するパンケヌシ層状斑れい岩体は南北約30 km,東西約4 kmの
岩床状の岩体である.所謂オフィオライトではないが,厚さにおいて通常の海洋地殻
斑れい岩層に匹敵するものであり,構成岩相 (トロクトライト・かんらん石斑れい岩
・鉄斑れい岩など) やSr・Nd同位体比を含む岩石学的・地球化学的性質においても,
海洋地殻の斑れい岩層と大変良く類似しており,沈み込み帯に沈み込んだクラ-太平
洋海嶺の火成活動の産物であると考えられている (Maeda and Kagami, 1996).
森 (2000MS)・森ほか (2000) は,このパンケヌシ岩体の千呂露川ルートの,露出が
連続する層厚約500mの範囲において,幾つかの不連続を含む上下対称の構成鉱物化
学組成変化を観察した.さらに,その観察結果に基づき,層状構造にパラレルに側方
から3回に渡ってマグマがシル状に,間欠的に供給されたとするモデルを提案した.
ここで観察された岩石学的特徴は,海嶺軸方向に沿ったマグマの側方移動のアナログ
であるとみなされ,オフィオライトや深海底掘削によって得られた海洋地殻斑れい岩
層において,マグマの側方移動を検出するための重要な手がかりを与えるものと考え
られる.本研究の目的は,この上下対称の変化傾向がSr・Nd同位体組成においても成
立することを確認し,上記モデルをさらに検証することである.
今回,森 (2000MS)・森ほか (2000) によって構成鉱物の検討がなされた試料から46
試料を選定し,Sr・Nd同位体組成とRb・Sr・Sm・Ndの分析を行った.同位体岩石学的
議論は55 Ma (大和田ほか, 1992) で補正した同位体比を用いて行なわれた.但し,
15試料についてはRb・Sr・Sm・Ndの分析が終了しなかったので,分析した試料の
Rb/Sr比・Sm/Nd比を用いて暫定的な年代補正を行ない,議論に使用した.また,この
検討範囲内の試料を分析した倉本 (2003MS) のデータ (19試料) も議論に加えた.
森 (2000MS)・森ほか (2000) の上下対称構造は,最下部・最上部から中心部に向
かってGroup 1, Group 2, Group 3に区分されているが,同位体比においてもこれら3
つのグループ内の対応する部分は互いに同様の組成を示し,また各グループは概ね異
なった組成を示して他のグループから区別可能である.よって,途中に不連続を含む
上下対称の垂直変化は同位体比においても大局的には成立するとみなすことができ
る.ただし,Group 1は主に斜方輝石グラニュライトやざくろ石-斜方輝石グラニュラ
イト,鉄斑れい岩質グラニュライトなどの高度変成岩類から構成されていることが判
明したので,パンケヌシ斑れい岩体から分離し,貫入母岩ないしはその捕獲岩として
扱うのが妥当である.よって,今回の研究から,この約500 mの範囲は2度に渡るマグ
マの側方移動によって形成されたものと結論された.なお,同一グループ内では鉱物
の組成変化と同位体比の変化が同時に起こっており,同化作用と結晶分化作用が同時
に進行したことを示す.
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