白亜紀(65〜145Ma)は現在と比べて著しく温暖な気候であったと考えられており、
白亜紀中期から後期にかけては、最も温暖な時代であったとされている(Larson
R.L.,1991)。
その原因として、スーパープルームの上昇が大きく関与していると考えられている
(Larson R.L.,1991)。スーパープルームはコア−マントル境界で生じ、マントル全体
の対流によって上昇し地表に到達して大規模な火成活動を引き起こした。海嶺や海洋
火山の活動は活発化し、地下からは大量の二酸化炭素やマントル起源物質が地球表層
に供給された。そのため、当時の大気中の二酸化炭素濃度は非常に高かったとされて
いる(Berner,1983)。また、スーパープルームの活動による海洋地殻の生産量の増
加は、海水準の上昇の主な原因とされている。当時の海洋の平均温度は現在より13℃
高く(Larson et al.,1993)、全球の平均気温は22℃に達したと考えられてい
る。両極域には氷床が無くなり(ice free)、極域と低緯度地域の間の温度勾配は小さ
く、海洋の大循環が停滞したと考えられている。この時期海底では、広範囲にわたっ
て有機炭素に富む黒色頁岩層が形成された。この現象は海洋無酸素事件(Oceanic
Anoxic Event:以下OAEとする)と呼ばれている(Schlanger and Jenkyns,
1976)。
海洋無酸素事件(OAE)下で堆積した黒色頁岩層の堆積学的特徴と形成要因を探るた
めに、過去2億年間でもっとも温暖であった上部白亜系アルビアン階のPAQUIER層
(OAE1b)とKILIAN層(OAE1b下部)の解析を行った。本研究で使用した試料は、
OAE1bの解析のため岡田・坂本(岡田, 2002, 科研費報告書)らによって南フランス
のプロヴァンス地方で1998年に採集されたものである。本研究では、PAQUIER層から
KILIAN層を含む64mの範囲に及ぶMoriezセクションと、PAQUIER層・KILIAN層の連続試
料についての解析を行った。各層の詳細な解析に先立って、吉田(2002, 卒論)では
Moriez セクションに対して、真密度・全岩乾燥密度・孔隙率・全岩炭素量・有機態
炭素量・無機態炭素量・元素組成・鉱物組成の測定を行った。本研究では、PAQUIER
層とKILIAN層の連続試料に対して、蛍光X線地殻コアロガーによる元素マッピング・
有機炭素含有量と有機炭素同位体比・色濃度・全岩乾燥密度の測定を行い、その堆積
学的特徴を明らかにし、主に元素マッピングと岩相観察の対比からOAE1bの形成メカ
ニズムについて考察した。
その結果、肉眼ではラミナ1枚に見える層準の薄片を顕微鏡下で観察すると、ラミナ1
枚の境界部分では有孔虫が散らばって堆積しており、その境界が不明瞭な場合がほと
んどであった。また、KILIAN層では短い周期の堆積サイクルが多くみられ、PAQUIER
層よりも底層の還元環境と酸化環境の繰り返す時間が短かったと考えられる。
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