2003 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2004 年 2 月 4 日

氏名 吉山 泰樹
論文題目 白亜紀アプチアン初期の黒色頁岩Goguel層(OAE-1aイベント)の堆積学的特徴とその形成要因 及び 黒色頁岩の高解像度解析手法
論文要旨 本研究では、白亜紀の海洋環境・物質循環の解明を目的として、白亜紀の海洋無酸素 事変(Oceanic Anoxic Events : OAEs)と呼ばれる海洋が貧酸素な環境発生時に特徴 的に堆積する黒色頁岩を材料として、色と元素の高解像度分析を試みた。その結果、 従来1つのイベントとして考えられていた1億2千万年前の白亜紀初期アプチアンに発 生したOAE-1aにおける堆積プロセスを明らかにした。

本論で研究対象としたGoguel(ゴグエル)層準は、黒色頁岩層である。黒色頁岩は 「海洋無酸素事変(Oceanic Anoxic Events : OAEs)」と呼ばれる海洋が強還元な環 境に劇的に変化するというイベントの発生時に特徴的に堆積する堆積岩である。 Goguel層は1億2千万年前の白亜紀初期アプチアンに形成されたOAE-1aイベント発生時 に堆積したとされる層である。本論ではこのGoguel層準(約347cm)を研究対象とし た。

本試料は、温室期の海洋における生物生産ポンプと物質輸送の実態を明らかにすると ともに、白亜紀を対象にした高精度古海洋学の確立を目指すこと目的に、岡田・坂本 ほかにより2000年にフランス南西部プロヴァンス地方で採取されたものである。本研 究ではその目的の一環として、柱状図記載を行うことで、Goguel層準の堆積場の底層 環境を復元を目指し、深度ごとの色と元素の挙動を分析することで堆積した物質の有 機物含有量と供給源、堆積場の還元性を調べることを目的とした。

本研究で用いた試料である黒色頁岩は脆弱であるため、記載・測定を行うために樹脂 による固定を試みた。本研究では試料を樹脂に封埋し、その表面を研磨することで黒 色頁岩の固定を行った。この黒色頁岩の前処理手法は、世界でも例がなく、黒色頁岩 の高解像度用試料の前処理手法の確立を目指すことも、本研究の目的の一つである。 本研究では前処理として試料を樹脂封埋し、その表面を研磨することで、柱状図記載 及び元素組成分析、色分析に耐えうる試料を製作した。

前処理した試料を用いて詳細な柱状図記載を行い、Goguel層は、色が黒く葉理(ラミ ナ)の発達した層と、ラミナは見られないが生物擾乱を受けて色の黒い層、そして色 が白い層とに分類した。生物擾乱の度合いを詳細に柱状図に記載した。

色が岩相や構造とどのような関係があるのかを調べるために、デジタル土色計を用 い、研磨した試料表面の色を約1cm間隔で測定した。得られた岩相の色をLab表色系で 表現し、色の解析を試みた。

得られた結果と有機物量の関係を調べるために、有機炭素量を測定し、色データとの 相関をとると、有機物量が多いと色が黒くなる傾向が見られた。さらに構造と色を比 較すると、ラミナが発達た層と生物擾乱が盛んに行われた層では色が黒い傾向がある ことがわかった。

Goguel層準堆積時の物質の移動を調べるために、研磨した試料表面の元素分析を行っ た。元素分析では海洋科学技術センターの坂本竜彦研究員が設計・開発した蛍光X線 分光分析コアロガーTATSACAN−Fを用いた。本論ではこのコアロガーの装置特性、測 定誤差・定量精度についても検討し、測定の際には表面の平滑度が重要であること、 各元素の組成比がある程度の範囲ならデータとしての信頼性は保たれることが分かっ た。測定では測定間隔2mmの高解像度元素測定を行い、FeやSの挙動から、FeS2の存在 量を求め、当時の還元環境を考察した結果、ラミナの発達している時期は必ずしも還 元環境の極大期ではなく、むしろ弱還元的な環境であったこと、また、カルシウム (Ca)やシリカ(Si)アルミニウム(Al)で規格化した値はラミナにおいて増加して おり、ラミナにおいて生物起源物質量が非常に多かったことがわかった。

以上の結果から、Goguel層のGo-2の前後のデータの挙動に着目し、Go-2堆積当時の海 洋環境の復元を試みた。結論として、記載と高解像度の色・元素測定の結果から、 Goguel層においてラミナは豊富な有機物、弱い還元環境と砕屑物供給の減少という3 つの要因によって堆積するということが明らかとなった。