2004 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2005 年 2 月 2 日

氏名 赤間 秀俊
論文題目 有珠火山2000年新山周辺の地磁気変化
論文要旨 有珠山2000年噴火に伴って,西山山麓に新たな火口(新山)が出現した.その有珠山 西山火口域における地下浅部の温度変化を推定することを目的として,地磁気変化の 観測を行った.有珠山では,2000年噴火の際に佐藤他 (2002) による観測があり,噴 火の初期には熱消磁が起こっていたことが報告されているが,噴火活動に伴って観測 点が維持できなくなったため,以後,火口近傍の磁場観測は途絶えていた.本研究で は,新たに西山火口域に20点の繰り返し磁気点を設け,オーバーハウザー磁力計によ って全磁力変化を面的に検出できるようにした.今日までに,2003年11月と,2004 年 4月,7月,10月に2度,11月に2度の合計7回繰り返し測定を行った.それに加えて,火 口域の2地点で約1年間の連続観測を行なった.

観測の結果,大まかにみてNB火口の南側で全磁力増加が,北側では全磁力減少が捉え られた.もっとも単純な近似として,単一の球状領域の冷却帯磁を考えると,NB火口 より約100 m程度南西の深さ240 m付近に等価ソースが推定された.本研究の結果と, 佐藤他 (2002) の観測結果をあわせて考えると,2000年噴火の直前から4月中旬まで に,マグマの貫入に伴う熱消磁が起こり,その後は地下で冷却傾向に転じ,現在に至 っていることが推定された.

さらに,等価磁気モーメント変化量を用いて,いくつかの仮定の下に,ソースの冷却 帯磁に相当する熱エネルギー量の見積もりを行ったところ,22~44 MWと算出された. このエネルギー量は,森・鈴木 (2004) で推定されているNB火口からの噴気放熱量と ほぼ同程度であった.このことから,2000年噴火で新山直下に貫入したマグマは,周 辺の地下水を加熱・気化してNB火口から噴気として放出しつつ,それ自身は熱を奪わ れて冷却していることが示唆されるとともに,貫入マグマに対して新たな熱の供給は ないことが推定された.

観測点を拡充していくにつれ,上述の単一ソースモデルでは説明できない部分もある ことが明らかになってきた.特に,噴火後北西域に広がった地熱地帯では予想外に大 きな磁場変化が観測された.この部分の変化は,地熱地帯の直下にやや弱い等価ソー スをおくことで説明可能であるが,現時点では断定的ではない.

 観測領域は,顕著な地殻変動(2000年新山の沈降)を伴っているため,熱消帯磁の モデル以外にも,ピエゾ磁気効果の可能性をも検討したが,その可能性はほとんどな いことが結論された.また,沈降に伴う観測点位置の変化がどのように影響するかに ついても検討したが,フリーエア勾配を考える限り,その影響は無視できることがわ かった.

 一方,観測領域の北西縁に位置する2磁気点で,正負対になった大きな全磁力変化が 観測された.西山火口域の中心部からやや離れた領域内でこのような変化が観測され たことは,予想外であった. 今後の課題としては,北西部の噴気地帯に関連した大きな磁場変化の原因を究明する ことに加え,噴気以外のメカニズムによるエネルギー放出量についてもきちんと押さ えていく必要がある.佐藤他 (2002) に報告された2000年噴火前後の全磁力変化は, 本研究で推定されたモデルとの関係において再度吟味されるべきである.