レーダーによる降雨観測は時間的,空間的に連続したデータが得られる点で
広域の雨量観測に適している.これらは気象業務や水文業務に利用され,
また水循環の研究などにも重要な役割を果たす.
レーダーで直接観測されるのは雨量ではなく反射因子であり,
雨量を見積もる際には一般的に反射因子(Z)と降雨強度(R)の関係である
経験的なZ-R関係を利用する.しかしZはRではなく降雨の雨滴粒径分布によって
決定されるものであるので,ZからのRの見積もりには不正確さを生じる.
さらに電磁波の伝播途中での減衰の影響により過小評価されてしまうため,
Z-R関係から正確にRを見積もるのは難しい.そこで本研究ではそれらの影響を
解消するため,パラメータ間の関係を規格化し,さらにZ-A関係により
減衰係数(A)を加味してRを求めることを試みた.
本研究で開発されたリトリーバル手法は2波長レーダーによってRを見積もる
ものである.このリトリーバルに必要な粒径分布の規格化はTestud et al.(2001)
の方法に基づいている.そこで,地上で観測された粒径分布を用いてZ-A,Z-R,
A-Rのパラメータ間の関係式を求めることを行った.これらの関係式は規格化
された粒径分布の切片パラメータであるN0*を使って規格化されたものである.
この規格化によりパラメータ間の関係の不正確さを減少させることができる.しかし
短い波長では粒径分布のモーメントの影響がはっきり現れてしまうため,短波長
レーダーではあまり適さない.
リトリーバルの際,さしあたってN0*は鉛直プロファイル内で一定であると
仮定して計算した.実際のレーダーデータを用いる前にテストデータを作り,
検証を行った.テストデータはまずRとN0*を与えてZとAを求め,減衰を考慮した
観測値Zaを計算して作成した.そして今度はZaの観測データからリトリーバルを
行い降雨強度を求めた.その結果,従来のZ-R関係を使う方法と比べてかなりよく
Rを見積もることができた.ただし,この方法では高度が高くなるにつれて減衰の
誤差が積み重なるため,高高度ほど誤差が大きくなる.
また,本研究ではN0*は高度によらず一定であるという仮定をしているが,
N0*が高度によって変化する場合にもたらす影響もテストデータを作って検証した.
その結果,N0*の分布の様子によってN0*の計算値やRの分布の様子が異なることが
わかった.
地上レーダーを使用して鉛直プロファイルを求める際にはノイズなどの影響に
より地上付近でのデータは得られない.そこでデータが得られない範囲ではRが
一定であると仮定し,地上の雨量計で得られたRを与えることでリトリーバルを行う.
そうすることにより,データが得られない範囲を仮定するRの状態によって誤差が
変化するものの,小さな誤差でリトリーバルを行うことができた.この
リトリーバル法は十分な精度で降雨強度を求める事ができるのが実証された.
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