十勝岳火山群は北海道中央部,大雪―十勝火山列の南西端を占めている.十勝岳火山群の活動は現在でも続いているが,その最近の活動の中心が火山群の中央部に位置
する十勝岳火山である.十勝岳火山は20世紀中にも3度の噴火を起こしている,非常に活動的な火山である.しかしこのような活発な火山であるにもかかわらず,これま
で本火山に対してはその詳細な噴火史が編まれてこなかった.火山に対して過去の活動履歴を解明することは地下のマグマの状態を知り,また今後の中・長期的な活動予
測を行う上で基本的かつ重要なデータとなる.このことを踏まえて本研究では十勝岳火山の最近約3000年間の活動に対してその詳細な噴火史を構築することを目的とし,
調査・分析に当たった.その結果本火山は噴出火口を変えながら,爆発的噴火と溶岩流出を現在まで繰り返してきており,これらの火口ごとの活動にほぼ対応した4つの
ステージに大別されることが明らかとなった.
十勝岳火山の最近の活動は1万年以上の休止期を経て約3000年前から始まった.そして最近約3000年間の活動によって山頂北西部には複数の火口が形成された.これら
の本質岩片の全岩化学組成を分析したところ,給源となる火口によって特有の組成領域を占めることが明らかとなり,この岩石学的データを地質学的データに加えること
で噴出物のより確実な対比が可能となった.このようにして噴火層序を確立していった結果,本火山の活動は火口ごとの活動にほぼ対応した,4つのステージ(グラウン
ド火口ステージ,北西火口群ステージ,中央火口ステージ,最新期ステージ)に大別できることが新たにわかった.そしてそれぞれのステージに共通して,爆発的噴火に
始まり溶岩流出で終わるという一定の噴火様式の推移パターンが見られる.爆発的噴火について見ると,そのタイプはスコリア質の降下火砕岩が多くを占める.しかし,
グラウンド火口ステージでは降下火砕岩とほぼ同時に堆積物として残るような火砕流が唯一発生している.また堆積物の特徴から,このグラウンド火口ステージの爆発的
噴火により山体崩壊が発生した可能性がある.溶岩流はすべてアア溶岩からなり,共通して北西方向に向かって流下している.
最近約3000年間のマグマの総噴出量は約0.1km3 DREであり,噴出率は約0.3 km3 DRE / kyrである.各ステージについて見てみると,噴出量は最初のグラウンド火口ス
テージが最も大規模であり,その後徐々に規模は衰えてきている.また本火山の20世紀の活動は爆発的噴火で特徴付けられ,特に1962年のサブプリニー式噴火では過去の
中央火口ステージの爆発的噴火に匹敵する規模のマグマが噴出している.したがって現在はこれまでの活動から推察すると,ステージ内の爆発的噴火の段階にあると考え
られる.
本火山のマグマ供給系について考えると,その記載的特徴から噴出物はマグマ混合に由来していると考えられる.さらに,これらの全岩化学組成は摺鉢火口噴出物を除
けばハーカー図上でほぼ一直線状のトレンドを描く.したがって本火山のマグマの多くは,カンラン石の有無によって識別される苦鉄質マグマと珪長質マグマの2端成分
のマグマ混合によって説明が可能である.そして摺鉢火口噴出物を無視するとグラウンド火口ステージの終了を境にして全岩SiO2含有量の最大値が約5wt.%低くなり,か
つすべての噴出物にカンラン石が含まれるようになる. 以上のことから本火山はグラウンド火口ステージを経て,珪長質端成分マグマの関与が小さくなったと考えられ
る.
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