論文要旨 |
北海道は, 東北日本弧と千島弧の会合部に位置する. 中新世には, 東北日本弧と千島弧の衝突に加え, 日本海とオホーツク海の背弧海盆形成など, 活発な
テクトニクス場にあったと考えられている. 前期〜中期中新世における北海道の火山活動は, 西南北海道が中心であるが, 北海道中央部においても, 小規模な火山体や貫
入岩体が分布する. この時期には, これより東部に火山活動は見られない. 火山岩の分布や噴出量から, 火山活動は日本海側を熱源とし, 背弧海盆形成に伴う火成活動と
大きく関わっていた可能性がある(廣瀬・中川, 1999). よって, この火山活動は, 背弧拡大のメカニズムを解明する鍵となることが期待できる. 本研究では, 北海道中央
部の火山岩の地球化学的特徴から, そのマグマ源を検討し, 日本海拡大時期のマントル構造を解明することを目的としている.
北海道中央部の火山岩及び半深成岩は, 苦鉄質岩(SiO2<60 wt.%)と,珪長質岩(SiO2>70 wt.%)からなり, バイモーダルな特徴を示す. 苦鉄質岩として, 玄武岩, 粗面玄武
岩, 粗面安山岩, 安山岩, ランプロファイアが産出し, 珪長質岩として, 流紋岩が産出する.
典型的な島弧型である北海道の第四紀火山と比較すると, 本地域の苦鉄質岩の全岩組成は, TiO2, Nb, ZrなどのHFS元素に富む. その他の微量元素では, 非島弧的性質が
強いものから島弧的性質を示すものまで多様性が見られる. 希土類元素パターンにも多様性があり, 浦河ランプロファイア(以下UL)ではLa/Yb~60に達する. Sr, Nd同位
体組成では, これらの苦鉄質岩は, 枯渇マントル(DMM)と肥沃なマントル(EM1)を結ぶマントルアレイ上にプロットされ, 枯渇したM1-グループ, 肥沃なM2-グループ, EM1
成分に近いULの3グループに分類される. M1-グループは, UL以外の中軸部に産出し, M2-グループは西部に産出する.
火山岩の同位体組成は, 大陸地殻が同化する影響により, 火山岩が持つ初生的な同位体組成から大きく変わってしまう可能性がある. しかし, 北海道中央部の苦鉄質岩に
は, SiO2量と同位体組成の明瞭な相関関係が見られないので, 同位体比の多様性の原因としては, 地殻物質の同化作用は考えられない. 従って, 各グループの同位体比の
多様性は, マントル物質の不均質を反映していると考えることができる. Ba/Y-同位体組成図では, 本地域の苦鉄質岩は, DMM, EM1成分, サブダクション・コンポネント
の3端成分の混合によって導くことができる. このことから, DMMとEM1成分が混合したマントル物質に, サブダクション・コンポネントの付加が起こったと考えられる.
M1-グループは, DMM成分の割合が大きいマントルに, サブダクション・コンポネントが付加したもの, M2-グループはEM1成分の割合が大きいマントルにサブダクション・
コンポネントが付加したものと考えられる.
珪長質岩についても, 同位体組成によってM1-グループに近いS1グループと, M2-グループに近いS2グループの, 2グループに分けられる. 両者はそれぞれ, 大陸地殻物質
の組成に影響をうけた同位体比を示す. このことから, 珪長質岩は, M1-グループとM2-グループの組成を持つ玄武岩質マグマの地殻同化分別結晶作用によって, それぞれ
の珪長質岩が形成されたと考えられる.
以上から, 前期〜中期中新世の北海道中央部のマグマ起源には, DMMとEM1成分, サブダクション・コンポネントが関与していることが明らかになった..
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