論文要旨 |
高ヒマラヤ帯はMCT帯にそって下盤の低ヒマラヤ帯に対して
140km以上衝上している(Schelling and Arita, 1991)。従来は、高ヒマラヤ帯は低ヒ
マラヤ帯の基盤であり、MCTに沿って上昇してきたインド基盤であると考えられてきた
(例えば、Gansser, 1964)。しかし、近年高ヒマラヤ帯の起源に関して、様々な議論
がある。
ネパールヒマラヤ全域にわたって、低ヒマラヤ帯と高ヒマラヤ帯の変成岩類のSr-Nd同
位体比に関して、系統的に違いがあることを示した。特にNd同位体比に関して、低ヒ
マラヤ帯変成岩類(εNd=−19から−26)と高ヒマラヤ帯変成岩類(εNd=−10から
−18.5)は明瞭に区別できる。また、高ヒマラヤ帯変成岩類は低ヒマラヤ帯に比べて
、Sm-Nd モデルTDM年代で平均400m.y.,TCHUR年代で平均550m.y.程度若い。これらの
ことは、高ヒマラヤ帯がインド基盤ではない(Parrish and Hodges, 1996)ことと調
和的である。Main Central Thrust (MCT) 帯変成岩類のNd同位体比(εNd=−19.5か
ら−26)は、低ヒマラヤ帯変成岩類と同様の領域にプロットされる。Zr-Nd同位体比図
において、その傾向はより顕著に認められる。ヒマラヤ全域にわたり、MCT帯変成岩類
は高ヒマラヤ帯変成岩類と明確なギャップを示す。このことは、MCTの形成過程に重要
な束縛条件を与えることができる。
一般に不均質な物体にせん断応力が働くと力学的に異なる境界にせん断面ができやす
い。ヒマラヤ全域にわたり、高ヒマラヤ帯と低ヒマラヤ帯が不整合な堆積関係(Parr
ish and Hodges, 1996)だったとすると、不整合面は削剥・侵食作用による程度の違
いのために大規模な凹凸面をもつと考えられる。そのため、東西2,000km以上にもお
よぶMCT(せん断面)が不整合面から形成されたとすれば、MCT帯変成岩類は両起源(
低ヒマラヤ帯と高ヒマラヤ帯)の岩石が混入する可能性が高い。しかし、上述のよう
に、Nd同位体比およびSm-Ndモデル年代によると、ネパールヒマラヤの広域(東
西約800km)にわたって、MCT帯変成岩類は高ヒマラヤ帯変成岩類と明確なギャップを
示し、低ヒマラヤ帯変成岩類と同様の領域にプロットされる。このことは、MCTは低ヒ
マラヤ帯と高ヒマラヤ帯の物質境界であることを示唆している。このような広域にわ
たりせん断面が物質境界となるためには、MCT(せん断面)はかつての衝突境界の再活
動により形成された(DeCelles et al, 2000)と考える方が調和的にみえる。
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