下部マントルの構成物として関係の深いCaSiO3-FeSiO3系ペロブスカイトの高温高圧
下における相関係と構造変化について,レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセル
(LHDAC)による高温高圧実験,放射光によるX線その場観察実験,そして分析透過電
子顕微鏡(ATEM)によって研究した.
今回の研究は,特にCaSiO3ペロブスカイトへのFe成分の固溶とそれに伴う構造変化を
調べる事を目的とした.出発物質として主にCaSiO3-FeSiO3系のゲルを用いた.LHDAC
実験では,20〜137GPaに加圧し,YLFまたはYAGレーザーを照射して2000Kで加熱し
た.生成物については、高エネルギー研のBL-18CとBL-13A,そしてスプリング8の
BL-10XUでの放射光によるX線回折実験を行なった.
放射光による高温高圧X線その場観察実験では、端成分CaSiO3を出発物質とした場
合は本実験条件においてCaSiO3ペロブスカイトのみが生成していた.また端成分
FeSiO3を出発物質とした場合は97GPaまで新たな相は生成せず,SiO2とFeOの 2相が生
成していた.そして中間組成Ca0.5Fe0.5SiO3を出発物質とした場合は圧力30〜137GPa
の範囲で, (Ca,Fe)SiO3ペロブスカイト,FeO,SiO2の3相共存していた.
CaSiO3ペロブスカイトへのFe成分の固溶限界を調べるため, 40と60GPaにおいて出
発組成を変え,放射光によるX線回折実験で生成相の変化を調べた.出発組成
CaXFe1-XSiO3において,両圧力ともにX≦0.85の時に,CaSiO3ペロブスカイトに加え
てSiO2とFeOの相が生成していた.しかしX≧0.90になると,CaSiO3ペロブスカイトの
みであった.この事から40〜60GPaにおいてCaSiO3ペロブスカイトへのFe成分の固溶
限界は10〜15mol%である事が分かった.また40GPaの試料を回収後,ATEMで組成分析
を行った所,Fe成分の固溶量は約11mol%となっており,X線回折実験の結果と一致し
ていた.さらに(Ca,Fe)SiO3ペロブスカイトとスティショバイトのX線回折ピークの強
度比を調べた所,圧力が高くなるにつれ,僅かながらスティショバイトのピークが弱
くなっていることが分かった.この事から圧力が高くなるほど,僅かながらではある
がFe成分の固溶は増加すると考えられる.
また(Ca,Fe)SiO3ペロブスカイトは〜60GPa,2000Kの高温高圧下で立方晶系であっ
た.しかし137GPa,2000Kになると,(Ca,Fe)SiO3ペロブスカイトを正方晶系として格
子定数を精密化すると,立方晶系として格子定数を精密化するよりも誤差が小さく
なった.また低い圧力におけるペロブスカイトの(200)と(110)の半値幅と比較し
て,137GPa,2000Kにおける(Ca,Fe)SiO3ペロブスカイトの(200)ピークの半値幅が
(110)のピークと比べて異常に広がっており,ピークがスプリットしていると考え
られる.これらの事から,137GPa,2000Kでは正方晶系へと構造変化が起こっている
と考えられる.
(Ca,Fe)SiO3ペロブスカイトの常温下での圧力と体積の関係を調べた所,端成分
CaSiO3ペロブスカイトの圧力と体積の圧縮曲線上にほぼのっていた.この事から,
100GPaを超える圧力まで,Fe成分の固溶は(Ca,Fe)SiO3ペロブスカイトの常温での圧
縮率にほとんど影響を与えないと思われる.
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